みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
活動③(追跡)

白神山地の森に危機迫る④ 2020年夏、ナラ枯れの被害収まらず

盛夏の8月半ばの裏山。ナラ枯れが去年より広がっているように見える=2020年8月12日、深浦町で

戦没者のご遺族を訪ねた北海道の旅から帰還したお盆休みの朝、散歩がてらに見上げた裏山の変容に驚きました。ナラ枯れがまた、猛威を振るっているのです。カシノナガキクイムシによる被害なのですが、今年になっても収まる気配がなく、麓から山頂部へ広がり、渓流に沿って森の奥へ進んでいます。(文・浜田律子、写真・浜田哲二)

 昨年の8月末の裏山。この森でのナラ枯れを目視で初めて確認=2019年8月30日、深浦町で

林野庁や青森県などがここ数年、地元の市町村と協議会を作って対応にあたっています。でも私たちの目視では、被害を抑えるまでに至っていないように感じます。高齢木や大径木を伐採して、虫による食害と病害が広がらないよう対策していますが、どれだけの効果があるのか計り知れません。

ナラの木の根元に散らばった虫害によるフラス=2019年8月30日、深浦町で

心配されるのは、世界自然遺産地域の白神山地への拡大です。コア地域と呼ばれる場所にはナラの木はあまり自生していないので心配はない、という声もありますが、遺産条件を構成する一員である野生動物への影響が懸念されます。

    クルミの幹に忍者のように張り付いたニホンリス

夏から秋にかけて実るナラのドングリは、同山地周辺に生息する生き物たちの貴重な食料になっています。クマやサルなどの大型哺乳類から、リス、ネズミなどのげっ歯類も好んで食べているようです。

    まだ青いクルミをかじるのが愛らしい

これらを鑑みると、病虫害で枯死するだけでなく、防除のために高齢木や大径木を切ってしまうと、野生動物たちの食べ物が大丈夫なのか、との心配も出てくるのです。専門家の一部から、ブナの実やその他のドングリがあるから、との指摘も聞きました。

   リスを狙ってやってきたクマタカ。自宅から百㍍ほどの林縁で

が、昨年、私たちが暮らす集落で起こった数々の異変と照らし合わせると、納得が行く答えになりきらないのです。自宅の前で親子連れのクマに襲われた大先輩。顔などに大けがを負って、今も後遺症に苦しまれています。

    飛び立つ瞬間、近すぎて翼が切れてしまった

そして、我が家の庭先にあるクルミや臨家の裏にあるクリの木などに登って、「ボリ、ボリ。ガリ、ガリ」。まだ青い実をむさぼり食うクマの親子が、毎日のように出現しました。裏戸を開けたら二頭の子を連れた母熊と鉢合わせした先輩も。

    枯死したナラの木

過疎と限界集落化が進む深浦町では、若者の都会への流出が止まらず、五割近い住民が高齢者です。そんな近所のお年寄りたちは、安心して集落内を歩けないし、近くの畑にも行けない、と恐怖で顔を引きつらせています。

   カシノナガキクイムシにやられて穴だらけになった幹

マタギの親方と一緒の狩猟へ参加するため、私たち夫婦もワナの免許を取得しています。そのため、熊の害獣駆除に加わるよう指令が届きました。鉄砲も持っていない素人夫婦に何が出来るのか不安でしたが、捕獲檻を使った箱罠でのお手伝いをすることに。

   朝日新聞のドローンによる撮影も案内した

集落の外れや裏山の獣道に捕獲檻を置きます。当然、ロボット・カメラを仕掛けて。すると、入るはいる。二頭のコグマを連れた母クマが数組、単独の雄クマが数匹、わずかの期間内に捕らえられました。怖々見に行くと、不謹慎にも子グマは可愛くて、可愛くて……

   捕獲された子グマ。切なげに母を呼んでいた

    檻から出たがる子グマ

鉄製の檻の強度を信じて近づくと、鉄格子の奥へ後退りして、甘えたような小声をあげています。お母さんクマも、私たちから目をそらすように下を向いたり、檻の外へ視線を向けたり。と、気を抜いた私が背中を向けた途端、「ガォー」の咆え越えと同時に、「ガッシャーン」と檻が揺れました。

    檻に入った三頭の親子グマ

なんと、さっきまで気のない素振りだったお母さんが、私に向けて飛びかかって来たのです。あまりの恐怖にすくみ上りました。鉄砲を持った猟友会の方々が、「背を向けると問答無用で襲い掛かって来る。油断大敵だよ」と戒めるような口調で諭して下さいます。

    捕獲された雄クマ。鉄格子越しに爪を立てて、飛びかかって来た

檻の中では気弱そうで、小さく見えていた母クマ。それが、入り口の鉄格子に足を掛けながら血走った眼で私を睨めあげて、「ゴフ、ゴフ」と息を荒げます。怖い、こんなのに襲われたらひとたまりもない。

親を亡くした子グマが今春、枯れ草に包まるように事切れていた

 生後一年近く過ぎていたが、体重は10kgにも満たなかった。何とか冬は越せたが、春は遠かった

しかし、自由を奪われた親子クマは、駆除される運命です。猟友会の皆さんが、安全を確保しながら銃をかまえます。「バーン」。森中に響き渡る銃声と火薬の匂い。さっきまで、ウロウロしていた親子が事切れていました。人を襲ったかもしれない親子、怖いけど、なんか可哀想……

 クマ騒動でのパトロール中、繁みから顔をのぞかせたニホンカモシカ

    林道を飛ぶように横切った

複雑な気持ちで遺骸を片付けて、また新たに仕掛けます。もう人を襲わないで、そして檻にも入らないで、と祈りながら。でも、猟友会のメンバーが帰ってしまうと、急激に心細くなり、恐怖感が募ってきます。私たちには向いていないなぁ、と夫婦で顔を見合わせました。

    ナラ枯れの木を撮影するNHKのカメラマンさん

白神山地周辺のナラ枯れが、クマやその他の野生動物へどんな影響を与えているのかは不明です。しかし、山々に真夏の紅葉が広がり始めてから、生き物の異常行動が目立ち始めました。リスもクマタカも、こんなに民家に近い場所で目撃されることは今までなかったからです。

    クルミの木を訪れたアオバトの夫婦

そして、何よりも心配なのはクマです。この集落に暮らす90歳を越えるおばあちゃんが、「こんな経験は初めて。怖いねぇ、安心して道も歩けないよ。でもクマも捕まったら殺されるんでしょう。それも気の毒だね」と俯きます。もう人に近づきすぎないでね。でも今年も食べ物がなければ、森から出てくるのかな。ほんとに切ないよ。

    枯死したナラの林

白神山地の森に危機迫る③ キャンプでの小学生や大学生の感想

    海岸の清掃に臨む

深浦小学校6年 詩愛さん

 私はスタディーキャンプの参加は2回目でした。そして学んだことは「ナラ枯れ」の木を見たことです。私はかれている木を早い紅葉だと思っていました。でもそれは「カシノナガキクイムシ」にやられてそうなっていることを知りました。そしてもう少しすると白神山地まで届いてしまうと言っていたので心配です。でも世界自然遺産から外されるのもいやだからかれてほしくないと思いました。

 後はきなこもちです。大豆は最初かたくて食べられなかったけど最後はとてもおいしくてみんなおかわりしていたので私も家でやってみたいです。友達ともたくさん遊びました。風船バレーや、恋話、こわい話と温泉にも行きました。スタディーキャンプにきて良かったしまた今度来たいと思いました。知らなかったこともたくさん知れたしとても楽しかったです。

         仲間たちとのひととき

いわさき小学校6年 佑奈さん

 昨日夜ご飯にカレーライスを作りました。もういらなくなった野菜で作って、「こういう作り方もあるんだぁ~」と思いました。

 そして、キレイな紅葉だと思っていたのが、まさか全部枯れていたなんて知りませんでした。カシノナガキクイムシには体の中の菌を木に感染させるのに驚きました。初めてその虫の名前を聞いて怖かったです。

 初めてだったので緊張したけど、大学生の人達がみんな優しくて、キャンプも楽しく過ごすことができました。こわい話や恋話、人狼をやって楽しい思い出を作ることができて良かったです。

    ナラが枯れた山の斜面

深浦小学校6年 涼さん

 私はこのスタディキャンプに参加したのは3回目です。昨年も大間越でキャンプをし、海岸清掃をしたり、シーグラスを拾ってアクセサリーを作ったりしました。今年も自分たちが何をしたらこの自然を守れるかなどを改めて考えたり、いらなくなったものをリサイクルしてアクセサリーにしたりしました。

 初めにナラ枯れを見ました。私はそこまでしっかりと森を注目してみていませんでした。でも今回、森を改めてみていると、一部分だけが赤くなっていました。近くで見ると葉がないものや、枯れてしまっているものが多かったです。それはカシノナガキクイムシが菌をもって木に入っていることがわかりました。だから、それをなくすために、キツツキなどの鳥に虫を食べてもらい、この虫を減らそうと考えていました。

 私が一番楽しかったのはシーグラスなどを使ったアクセサリー作りです。色が全然ちがうものはくっついたりしにくいということが分かりました。

 そして、ずっと倉庫にあった大豆をきなこにして、きなこもちを食べたのも美味しかったし楽しかったです。

残暑の浜でも笑顔で

いわさき小学校6年 百華さん

 最初に海岸清掃をしました。ゴミがたくさんありました。シーグラスを探したけど少ししか見つけられませんでした。

 一番びっくりしたことは、山にある赤っぽくなっているところは紅葉ではなく、枯れ木だということがわかりました。カシノナガキクイムシは体の中に菌をとり、それを木の中に入れてどんどん菌も増やし、卵も産みます。生まれたカシノナガキクイムシはその菌を食べて育つということがわかりました。あとキクイムシがいる木の下には木のカスが落ちているということもわかりました。

 朝ご飯にはパンにハムや野菜を自分で挟んで食べました。コーンスープも飲みました。その後アクセサリーを作りました。おそろいのものやおきものを作りました。

 昼ご飯は中華麺のたれを作って食べました。細かい調節が必要でとても難しかったです。きなこを作って食べたきなこ餅。とても美味しかったです。この後のBBQも楽しみです。

フードロスの活動

深浦小学校6年 結愛さん

 今回でキャンプに来たのが3年目です。毎年毎年、訪れる大学生が違っていて、毎回、面白いです。ただ、一日しか滞在できなくてさみしかったです。

 今年、一番面白かったのはシーグラス探しに行く事でした。ひとつ探せず残念がっていると、大学生のみきてぃが、「手を開いてごらん。ほら、あ・げ・る・よ」と優しく声掛けしてくれ、とても嬉しかったです。

 ごみを拾い、良い環境を少し作ることができました。たくさんの大切さについて大学生に教えてもらえて、良い機会になりました。最近遊ばないメンバーとも仲良くできてほっとしました。夕食を作るのも班のみんなが協力して、おいしい、おいしい食事ができて本当に良かったです。

 シーグラスは作れなかったけど、目にする事ができたのが嬉しかった。次の機会こそ、作れるようにしたいです。来年は来れないと思うけど、今回だけでも十分に楽しかったので最高の思い出を作ることができました。たくさんの大学生とも仲良くなれました。

ブイを使った鳥の巣箱の説明を聞く

いわさき小学校5年 結月さん

 がんばったことは海岸清掃です。私はみきてぃとやりました。掃除ではプラスチックやペットボトルをすすんで拾って袋一杯に集められました。シーグラスを拾う時は水でぬれているところをいっぱい探しました。そしたら5、6個見つけられたので嬉しかったです。

 そして、帰ってきてから料理をしました。カレーの担当になったので外で野菜を洗いました。その次に皮をむきました。私はにんじんをむきました。その次に野菜を切りました。にんじんを3本切りました。うまく切れたので良かったです。カレーのルーを入れました。集中していたら一人でやっていました。

 夕方にお風呂に入るため、温泉施設のハタハタ館に行きました。ゆめさんやりょうさんと一緒に行きました。帰りの車ではゲーム遊び。「バナナといったら」というゲームをやりました。とてもおもしろくてお腹が痛くなりました。その次に「たべものといったら」というゲームをしました。その中で「タピオカ」が出てきました。すごくおもしろくてお腹がまた痛くなりました。

 そして、みんなでご飯を食べました。その後、みきてぃと一緒に動画を見ました。「みなみ」や「になこ」などをみました。とても楽しかったです。初めてだったけどいい一日でした。

袋いっぱいのゴミを拾って

いわさき小学校6年生 あかねさん

 スタディキャンプをして山の木が赤くなっていることを知りました。それは「ナラ枯れ」。カシノナガキクイムシという虫のせいで枯れていたことを知りました。私はその虫のせいで、森がおかしくなり、世界遺産から外されるかもしれないと聞きました。もし外されたら、将来は誰も来たがらない過疎の町になってしまうのかな、と焦りました。

 大学生たちが、鳥に虫を食べさせて虫を減らしていければ、と話していました。いろいろと仕掛けを作るなどして、よく考えたなと思いました。

 1日目や2日目で大学生たちとたくさん話をして、来たときよりも仲良くなれたのでうれしかったです。皿洗いをしてくれたり一緒に遊んでくれたりした大学生たちに、感謝の気持ちでいっぱいです。

お餅美味しいね

いわさき小学校4年生 凜華さん

 山にある赤くなった木を紅葉だと思っていたら、それがナラ枯れだということを知りました。その原因は、風に乗って移って来たカシノナガキクイムシが、ミズナラなどの木に穴をあけます。そして、木が枯れてしまうと、白神山地全体にも虫が広がりそうで、大変なことだと思いました。

 みんなで風船バレーをして楽しかったです。

手作りのきなこの香り

いわさき小学校6年生 ゆなさん

 スタディキャンプで勉強したことは山の木のことです。風で虫がとんできて木を枯れさせてかわいそうです。

 次に海で海岸清掃をして、ごみは少なかったけど疲れました。外国からのごみが多かったです。海で拾ったガラスは、800度以上まで温度を上げないと溶けないことが分かりました。

 アクセサリー作りはちょっとむずかしかったけど、なんとか4つできたので良かったです。

 おやつ作りでは、きなこをすりつぶすときちょっと力が必要でした。おいしかったです。来年もまた来たいです。

仲間たちとアクセサリーを見る

能代松陽高校3年生 棟方みなみさん

 私は3回目のキャンプで、後輩のゆめちゃんとりょうちゃんと再会することが出来、とても楽しく交流できました。

 近年問題になっているカシノナガキクイムシによる菌で、ナラ枯れを起こしてしまった木を近くで見ると、健康な木にはない穴や木くずがたくさん落ちていて、民家の近くまで被害が広がっていたのでとても深刻だと思いました。

 この菌と虫の被害をどうすれば、他の生物や植物などにも影響なく駆除できるのか、自分でも考えてみたいと思いました。秋田県八峰町の岩舘でよく見ていたナラ枯れが、大間越にも広がってきているのは少し悲しいです。

 初日のごみ拾いでは、中国語やハングル文字がかいてあるごみをたくさん見つかったし、漁業関係のものが多かった気がします。自分はごみを捨てないという当たり前のこと守っていきたいです。

 シーグラスづくりでは琉球ガラスや、海に落ちているシーグラスを組み合わせてとてもきれいにできました。スタディキャンプではみんなと交流することができて、自分の地元についても考えることが出来ました。

後輩と一緒にきなこ作り

木造高校深浦校舎3年 上杉かえでさん

 私は初めてのキャンプで、予想以上に楽しく過ごすことが出来ました。同級生のみなみさんとも久しぶりに会えたし、後輩のりょうちゃんとゆめちゃんとも仲良くなれて嬉しかったです。

 海岸を掃除したりナラ枯れの問題に取り組んだり、星座の話やシーグラスでのアクセサリー作りなど、楽しく勉強になることが盛りだくさんで、自分の地元のことをより深く知ることが出来ました。

 近年、問題になっているというカシノナガキクイムシが増えるとせっかくの世界遺産が破壊されてしまうので数を減らせるように鳥たちに頑張ってもらいたいです。

 来年からは仙台に行ってしまうので参加をすることは難しくなってしまうと思いますが、機会があれば参加をしてみたいなと思います。

 みんなで作ったカレーやポテトサラダ、きなこもちもすごくおいしかったし、参加をして本当によかったと思いました。

 自分たちの地元の自然を守るためにどうすればいいか、これからじっくり考えていきたいと思います。シーグラスで作ったアクセサリーも予想以上にかわいくできたので満足です。

 みんなで昼食

東京家政大学 3年 中野美樹

 今回、9月7日と8日の2日間にわたり、青森県深浦町にて地元の小学生とともにビーチスタディーキャンプを行いました。私はキャンプの前日から準備に携わらせて頂きました。準備段階や当日子供たちと触れ合いながら2日間を通して感じたことや考えたことを綴ります。

 スタディーキャンプでは大きく2つのテーマを元に子供たちと共に楽しく学びを深めることができました。1つ目のテーマは捨てるはずであったものや捨てられているものの再利用や再使用についてです。内容としては、海辺でシーグラスを拾いアクセサリー作りを行ったり、地元の方から頂いた野菜や倉庫に眠っていた大豆を使ってカレーや黄粉もち作りを行いました。そして2つ目は白神山地でここ数か月前から顕著に被害の広がりを見せている「ナラ枯れ」についてです。

 始めにスタディーキャンプの準備では、初めてアクセサリー作りを体験させていただき、浜辺に落ちていたシーグラスが輝きを見せていてとても驚きました。そして、シーグラスを選んでアクセサリーを製作してみて率直にとても楽しかったです。以前は、何か問題について考える時は、始めに現状を知った上で「どうしたら良くなるのだろう」「今私たちにできることは何だろう」と向き合うことが大切だと考えていました。勿論、問題がなぜ起こり、どうしたら良くなるのか考えることは問題を知り、学ぶ材料となると思いますが、「楽しむ」ことでそこから何かを感じることも学びの大切な材料だと感じました。当日、子供たちとアクセサリー作りをする中で、「こんな形のシーグラスを見つけたよ!」「このシーグラスはこのアクセサリーに使おうかな!」など目を輝かせながらお話ししてくれる子供たち。そしてカレーと黄粉もち作りでは、夢中になって調理に取り組む姿。何より楽しそうにしている子供たちの様子を見て、スタディーキャンプを行う意義について自分なりに考えてみるきっかけとなりました。

 そして、「ナラ枯れ」については、現地に到着して浜田さんや地元の自然に詳しい社会人の方のお話を伺う中で白神山地の自然が脅かされている現状を知り、とてもショックを受けました。そして同時にこのスタディーキャンプを通して子供たちに地元で起きている「変化」に目を向けるきっかけに繋げていきたい、自分なりの言葉や接し方で子供たちに「楽しむ」気持ちを大切にしながら学んでほしいという想いが強くなりました。スタディーキャンプ当日は子供たちが真剣な眼差しでナラ枯れの説明を聴く姿がとても印象的でした。また、ナラ枯れが進んでしまうと白神山地に棲む動物たちの生活にも影響が出てしまうお話をすると、「この動物かな?」と子供たちがたくさんの動物の名前を挙げている姿も見られました。

 ナラ枯れに対して自分たちが出来ることとして、浜辺に落ちていたブイを加工して作った鳥かごを山の中に設置をすることで、鳥たちを呼び寄せようという提案も行いました。これは、数年前に私の大学の先輩が清掃活動で拾ったブイで鳥かごを製作しており、何かに使えるのではと考えていたところ、ナラ枯れ問題の解決策の一つとして活用されることになりました。数年前の清掃活動で拾ったブイで作られた鳥かごが問題解決の材料として活用される機会が訪れたことはとても感慨深い気持ちになりました。

 スタディーキャンプを通して子供たちと共に学び、過ごした時間はとてもかけがえのないものでした。子供たちと過ごしたどの時間を切り取っても鮮明に子供たちの表情が思い浮かぶほど、時間が過ぎるのを早く感じた2日間でした。そしてスタディーキャンプを通して、身近にある問題に対して楽しみながら学ぶ機会は、今後様々な問題を解決の方向へ進める一端としての役割を担うことにも繋がるのではないかと考えています。一人でも多くの人が学ぶことを楽しみ、何かを感じてもらうことから様々な課題に対しての興味を引き出す、そんな機会やツールを今後も考え続けていきたいです。

小学生たとゴミ拾い

東京家政大学 4年 大塚千里

 私は生まれも育ちもさいたま市です。そこは子どもの数も非常に多く、小さいときから大勢の年上、同世代、年下に囲まれた生活を送ってきました。人の数が多ければ多いほど考え方もたくさんあり、自分と違う人を認識し、それらを拒絶したいと思いながらも受け入れ無ければいけないというような葛藤と戦い、、、。そうしたことから学ぶ機会も多かったように思います。また、それぞれの家庭で親の職業は異なり、自身の未来に対する希望も多様なものでした。しかし、今回深浦地域の子どもたちと触れ合い、そういった機会は都市部や子供が多い地域の贅沢なものであったと認識しました。

 小学3年生であるのに、話をよくよく聞いていると、「○○さんが将来○○になりたいと言っていて、考えるのが面倒くさいから自分もそれにする」と言うのです。とても悲しくなりました。私もまだ21年しか生きていませんが、これまでにたくさんの働く大人たちに出会い、また、街中でそういった姿を見、夢を描いてきました。「将来あんなかっこいいスーツを着て丸の内で働いてみたい」「成田空港をスーツで颯爽と歩きたい」どんな些細なことでも幼少期の自分にとってみれば大きな夢でした。夢一つとっても都市部と地方の差を垣間見たように思います。

 一方で、地元をよくしたいという想いは圧倒的に深浦の子どもたちに根付いていると感じました。白神山地とそのコア地域のナラ枯れ問題を学ぶ時間では積極的に発言してくれる子、恥ずかしそうに知っていることを伝えてくれる子がいました。授業で学んだりや家族から聞いたりしているのでしょうか。そして子どもの感想にあった「白神山地とそのコア地域が世界遺産から外されたらこの地域は誰も来ない町になってしまうのかなと思い、焦りました」という一文。この子は自分の町がとても好きで、町が衰退していくことに危機感を覚えるほど自分の町のことを一生懸命に考えられる素晴らしい子だなと思いました。

 地元を愛するということを小学生からたくさん学ぶことが出来ました。今回の私たち都市部の大学生との触れ合いが子どもたちにとって「大学で勉強を学ぶ」という将来の選択肢になってくれれば幸いです。

地元の大先輩と

白神山地の森に危機迫る② スタディキャンプで啓蒙活動

    ナラ枯れの説明をする大学生や社会人メンバー

白神山地周辺で進行中のナラ枯れ被害を知るための啓蒙活動を、9月の初旬、青森県深浦町の子供たちを対象に開催した「スタディキャンプ」で実施しました。これは、都会から訪れた大学生と地元の小中学生が、自然環境や地域の伝統文化などを学びながら交流を深める取り組みです。世界自然遺産の森や海に忍び寄る危機を、学生と子供たちの視点から報告します(文・高木乃梨子、写真・浜田哲二)。

    深浦町に広がるナラ枯れ被害

青森県側の白神山地は、ブナを中心とした広葉樹の森だけでなく、白神岳などを源とした複数の河川と、生物多様な美しい海の存在が、世界遺産の重要な構成要素として謳われています。

    深浦町の海岸の清掃に臨む子供たちと大学生ら

楽しみながら自然に触れる活動として、まず最初に海の環境保全とゴミのリサイクルを実践しました。海岸の清掃で拾ったガラス片をアクセサリーに生まれ変わらせる「リボーン・アクセサリー」作りです。

    シーグラスなどのガラス片を使ったアクセサリー作り

青く澄み渡った深浦町の海は、夕日が水平線に沈んでいく光景の美しさから「夕陽海岸」とも呼ばれています。そして、この時期の夜は、イカ釣りの漁船が幻想的な光を揺らめかせる豊穣の海になるのです。

    海岸線で座り込んだり、歩き回ったりして活動する

そんな風景を楽しめるはずの海岸。そこへ一歩足を踏み入れてみると、岩礁や浜辺には、ブイ、漁網、ライター、プラスチック容器、缶、ペットボトルなどの流れ着いたゴミがあちこちに目立ちます。

    それぞれが袋いっぱいにゴミを収集する

地元の子供たちと一緒に「綺麗な海を守りたい」との思いで、一生懸命に掃除しました。初秋とはいえ、気温は30度超え。全身汗まみれになりながらも、ゴミ袋がいっぱいになるまで拾います。

    ゴミで汚れた海岸を清掃する子供たち

そして、休憩中の子供たちが自慢げに見せ合うのが、波に揉まれて角がなくなったガラス片の「シーグラス」。これをアクセサリーへと生まれ変わらせる活動を、深浦の小中高生が数年前から取り組んでいるのです。昨年に続き今回もチャレンジしました。

    拾ってきたシーグラスや貝殻を洗う。どんなものを作ろうかな、と夢見ながら

水色、緑、茶色・・、色も形も様々なシーグラス。自分で拾ったものを素敵な装身具へ変身させたい、と大事に洗って乾かします。海からのゴミだけでは色の変化に乏しいため、大学生が沖縄で集めて来たガラスの破片も加えて熱加工するのです。

    溶かしたガラスの仕上がりを見る子供たち

一夜明けた翌日、溶けて丸くなったガラスを使って、ネックレスやブレスレットなど、それぞれが個性あふれる作品をたくさん作り出しました。目を輝かせながら試着する姿が可愛いすぎます。

    大学生のお姉さんとポーズ

    ジャガイモやニンジンの皮むき。手際は大丈夫?

もう一つの取り組みは、「フードロス」を無くすチャレンジ。形の悪い野菜を使った食事作りは、今年初めての試みです。地元のおばあちゃんや農家の方に戴いた、小さすぎて捨てられたり、販売できなかったりしたジャガイモやトマトを、夕食のカレーやポテトサラダに調理しました。

    お母さんが作っている横で味見。「え、熱い!」

 大豆を煎る工程。とてもいい香りが‥

次に挑戦したのが、食品庫に眠っていた大豆を使った「きなこ餅」作りです。フライパンで豆を煎って、すり鉢などですり潰すと、香ばしい匂いが部屋中に漂います。

    力を合わせて大豆をすり潰す。大丈夫なの?

自分好みの甘さに砂糖を加え、手作りのきなこが完成。子供たちは「きなこが大豆からできるって知らなかった」「売っているのよりも美味しい!」と次々とおかわり。この満面の笑顔をお母さまたちへお届けしたかったです。

    手作りのきなこ餅を食べながらウインク。美味しいね

    美味しいー!

今回、最も重要だと考えていたのが、白神山地に迫るナラ枯れの学習とフィールドワークです。お盆の深浦町に立ち寄った時、緑の山中に燃え広がるような赤いミズナラの群落に目を見張りました。

    ナラ枯れが進む深浦の里山

「え、今の時期に紅葉ですか?」と律子さんに聞くと、「いいえ、あれはナラ枯れよ。でも、こんなに広がっているなんて・・」と驚いている様子。

    ムシが穿入したとみられる木を取材するNHKカメラマン

そして、「このままだと、遺産登録されている森の中心部に被害が及ぶ可能性があるね」と心配そうに呟きます。私の大好きな白神山地と深浦町に、こんな危機が迫っているなんて・・。

    山の斜面のナラが真っ赤になって枯れてしまった

あまりの衝撃の大きさと、異様な光景を前にして、とても胸が痛みます。これは、地元の人たちにも事態の深刻さを知ってもらい、一緒に出来る事の模索を始めた方がいいのでは、と考えました。そして、子供たちとのフィールドワークを急遽メニューに加えてキャンプに臨んだのです。

    フラスが積もったナラの枯死木を説明する社会人メンバーの桃ちゃん

    真剣な表情で話を聞く子供たち

取っ付き難いテーマなので、社会人メンバーが作った何枚もの写真をもとに、ナラ枯れのメカニズムや森林に与えるダメージについて説明します。さらに、一つの種類の樹が枯れてしまうことで森の生態系が狂ってしまう恐れがあることを訴えました。

    大学生の話を真剣に聞く子供たち

また、白神の森の木や生き物たちに異変が起こることは、麓に住む人たちの暮らしにも重大な影響が及ぶ可能性についての考察を深めます。自然が破壊されることは他人事では終わらない怖さがあると、説明したのです。

    野生動物への影響も心配される

ナラ枯れを「紅葉だと思っていた」と顔を見合わせている子供たち。その原因となるカシノナガキクイムシを見て、最初は「えー、気持ち悪い」と目を背けていました。が、次第に自分たちの故郷が危ないのだと理解し、真剣な表情で話を聞いてくれます。

    歩きながらナラ枯れの森を見る子供たち

そして、フィールドへ。被害木の近くまで歩き、無数に開けられたムシの穿入した穴や、根元に積もったフラスと呼ばれる大量の排出物と木くずを観察しました。さらに足を伸ばし、食害を受けた数多くのナラの木を見て回ります。

    ナラ枯れの森で観察

葉が真っ赤なものや進行して茶色くなったもの、葉が全て落ちて白骨のように枯死したものなど、様々。その異様な光景を前に、皆が現場で立ち尽くしました。「こんなに酷いことが起こっていたの・・」と。

    ナラ枯れの森を飛ぶドローン

深浦町に滞在中、ナラ枯れの被害を確認するために、ドローンを使った上空からの調査を実施する林野庁関係者に出会いました。一緒に現場を歩いた町役場の方々も、「数年前より明らかに枯れた木が増えている。いったいどうなってしまうのか」と心配そうです。

    枯れたナラを見上げる子供たち

対策に関わる方々から話を聞くと、1本ずつ薬剤で燻蒸したり、切り倒して除去したりするしかなく、現段階では有効な方法がみつからない、と頭を抱えていました。そして、これ以上の被害の広がりを抑えるのは難しい、と苦慮されているのです。

    ブイで作った鳥の巣箱を紹介する大学生ら

そこで、私たちに何ができるかを考えてみました。まず、カシナガの天敵を呼び寄せるため、海岸清掃で拾ったブイで鳥の巣箱を作って森に仕掛けてはどうかと、提案しました。

イの巣箱を説明する大学生

これは数年前に松くい虫が青森へ入ってきた時から、社会人メンバーや大学生たちが暖めていたアイデアです。森の中に鳥を増やし、虫を食べてもらおうという計画。ゴミから再生したブイの巣箱の効果はわかりませんが、挑戦してみる意義はありそうです。

    高木のレクチャーを受ける子供たち

今、どんどんと分布を広げているナラ枯れは、けっして他人事ではありません。林野庁や自治体などへ責任や対策を任せきりにするのではなく、世界遺産の自然を享受している国民一人ひとりが考えるべき課題だと思います。地元の子供たちだけでなく、そこで暮らす皆さまと手を取り合いながら、活動を続けて行きたいです。

カシナガの被害を受けて、フラスが積みあがったナラの根元

白神山地の森に危機迫る① 豊穣の森を侵すナラ枯れ

深浦町に隣接した秋田県八峰町の山の斜面。紅葉したかのように進むナラ枯れ=2019年8月30日

今、私たちが暮らす白神山地の麓に広がる森で、「ナラ枯れ」の被害が深刻です。世界自然遺産に登録された白神岳や向白神岳に続く山々の斜面が、紅葉のように赤く染まったり、鹿の子模様のように変色したりしています(執筆家・浜田律子、写真・浜田哲二)。

真っ赤に染まったミズナラの被害木。隣には昨年以前に枯死した木が並ぶ=同日、青森県深浦町で

この現象は数年前から見られましたが、今夏の8月、北海道から帰宅した時に目を見張るほど広がっているのに驚いたのです。同行してくれた大学生の高木乃梨子(22)が、「こんな時期にも紅葉するのですか」と問いかけてくるほど、時季外れの光景に息を飲みました。

    枯れて茶色に変色したミズナラ=同日、深浦町で

ナラ枯れの原因は、体長数ミリの「カシノナガキクイムシ」と呼ばれる昆虫が引き起こす植物の伝染病です。ミズナラなどのナラ、シイ・カシ類などの広葉樹に穿入し、体についたカビの一種「ナラ菌」を感染させ、幹の水の通りを悪くして木を枯らしてしまう病気です。

    根元に積もったフラスを取材するNHKのカメラマン=深浦町で

※NHKが報道してくれました↓

https://www3.nhk.or.jp/lnews/akita/20190925/6010004924.html

この虫によって木の幹は内部を食い荒らされ、スカスカになってしまいます。樹皮にも、カシナガが入り込ん穴が無数に開き、根元には排出物と木くずが混ざったフラスが大量に積もっている状態です。

    ミズナラの木の幹に空いた穴=深浦町で

青森県や東北森林管理署などによると、深浦町での被害木は2016年~17年に80数本だったのが、18年~19年の調査で2500本近くに増加しているのが確認されました。調査は毎年、6月までに実施されているので、19年7月からの被害実態は、まだ掴めていません。

    白神川の河口付近の森に広がるナラ枯れ。後方に見えるのは白神岳=深浦町で

町や林業関係者らは、「現場を一見しただけで、被害木が増えているのが判る」と話しており、海岸線や渓流沿いに沿って、緑の森に赤や茶色に変色したミズナラが立ち並ぶさまは異様です。麓で暮らす人たちも、「なんだか山がおかしくなっているびょん」と顔を曇らせています。

    枯死した木が立ち並ぶ深浦町の森=深浦町で

抜本的な予防策はないらしく、被害木を切り倒したり、燻蒸したりして処分するしかないとされています。ただ、1本ごとに作業をするため、急傾斜地や奥地での処理は困難で、これ以上の被害の広がりを抑え込むのは難しいと、関係者らは頭を抱えています。

    深浦町での活動に参加した大学生・高木乃梨子(左から二人目)=2019年9月16日

来春から、新聞記者になる高木とも話し合い、この事態の深刻さを複数の報道機関に連絡。NHKや朝日新聞が報道してくれました。特にヘリコプターやドローンを使った空からの報告は、ナラ枯れの酷さと広がりを如実に現しています。

※朝日新聞が報道してくれました↓

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20191001001389.html

    朝日新聞がドローンを使ってナラ枯れを上空から撮影=秋田県八峰町で

    ドローンの準備をする朝日新聞の小玉記者と長島記者=秋田県八峰町で

白神の麓に暮らす住民として、座して待つだけではあまりに能がありません。素人の私たちにできることはないか、と思案し、大学生ボランティアと白神の生き物を観察する会のメンバーで、微力ながら対応策と啓蒙活動を始めることにしました。続報は次回へ続きます。

    ナラ枯れを取材する報道関係者=深浦町で

流木をチップにする一連の活動が、日本水大賞の「未来開拓賞」を受賞しました

10キロ入りのチップの袋を抱える女子生徒

昨年の秋に十二湖の歩道で実施した活動。チップの袋を抱えて走る女子生徒

力持ちの男子たちが巨大な流木を転がして移動させる

昨年の初夏に笹内川で実施した活動。力持ちの男子たちが巨大な流木を転がして移動させる

2014年から、青森県立木造高校深浦校舎の生徒や深浦町と一緒に行ってきた、「世界自然遺産『白神山地』の麓で展開する防災・環境保全・観光振興に繋がる活動」が、国交省などが主催する日本水大賞で、「未来開拓賞」を戴きました。グランプリには届きませんでしたが、活動を始めて間のない事業だったので、大金星です。

日本水大賞で未来開拓賞の受賞風景

日本水大賞で未来開拓賞の受賞風景(日本河川協会提供)

東京で開催された表彰式には、活動に関わったメンバーが主催者から招待されました。そこで、名誉総裁の秋篠宮殿下をはじめ、委員長の元宇宙飛行士・毛利 衛さん、国交省の石井 啓一大臣らに受賞を祝福されて、栄誉ある表彰状などを頂きました。

緊張した面持ちで表彰式を待つメンバーら

緊張した面持ちで表彰式を待つメンバーら(新岡重将さん撮影)

参加したのは、私たち「白神の生き物を観察する会」のメンバーで、県立木造高校深浦校舎の2年生・原田葵さんと坂﨑ちひろさんの二人。そして、深浦町・吉田満町長、総合戦略課・新岡重将さん、木造高校・吉田健校長、木造高校深浦校舎・大居 高広先生の計6人。

会場の前で参加者全員で記念撮影(新岡重将さん撮影)

会場の前で参加者全員で記念撮影(新岡重将さん撮影)

式典のあとは、受賞パーティーに出席し、普段、なかなか会うことができない方々との交流を体験しました。活動を担った子供たちにとっては、まさに晴れの舞台。頑張った深浦っ子たちが、緊張しながらも誇りを持って列席した姿は、感涙が止まりませんでした。

表彰状を受け取る原田葵さんと坂埼ちひろさん

表彰状を受け取る原田葵さんと坂﨑ちひろさん(日本河川協会提供)

式場で深浦町の活動が紹介された

式場で深浦町の活動が紹介された(同上)

思えば、この活動の発端は、先日亡くなった深浦町のマタギ・伊勢勇一親方との、山菜やキノコ採りなど、楽しい思い出があふれる山歩きにあります。融雪雪崩や台風などで、毎年のように出る河川の流倒木が、堤防や道路を削るさまを見て、親方が「この木をなんとか利用できねえかなあ」と嘆いていたのがきっかけでした。

高校生の前で流木を玉切りする親方

高校生の前で流木を玉切りする親方

愛犬を呼ぶために薬莢の笛を吹く

在りし日の親方の姿。愛犬を呼ぶために薬莢の笛を吹く

活動を事業化するまでには、国や県の許認可の壁や、流倒木を集め、泥だらけの木を洗うなどの下積みの肉体労働がありました。町の総合戦略課をはじめ、木造高校深浦校舎の生徒や教職員と一緒になって乗り越えてきましたが、いつも傍らには、伊勢親方がいてくださいました。

高校生に木の種類を教える親方

高校生に木の種類を教えて下さった親方

雪盲除けのサングラスに白神の山々が映る

雪盲除けのサングラスに白神の山々が映る

受賞の知らせを、親方に聞かせられなかったことは残念です。が、この活動を、白神山地と周辺の河川を舞台に、生態系と防災を学ぶ「環境、防災教育の場」として、自然と共に生きた親方の教えを引き継ぎ、発展させていきたいと思います。

ドロノキをチェーンソーできる伊勢親方

ドロノキをチェーンソーできる伊勢親方

雪面に冬枯れた木の影が伸びる森を輪カンジキを着けて歩く親方

雪面に冬枯れた木の影が伸びる森を輪カンジキを着けて歩く親方

最後になりましたが、流木や不要な雑木を無償で譲って下さった、河川を管理する県鰺ヶ沢道路河川事業所(鰺ヶ沢町)、深浦町の「ホリエイ」さんや「三浦建設」さんら建設業者さん、木を無償でチップに刻んでくださった製材業者・鈴光さんをはじめ、昨年からチップ撒きに参加してくれた深浦町立中学校の皆さま、市民ボランティアの皆さまに深く感謝いたします。

みんなで力を合わせて巨木を運ぶ

昨年の初夏の活動。みんなで力を合わせて巨木を運ぶ

撒いたチップを手際よく広げる

昨年の秋の活動。撒いたチップを手際よく広げる

ちなみに、同じ未来開拓賞を今回、深浦で活動を開始した学生ボランティア「IVUSA(国際ボランティア学生協会)」が受賞しています。琵琶湖での外来植物を除去する活動です。お互い、今後も頑張りましょうね。

チップを敷き詰めた遊歩道を歩き初め。観光客に声掛けされた

昨年の秋の活動。チップを敷き詰めた遊歩道を歩き初め。観光客に声掛けされた

ボランティア大学生が深浦町へ 役場インターンシップ編

幻の淡水魚「イトウ」を網で掬いあげるリーダーの小嶋さん。「重ーい!」

幻の淡水魚「イトウ」を網で掬いあげるリーダーの小嶋さん。「重ーい!」

深浦町が養殖するイトウにエサを与える小嶋さん

深浦町が養殖するイトウにエサを与える小嶋さん

深浦町へボランティアに訪れた大学生たちが、町役場でインターンシップをさせてもらいました。お世話になった主な部署は、総合戦略課と農林水産課。8月3日から5日までの3日間、過疎化が進む町で体験した地方行政の現場を報告します。

総合戦略課の松沢課長と新岡さんに着任の挨拶

総合戦略課の松沢課長と新岡さんに着任の挨拶

役場の農水課の皆さんと懇談する学生ら

役場の農水課の皆さんと懇談する学生ら

参加したのは、首都圏や関西の大学に籍を置く6人の女子学生。関係部署へのあいさつを済ませた後、早速、現場へ。まず最初は、農水課が担当する「害獣問題」を現場で視察し、その実務を体験する仕事です。3台の軽トラックに分乗し、サルが出没する山林や田畑へ向います。

ラジオテレメトリーの受信アンテナをもって

ラジオテレメトリーの受信アンテナをもって

パトロール中にサルを発見

パトロール中にサルを発見

深浦町には、29群986頭(平成25年調査)前後のサルが生息し、頻繁に田畑を荒らしては、森の中へ逃げ込みます。その数は、年々増える傾向にあり、簡単に駆除もできないので、町民も行政も頭を抱えています。

サルを脅す花火を森へ向けて

サルを脅す花火を森へ向けて

打ち上げ花火を発射!打ち上げ花火を発射!

特に、お年寄りが、生甲斐のために耕す小さな畑の作物が狙われるのです。都会で暮らす子や孫への故郷の便りとして、手塩にかけて育てた野菜がサルに荒らされる事例が頻発しています。農作業を止めて、引き籠ってしまわれた方もいるそうです。

農水課の児玉さんから現状の報告を受ける

農水課の児玉さんから現状の報告を受ける

サルの罠の説明を聞く

サルの罠の説明を聞く

そのため町は、害獣対策の特別チームを結成。出没地点にわなを仕掛けたり、捕獲したサルにラジオテレメトリーを装着したりするなどして、サルの行動を把握し、その被害を最小限に止める努力を続けています。

畑に張り巡らせた電機柵の説明を聞く

畑に張り巡らせた電機柵の説明を聞く

電機柵の説明を聞く

電機柵の説明を聞く

その現場での苦労などを、実務を担う職員の方々から、手ほどきを受けました。大きな音と共に火薬の匂いを充満させる花火で脅したり、時には地元の猟友会にお願いして実力行使をしたりします。それでもサルの学習能力は高く、一進一退の攻防が続いているそうです。

現場でクマなどの野生動物の話を聞く

現場でクマなどの野生動物の話を聞く

イトウの養殖池の前で

イトウの養殖池の前で

そして、今回の派遣リーダーである小嶋実世さん(駒沢大3年)らは、町が力を入れている耕作地の土壌開発の研究室を訪ねました。雪解けの後、どんな肥料を撒いたらいいのか、分析室で実際に使った試験管の洗浄などを手伝いながら、農業における土の大切さを学びました。

職員から話を聞く

職員から話を聞く

イトウとは

イトウとは

そして、深浦町が力を入れている幻の淡水魚「イトウ」の養殖現場へ。産卵後、孵化させて、5年、10年かけて成魚まで育てる壮大さに目を丸くします。餌やりの体験では、大きな魚が水しぶきを上げて奪い合う姿に、腰が引けてしまう場面も。

イトウを捕獲する職員

イトウを捕獲する職員

イトウの水しぶきを浴びて、「ひぇー!」

イトウの水しぶきを浴びて、「ひぇー!」

町の名産として定着している希少な魚を、大切に育てている職員の方々を尊敬するのと共に、とてもカッコよく感じました。残念だったのは試食ができなかったことです。次の機会にお願い致します(笑)。

幼魚へエサを与える

幼魚へエサを与える

網に入れて捕獲。「大切なお魚だから慎重に、ね!」

網に入れて捕獲。「大切なお魚だから慎重に、ね!」

一方男子は、限界集落化で担い手が1軒になってしまった農地で、用水路の整備事業に臨みました。手入れするのも、すべて一人でされていたので、落ち葉などがヘドロ化して、あちこちが埋まっています。それを掘り出して、20年近く交換してなかった堰の木材を新調する作業です。

魚のたてる水しぶきに大騒ぎ

魚のたてる水しぶきに大騒ぎ

用水路の鉄製のふたを開ける

用水路の鉄製のふたを開ける

北東北とはいえ、真夏の太陽が照り付ける森の中の気温は30度以上。南方のジャングルのように蒸し暑い環境です。そして、巨大な虻の襲撃。服の上から背中に食らいつき、髪の毛の隙間を狙って血を吸いに来ます。その執拗な攻撃を受けながらも、男子6人が黙々と働きます。

分水枡の中の泥をスコップで掬いあげる

分水枡の中の泥をスコップで掬いあげる

2日にわたり、計9か所を整備しました。が、ここで時間切れ。残りは9月に再挑戦します。土方仕事的な重労働の後は、インターンの女子学生と合流。「深浦町で学生ボランティアがどんな取り組みで貢献できるか」を役場関係者らと話し合うため、総合戦略課が主催する会議に出席しました。

整備を完了した枡の中でポーズ

整備を完了した枡の中でポーズ

ディスカッションで企画を提案する

ディスカッションで企画を提案する

「世界自然遺産・白神山地の環境保全」「日本ジオパーク登録地の海岸清掃」「海の産業廃棄物の有効利用」「新しい特産品の開発」「絶滅寸前の祭りや伝統行事の保存」など、斬新で素晴らしいアイデアが次々と飛び出します。

ディスカッションの場でも笑顔を絶やさずに

ディスカッションの場でも笑顔を絶やさずに

会議に飛び入りで参加された吉田町長(左)と菊池(副町長)

会議に飛び入りで参加された吉田町長(左)と菊池副町長

会議の時間が足りないかなぁ、と思い始めた時に、なんと吉田町長と菊池副町長が飛び入りで参加。深浦の将来に向けて、熱い意見が飛び交います。学生から町長や職員へ、切り返しの質問が投げかけられるなど、インターンとは思えないような濃密な内容です。

深浦の将来を巡って、盛りあがる論議

深浦の将来を巡って、盛りあがる論議

町議会の議場で記念撮影

町議会の議場で記念撮影

次の予定に食い込むほど、町長たちも熱く語り合って下さいました。最後に議場を見学。深浦の将来を論議し合う、議員や町の関係者になったつもりで着席し、みんなが笑顔で記念撮影しました。

全員で町関係者側の席に着席してみる

全員で町関係者側の席に着席してみる

時間をオーバーして付き合って下さった町長に感謝

時間をオーバーして付き合って下さった町長に感謝

学生の感想です。「地域活性の活動は初めてだったが、地元の方々と直接、お話できたことで、町が抱える様々な問題点が見えてきた(神奈川2年・中尾真悟くん)」。初めてだった活動でありながら、満足のいく成果が得られたようです。

会議で発言する中尾慎吾くん(左から二人目)

会議で発言する中尾慎吾くん(左から二人目)

次の活動を担う2回生コンビ。財務課長席で可愛いポーズ

次の活動を担う2回生コンビ。財務課長席で可愛いポーズ

インターンシップが終わった後、海産物を使った特産品づくりにチャレンジしました。地元の県立木造高校深浦校舎の生徒たちも参加し、自分たちが考えたデザインの作品を作ります。今回、宿泊でお世話になった公民館に全員で泊まり込み、作業に没頭します。忙しすぎたせいか、楽しい交流やおしゃべりがあまりできなかったようです。

海産物を使った特産品つくり

海産物を使った特産品つくり

高校生や中学生も一緒になって活動

高校生や中学生も一緒になって活動

また、来てね!。うん、来月に来るから。名残惜しいけど、また会えるよ

また、来てね!。うん、来月に。名残惜しいけど、また会えるよ

でも、「高校生や地域の子供たちと交流できたことは、町の未来像を考えるうえで有意義だった(駒澤大2年・西川拓耶くん)」との声。実務的すぎる内容にもかかわらず、高校生との活動に意味を見出す学生もいます。

高校生たちとの別れで手を振る

高校生たちとの別れで手を振る

それ、追いかけるよ!

それ、追いかけるよ!

また、会おう。来月、来るからね!

バイ、バーイ。また、来月、来るからね!

それでも、一緒に海へ行ったり、バーベキューをしたりして、東北の夏を満喫していました。次は9月3日に開かれるお山参詣(大間越地区)と日本ジオパークに登録された地区の海岸清掃に臨みます。いつも全力投球で頑張ってくれる大好きな子供たち。次も期待しているからね。

派遣の最後に仲間から寄せ書きをもらうリーダー。感激のあまり号泣

派遣の最後に仲間から寄せ書きをもらうリーダー。感激のあまり号泣

お世話になった深浦の桃ちゃん(手前右から二人目)らと記念撮影

お世話になった深浦の桃ちゃん(手前右から二人目)らと記念撮影

ボランティア大学生が深浦町へ 「2016.ねぶた」編

幻想的な明かりを灯しながら運航されるねぷたやねぶた

幻想的な明かりを灯しながら運航されるねぷたやねぶた

すっかり書き込みをご無沙汰してしまい、読者の皆さま、申し訳ありませんでした。沖縄で遭った交通事故のあと、私の体が変調をきたし、人生で初めての入院と手術を体験いたしました。

商店街を練り歩くねぶたの行列

商店街を練り歩くねぶたの行列

大学生たちが参加した地区の方々と記念撮影

大学生たちが参加した地区の方々と記念撮影

予防接種でも泣いてしまうほどの怖がりなので、脳に近い部分の神経付近への施術は、生きた心地がしませんでした。先月に退院し、今は病院へ通いながら、リハビリに励んでいます。

坂上田村麻呂が建立したとされる古刹「円覚寺」の前で

坂上田村麻呂が建立したとされる古刹「円覚寺」の前で

差し入れのジュースを抱えて

差し入れのジュースを抱えて

主治医の話では、今後の経過次第では、完治しにくい「難病」の可能性もあるそうで、前途を思うと目の前が暗くなってしまいます。でも、夫と二人、前を向いて生きてゆくしか選択肢はありません。気力、体力が続く限り、頑張って治療に臨みます。

力強い太鼓の打ち手たちが商店街を練る

力強い太鼓の打ち手たちが商店街を練る

隣町の子供ねぷた前で記念撮影

隣町の子供ねぷた前で記念撮影

お見舞いのお手紙やお言葉など、過分なお心遣いをいただいた方々へ、この場を借りてお礼を申し上げます。心よりの感謝を込めまして。

大学生たちを先頭に続くねぶたの行列

大学生たちを先頭に続くねぶたの行列

祭りの前に地区の方々へご挨拶

祭りの前に地区の方々へご挨拶

さて、書くことが山のように溜まっています。何にしようかなぁ。うん、では明るい話題から。冒頭の写真でお見せした深浦町の「ねぶた」に参加した大学生たちの活動を紹介いたします。

郷愁を誘う、ねぶたの行列

郷愁を誘う、ねぶたの行列

海岸の横を歩くねぶたの行列

海岸の横を歩くねぶたの行列

いつもは国際ボランティア学生協会(IVUSA)のメンバーが来てくれるのですが、今回は協会の正式派遣としてではなく、自主的に参加した大学生たちです。十数名と多くはありませんが、皆「深浦が大好き」、「地域おこしで町に貢献したい」という、熱い想いで駆けつけてくれました。

地区の小学生が学生の前で自己紹介

地区の小学生が学生の前で自己紹介

実はIVUSAも9月上旬に、大間越で実施される「お山参詣」の神事と、海岸などの環境保全活動のために、約70人の学生を派遣してくれる予定です。

薄暮の中、出発する各地区のねぶた

薄暮の中、出発する各地区のねぶた

それゆえ、8月に来てもらうのは、学生たちへの負担が大きく、あまり無理を言えませんでした。が、今回、深浦町役場が学生たちをインターンとして受け入れて下さることになり、急きょ派遣が実現しました。そして、昼間は役場の仕事を体験し、夜は、ねぶた運行のお手伝いをすることに。

お世話になる地区の会長さんへご祝儀を

お世話になる地区の会長さんへご祝儀を手渡すリーダーの小嶋さん(左)。ふんぞり返っているわけではありません

出発前の緊張感。準備は万端

出発前の緊張感。準備は万端

当然、全員が初めての経験。実物のねぶたの重さと迫力に圧倒されつつ、保管場所から集合場所まで、人力で引いて行く仕事に参加しました。地区の高齢者や子供らに混じって、男子が先頭に立ち、女子が後方で支えます。

急な坂道を全力で引いて登る

急な坂道は全力で引いて登る

初対面ながら、笑顔で話しかけてくるお兄さんやお姉さんと一緒に、子どもたちも、2キロ近い道のりを汗をふきふき付いてきます。みんなが温かく学生たちを迎えて下さったのです。これに応えないわけにはいきません。

地区の方に混ざってねぶたを引く学生ら

地区の方に混ざってねぶたを引く学生ら

ねぶたの後をついてゆく学生や子供たち

ねぶたの後をついてゆく学生や子供たち

夕日が落ちるころ、暮れなずむ日本海を見下ろして、合同運行がスタートしました。港へ続く急な坂道を下りきった後、深浦町のメイン通りを幻想的な明かりに包み込みながら、ねぶたの行列が進みます。街角や商店の前には、夕涼みを兼ねた見物の方々の姿が。

他の地区のねぶた。子供たちが愛らしい

他の地区のねぶた。子供たちが愛らしい

他の地区のねぷた運行

他の地区のねぷた運行

とても、郷愁を誘われる光景です。ん、よく見ると、太鼓の叩き手や先頭でねぶたを引く顔に見覚えが。「あ、役場の松沢課長だ!」。大太鼓を抱えて、力強く叩きながら歩く姿が、とても凛々しいです。女子学生から、「カッコいい」との嬌声が(笑)。

カッコいい、松沢課長

大太鼓を叩く、総合戦略課の松沢課長

太鼓をたたく総合戦略課の松沢課長

「カッコいい!」と、女子大生の声が

全員が汗まみれになって、終点のJR深浦駅近くまで歩き切ります。ねぶたを引く高齢者も、笛を吹きながら付いてゆく小中学生も、誰一人として脱落者はいません。ヒイヒイ言いながら、写真を撮り歩く夫の哲二だけが、人一倍汗をかいて辛そうです。「ん、もう、太りすぎよ!」。私も人には言えないけど‥

笛を吹きながらねぶたに付いてゆく子供たち

笛を吹きながらねぶたに付いてゆく子供たち

地区の方々に混じってねぶたを引く学生

地区の方々に混じってねぶたを引く学生

祭りが終わって、地区の方々が開く直会にも参加させて頂きました。初めての学生たちを大歓迎で迎えて下さり、嬉しい限りです。並んでねぶたを引いた大先輩と杯を傾け合います。お姉さんが大好きになった女の子が、学生にまとわりついて離れません。

子供たちと仲良しになった女子学生

子供たちと仲良しになった女子学生

去年知り合った高校生と再会

去年知り合った高校生と再会

派遣期間さえ折り合えば、来年はねぶた作りの作業から参加したい、と話す学生も。熱心にねぶたのことを語る地区の方々にうたれ、深浦はどの地域も、古くからの祭りを心のよりどころにしているのだ、と痛感していました。

盛りあがる地区の方々の前で学生リーダーが挨拶

盛りあがる地区の方々の前で学生リーダーが挨拶

みんな混ざって楽しい宴

みんな混ざって楽しい宴

来年に再会を誓い、会はお開き。皆、お互いに名残惜しそうです。学生も大間越地区以外の方と親交が深まり、感慨深げでした。でも、翌日から新たな活動が始まります。町内で学生が引く手あまたになりつつあるのです。

仲良くなった方から、「よく来てくれたな」と労われる

仲良くなった方から、「よく来てくれたな」と労われる

「来年も来いよ」との掛け声。学生からは、「はい、必ず!」

「来年も来いよ」との掛け声。学生からは、「はい、必ず!」

深浦町役場・インターンシップ編へと続きます。

訃報 マタギの伊勢親方が急逝されました

ありし日の伊勢親方

ありし日の伊勢親方

私たちの青森の父親的な存在だった、深浦町のマタギ・伊勢勇一親方が先ほど、お亡くなりになられた、という一報が入ってきました。ガンで闘病中だったのですが、手術も成功し、徐々に元気を取り戻し始めていた矢先の訃報です。

もう、この薬きょうの笛を聞くこともできない

もう、この薬きょうの笛を聞くこともできない

遺骨収集活動のために、沖縄へ出発する直前、優しい笑顔で見送って下さったのが、最後の別れとなってしまいました。私は、親の死に際に会えない不幸な子なのですが、青森の父との別れも、旅先で迎えることになりました。

子どもたちからも大人気だった親方

子どもたちからも大人気だった親方

あの親方が急逝するなんて‥。寂しすぎるし、まだ、現実として、受け止められません。せめて、死に顔を一目見て、お別れを申し上げたいのですが、戦没者の遺留品返還活動の最中なので、それも叶いません。

白神山地を背景に

白神山地を背景に

遠い旅の空から、ご冥福をお祈りすることしか出来ないのが、何よりも辛いです。いずれ、続報を書きます。親方、ありがとうございました。ゆっくりとお休みください。お別れの言葉も申し上げられなかった不肖な弟子をお許しください。合掌。

初春の森を歩く。まだ。元気だった頃

初春の森を歩く。まだ。元気だった頃

流木や不要木で作ったチップで森を守る

10キロ入りのチップの袋を抱える女子生徒

10キロ入りのチップの袋を抱えて走る女子生徒

本格的な紅葉のシーズンを前に、青森県有数の観光地・十二湖の遊歩道に、木材チップを撒く活動を実施しました。白神山地から出る流倒木や不要な木をリサイクルして、防災と環境の保全に役立てる事業です。今年で二年目になりました。

撒いたチップを手際よく広げる

撒いたチップを手際よく広げる

力自慢の男子が広げてゆく

力自慢の男子が広げてゆく

今回は、県立木造高校深浦校舎(吉田健校長)の呼びかけで、深浦町内の深浦、大戸瀬、岩崎中学校の生徒ら77人が参加。教職員、町役場、ガイド、ボランティアらを含めた総勢約180人で作業を開始しました。

チップ撒きに参加した生徒たち

チップ撒きに参加した生徒たち

初参加の中学生たちも頑張る

初参加の中学生たちも頑張る

用意したチップの総重量は約6トン。今年の夏に深高生らが集めた笹内川の流倒木や、災害防除工事で出た不要木などを、秋田県能代市の製材業者・鈴光さん(鈴木英雄社長)が無償で加工して下さいました。これを「白神十二湖森林セラピー基地」の遊歩道に敷き詰めるのです。

遊歩道にまんべんなく撒いて行く

遊歩道にまんべんなく撒いて行く

生徒たちに指示を出す増冨さん

増冨さんの指示を聞く生徒たち

事業の全体計画は、町総合戦略課の増冨勇人さんらが担当。チップの運搬や作業のタイムスケジュール、どの場所に生徒を割り振るかなどを細部にわたって完璧に手配します。今年の目玉は、青池広場周辺のブナ自然林を貫く遊歩道、約250㍍の区間にチップを敷き詰める予定です。

チップを運ぶ後姿が大黒様のよう

チップを運ぶ後姿が大黒様のよう

力自慢の深高生の男子

力自慢の深高生の男子

一度は雨で順延になりましたが、10月5日午前10時、うす曇りの森の中で作業が開始されました。「チップの袋を運ぶ」、「袋の口を開ける」、「遊歩道に撒く」、「平らにならす」などの役割を、各校の生徒たちが分担し、作業は進みます。

全員が作業を分担し、テキパキと働く

全員が作業を分担し、テキパキと働く

袋が重くて、こけちゃった

袋が重くて、こけちゃった

木材チップは、あらかじめ、約5キロ入りと10キロ入りの二種類に袋詰めしてあるのですが、わざわざ重い方の袋を運ぶ力自慢の女子生徒も。頼もしい限りです(笑)。始めて参加する中学生も、お兄さん、お姉さんに負けじと働きます。

10キロ入りを一人で運ぶ力持ちの女子中学生
10キロ入りを一人で運ぶ力持ちの女子中学生
女子でも重い袋を担げるよ

女子でも重い袋を担げるよ。可愛い笑顔

ここでも、生徒たちの頑張りに感嘆しました。皆、自分に出来る事を懸命に取り組み、仕事を自主的に見つけて積極的に働くのです。私たち大人のアドバイスなどは必要ありません。当然、「かったるーい。やってられんわ」なんて、聞こえてきません。毎度のことながら、深浦の生徒の素晴らしさに心より感動します。

それぞれが的確な役割分担

それぞれが的確な役割分担

持てる力を発揮して働く

持てる力を発揮して働く

作業は、1時間余りで完了。青池から続くブナの森の中に、優しい木の香りがする木材チップの道が現われました。広葉樹の緑のトンネルが、ひときわ明るくなったような印象も。さっそく、首都圏から訪れた観光客らが、フカフカした感触を確かめるように、ゆっくりと歩き始めます。

記念撮影する中学生
作業が終わって記念撮影
チップを敷き詰めた遊歩道を歩き初め。観光客に声掛けされた

チップを敷き詰めた遊歩道を歩き初め。観光客に労われた

「うわー素敵。それに歩きやすーい」。「えー、全員がボランティア‥。ありがとう、これからも頑張ってね」と、すれ違いざまに生徒らへ、労いの言葉を掛けて下さいます。中には、帰宅後に友人への土産話にすると、チップの写真や生徒たちの姿を撮影して行く方もいました。

二人で仲良く運ぶ女子中学生

二人で仲良く運ぶ女子中学生

えー、すごく重い‥

えー、すごく重い‥

最後に、生徒たちが、自分たちの力で敷き詰めたチップの遊歩道を歩き初めます。全員が誇らしげ。堂々と胸を張っています。初参加の中学生たちも、元気いっぱいに前を向きます。みんな素敵な笑顔です。

遊歩道を歩く生徒たち。笑顔が絶えない

遊歩道を歩く生徒たち。笑顔が絶えない

作業終了後、深浦校舎の校長先生が労いの挨拶

作業終了後、深浦校舎の校長先生が労いの挨拶

その姿に、不覚にも涙がこぼれました。この1年、よく頑張りましたね。河原で、炎天に焙られながら、一生懸命に流倒木を集めた夏の日。校庭に山積みされたチップに目を丸くしながらも、全員が力を合わせて袋詰めしました。そして、休日を返上して、流木を集めてくれた女子生徒も。みんな、ほんとうに逞しくなったよ。素晴らしい子供たちです。

いつも笑顔で取り組んでくれる

いつも笑顔で取り組んでくれる

一輪車で運ぶ強者も

一輪車で運ぶ強者も

最後になりましたが、無償で木材を譲って下さったり、チップに加工して下さったりした、林野庁、県鰺ヶ沢道路河川事業所、町内の建設業「ホリエイ」、秋田の製材業「鈴光」などの皆さまへ、深く感謝とお礼を申し上げます。

重い袋も何のその

重い袋も何のその

森の奥までチップを運ぶ中学生たち

森の奥までチップを運ぶ中学生たち

そして、事業の成功は、町総合戦略課のプロデュースと各中学校、高校の協力と頑張りがあったからです。皆さま、本当にありがとうございました。また、来年もみんなで力を合わせて、がんばろうね。

頑張った生徒たち

よく頑張った生徒たち

IVUSAの大学生が深浦町に来た!②

真剣な面持ちで草鞋を投げる学生

真剣な面持ちで草鞋を投げる学生

高校生の仕掛けたロボットカメラも見学

高校生の仕掛けたロボットカメラも見学

御山参詣に来てくれたIVUSA(国際ボランティア学生協会)の大学生の続編です。地域に伝わる最も過酷な神事を手伝ってくれたおかげで、消滅の危機にあった伝統行事を大盛況で終えることができました。さすがIVUSA。若者のパワーと創造力は素晴らしいです。

※朝日新聞に掲載されました

http://www.asahi.com/articles/ASH9G4W08H9GUBNB00H.html

神事の作法も柴田さんから習う

神事の作法も柴田さんから習う

保存会の柴田さんから踊りの手ほどきを受ける

保存会の柴田さんから踊りの手ほどきを受ける

ただ今回、彼らが来てくれたのは、神事のお手伝いなどの地域おこし活動だけが目的ではありません。実は、白神山地にかかわる環境保全の取り組みも視野に入れているのです。

海岸を清掃する前に、役場職員の説明を聞く

海岸を清掃する前に、役場職員の説明を聞く

漂着ゴミで汚れた海岸の清掃に臨む

漂着ゴミで汚れた海岸の清掃に臨む

まず手始めに、「八峰・白神ジオパーク」に認定されている、大間越地区の海岸清掃を行ってくれる予定です。今回の派遣期間中は、雨が降り続いたので、本格的な活動には至りませんでしたが、現地調査を兼ねて半日だけ実施いたしました。地区の方と、県立木造高校深浦校舎の生徒たちも参加して。

地区の人や地元の高校生らと一緒に活動

地区の人や地元の高校生らと一緒に活動

地区の人からゴミの内容の説明を受ける

地区の人からゴミの内容の説明を受ける

この海岸線は、複雑な形に入り組んでいるのと、ゴツゴツとした岩場が連続しており、簡単にアプローチできる場所は多くありません。そして、海洋に不法投棄された漁具や、大陸などからの漂着ゴミが、岩の隙間に挟まってしまい、美しい景観が台無しになっています。

テトラなどに挟まったロープや漁具

テトラなどに挟まったロープや漁具

現場の写真を撮って報告書を作る

現場の写真を撮って報告書を作る

そして近隣は、地元の漁師さんたちにとって、アワビやサザエ、海藻などの貴重な漁場であるため、漂着ゴミは深刻な悩みの種です。同時に、国内で最も人気がある鉄道路線の一つ「JR五能線」から見える風景も、ゴミで汚されている場所があり、観光資源に影響が出ています。

横一列になって掃除して行く

横一列になって掃除して行く

この日、集めたゴミ

この日、集めたゴミ

そのためIVUSAは、来年度から、100人を超える隊員を派遣して、海岸のゴミを一掃する計画を立てているのです。今年のメンバーは、先遣隊の役割を担っており、大人数の宿泊場所や移動手段、物資の調達場所、活動するフィールドなどを懸命に調べていました。

学生たちに挨拶する吉田満・深浦町長

学生たちに挨拶する吉田満・深浦町長

表敬に訪れた学生たち。町長らを前に緊張した面持ち

表敬に訪れた学生たち。町長らを前に緊張した面持ち

こうした学生たちの取り組みに興味を持って下さった吉田満・町長と、役場の総合戦略課の皆さんが思わぬ声掛けをしてくれました。「ぜひ、学生たちに会って、直接、話を聞きたい」と。望むところです。襟を正して、役場へ表敬することになりました。

学生らの話を真剣に聞く吉田町長たち

学生らの話を真剣に聞く吉田町長たち

積極的に活動の提案もする

積極的に活動の提案もする

町長と菊池副町長、総合戦略課の松沢課長らに迎えられた12人の派遣隊員。深浦が置かれている現状や、学生たちに手助けして欲しい仕事の説明などを聞き、積極的に質問を投げかけます。実はこの日、町長が多忙で、会見の時間は一時間しかありません。

町長たちへ学生の想いを伝える

町長たちへ学生の想いを伝える

時には身振りを交えながら話す

時には身振りを交えながら話す

お互いが話し足りないようでしたが、公務に影響を出すわけにはいきません。別れを惜しむように、名刺の交換をしていると、町長の出身大学の学生がいることが判明。思わぬ先輩、後輩の出会いに、キャンパス生活を懐かしむ町長も、後ろ髪を引かれるように会見室を後にしました。

同じ大学の後輩に会って、表情が和む吉田町長

同じ大学の後輩に会って、表情が和む吉田町長

深浦町には、大学はありません。ここで暮らす人たちは、大学に行くには集落を出なければなりません。ゆえに、大勢の大学生が訪れることは、非常に稀なことで、地区の皆さんも都会から来た若者たちに興味津々です。

学生たちの踊りに笑顔で拍手を送るお年寄りたち

学生たちの踊りに笑顔で拍手を送るお年寄りたち

お年寄りから若集まで、一生懸命に活動してくれる学生に感謝の気持ちで一杯です。できれば積極的に声を掛けて、労いたいのですが、皆さん、とても恥ずかしがり屋で、うまく心を伝えることができません。

ダマコ作りを学生に指導する女集(中央)。大間越・スーパー主婦の一人

ダマコ作りを学生に指導する女集(中央)。大間越・スーパー主婦の一人

高校生の七瀬さんは手慣れた仕草

高校生の七瀬さんも手慣れた仕草

そこで、地区の女集に手伝ってもらい、一緒に郷土料理を作る交流会をしました。学生たちに、手作りの「ダマコ鍋」を振舞うのです。コミュニティセンターに臨時で設営された「大間越レストラン」のシェフは、一家の台所を預かるベテランのお母さんばかり。

大間越三人娘のおばあちゃんもスーパー主婦

大間越三人娘のおばあちゃんもスーパー主婦

みんなで丸めたダマコ

みんなで丸めたダマコ

ダマコの丸め方や材料の刻み方、出汁の味まで、学生に的確な指示を出し続けます。深浦校舎の高校生たちや大間越の3人娘も、「都会の大学生とお話がしたい」と料理作りに参加。和気あいあいと料理は完成に近づきました。

深浦校舎の生徒も一緒に料理作り

深浦校舎の生徒も一緒に料理作り

深浦校舎の生徒に習って山菜・ミズの皮むき

深浦校舎の生徒に習って山菜・ミズの皮むき

ここで一つ余談。実は、ダマコ鍋に欠かせない食材の一つにキノコのマイタケがあります。それをスーパーなどで購入した栽培物を使う手はずだったのですが、できれば天然物を食べさせてやりたいです。

白神の森を歩く

白神の森を歩く

マイタケを発見!

マイタケを発見!

体調を壊されて療養中のマタギの伊勢勇一親方に、相談してみました。すると、「あの場所ならば、今の時期でも出ている可能性がある。学生と一緒に見てこい」との指示。本来は秘密の場所なのですが、学生を連れて行ってみました。

巨木を取り囲み

巨木を取り囲み

「初めて見た!」。スマホで撮影

「初めて見た!」。スマホで撮影

9月上旬なので、期待はしてませんでしたが、なんと中サイズが2個も出ています。さすが親方です。学生たちも大喜び。大人数で食べるお鍋用なので、2個とも持ち帰りました。親方、すみません‥

親方の教わった方法で収穫。満面の怪しい笑顔‥

親方に教わった方法で収穫。満面の怪しい笑顔‥

ダマコ鍋を囲む交流会。和気あいあいと進行した

ダマコ鍋を囲む交流会。和気あいあいと進行した

天然マイタケ入りのダマコ鍋は、すごく美味でした。その他、トウモロコシや地ダコ、サザエなどの差し入れもあり、海の幸山の幸のごちそうが並びました。地区の総代さんや長老たちも宴会に参加して下さり、大盛況です。高校生たちも、普段は見せないような弾けるような笑顔で楽しんでいました。

家に帰る高校生を大学生がアーチで見送り

家に帰る高校生を大学生がアーチで見送り

笑顔で手を振る大学生たち

笑顔で手を振る大学生たち

今年のIVUSAの深浦町への派遣で、用意していたプログラムはこれで終了です。最後に、我が家の庭で薪割りにチャレンジしてもらい、田舎の、不自由でありながらも楽しい暮らしを体験してもらいました。

みんなで記念撮影。なぜか大受け

みんなで記念撮影。なぜか大受け

薪割りを体験

薪割りを体験

沖縄での遺骨収集活動。そして、今回の深浦町での活動。IVUSAの若者たちは、ボランティアの対象へ、ひたむきに尽くしてくれます。毎回、メンバーは変わるのですが、誰にあたっても失望させられることがありません。

津軽ラーメン美味しい!

津軽ラーメン美味しい!

青池を訪ねた学生たち

青池を訪ねた学生たち

私たち夫婦は、そんな彼らが大好きです。いつも「けっぱって」くれるし、とても「めんこい」子たち。どの現場でも、わが子と接しているような温かみを感じてしまうよ。いつまでも応援しているからね。そして、ありがとう。深浦を第二の故郷として、また帰ってきて。みんな大歓迎だから!

今後の深馬地での活動を仕切る二回生たち

来年の深浦町での活動を仕切る予定の二回生たち

背中で語る事務局員

「来年も期待してください」。背中で語る事務局員(笑)