みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
活動③(追跡)

深浦町の「マタギ」伊勢親方⑨-紅葉とナメコの季節が到来

向白神岳の頂上付近から降りてきている紅葉。間もなくピークを迎える=深浦町で

向白神岳の頂上付近から降りてきている紅葉。間もなくピークを迎える=深浦町で

白神山地に今年も、紅葉のシーズンが到来しました。南海上にある台風の存在が気になりますが、日本海側は避けて進む可能性が高く、強い雨や風がなければ、とても楽しめそうです。昨日、見に行くと、向白神岳は全山が紅葉し、頂上付近はもう終焉を迎えています。そして、赤と黄のコントラストに彩られた山のラインが、どんどん麓に移りつつあるようです。

クマが登った爪痕が無数に残るブナの巨木。まだ、葉には緑が残り、黄葉していない

クマが登った爪痕が無数に残るブナの巨木。まだ、葉には緑が残り、黄葉していない

きれいなナメコを前に笑顔を見せる伊勢親方

形の揃ったきれいなナメコを前に笑顔を見せる伊勢親方

今の盛りは、繁らせた葉をまっ黄色に染めあげたカツラ。何本もの幹が一塊になっている重厚な樹木で、春先には枝に赤い花を咲かせます。そのカツラが立ち並ぶ、麓の森を抜けて、深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方と、紅葉シーズンのもう一つの華、ナメコ採りに行きました。

ブナの朽木に発生したナメコ。しっとり濡れて、輝いていた

ブナの朽木に発生したナメコ。しっとり濡れて、輝いていた

ブナの倒木に発生したナメコ

ブナの倒木に発生したナメコ

まだ、緑が混じるブナの木が立ち並ぶ台地が、親方のナメコの採集場。約50~60度はある急斜面を、下生えの草木を手で掴みながら、反動をつけて登って行きます。ほとんど垂直の壁に近いような斜面ですが、親方がクマの巻狩りの時に、よく上った場所だと言います。

急斜面を登りきると、ブナ林が広がる台地へ出る。そこがナメコを採る場であり、クマを巻狩りする重要な森だ

急斜面を登りきると、ブナ林が広がる台地へ出る。そこが親方のナメコを採る場であり、クマを巻狩りする重要な森だ

渓流を渡ってくる親方

渓流を渡ってくる伊勢親方

そんな急斜面を150㍍ほど上がったところが、なだらかな傾斜の台地になっており、そこが世界自然遺産「白神山地」が誇るブナの原生林です。コア地域やバッファゾーンとして、保存されている場所以外にも、こんな素晴らしいブナの森が、あちこちに点在しています。

サワグルミに発生した形の揃ったナメコを収穫する伊勢親方

サワグルミに発生したナメコを収穫する伊勢親方

リックサックに入り切らないほど採れることもある

リックサックに入り切らないほど採れることもある

ナメコは、こうしたブナ林の中にある倒木や落ちた枝に、よく発生します。スーパーマーケットなどで売られている小指の先程の小さな物ではなく、傘が開いたら、シイタケのようなサイズになる天然物。味も香りも、スーパーの養殖ものとは、比べ物にならないぐらい濃厚で、破格の美味しさです。この時期、麓のキノコ好きが目の色を変えて追いかける食菌と言われています。

アワビ茸と見られる幼菌。美味しいキノコだ

アワビ茸と見られる幼菌。美味しいキノコだ

サルノコシカケの仲間。食べられそうになり

朽ちた枝に群生するサルノコシカケの仲間。ブナハリダケに似ているが食べられそうにない

遊んでばかりいるように見える私たちですが、今回のナメコ狩りは、今月末から、白神を訪ねて下さる友人たちを、山へ案内する前の「下見」を兼ねています。まさに、遠路遥々来てくれる、友であるお客さんを接待する重要なミッションなのです。最近は、小学校や高校などで講演を開いたり、子供たちのフィールド授業に同行したりすることが増え、親方も私らも超多忙な日々を送っています。

まだ緑が残るブナの林で一服する伊勢親方

まだ緑が残るブナの林で一服する伊勢親方

薪にする山の木の伐り出す作業を放置したまま、キノコ採りへ出てきてしまったので、山積みに残っている仕事の事を思うと、気が重いどころか、どこかへ逃げ出したくなります。でも、この時期、ナメコを採りに行かずして、何のための白神暮らしでしょうか。親方共々、後先の事は何も考えないことにすると、自然と足は山へ向いてしまいます(笑)。

キラキラ輝くナメコ。触るとヌルっとしている

キラキラ輝くナメコ。触るとヌルっとしている

キツツキが突っついた痕の穴に発生するナメコ

キツツキが突っついた痕の穴に発生するナメコ

「おー、今年は異常な年だ。まだ、台風が来ているもんなぁ。この町でも、大きな災害が起こらなければいいが‥」と、親方。先の台風で、伊豆大島で発生した土石流被害のような天災が、深浦にも飛び火することを心配されています。確かに、紅葉も始まったかと思えば、あっという間に麓近くまで、進んできています。スタートは例年並みだったのですが、このままだと今月中には見頃を終えてしまうかも知れません。

向白神岳の麓で、森の様子を話す伊勢親方

向白神岳の麓で、森の様子を話す伊勢親方

訪ねて来て下さる皆さま。もしかしたら、紅葉の一番のピークを外してしまったかも知れません。時期を読み違えた事、心よりお詫びいたします。でも、キノコは大丈夫だと思います。ナメコはもしかしたら、豊作かも。美味しいナメコのお鍋と、サプライズの素材を用意してお待ちしていますので、道中無事にお越しください。

きれいな形の発生したナメコを収穫する伊勢親方

きれいな形の発生したナメコを収穫する伊勢親方

カッターナイフを使って丁寧に切り取ってゆく。表面の皮を引き剥がさないようにすれば、調理もしやすいし、来年にキノコが生えてくる

カッターナイフを使って丁寧に切り取ってゆく。木の表面の皮を引き剥がさないようにすれば、また来年、生えてくる

この日の収穫は、ナメコがコンビニのビニール袋を満杯にして四袋。ムキタケ一袋。ナラタケ一袋でした。来られる皆さまのために、よーく水洗いして、マイナス60度の冷凍庫で凍らせてあります。これで保存すると、3年過ぎても新鮮な味を楽しめます。当然、日本海のお魚も用意してありますよ。再会できるのが、心より楽しみです。

直径1㍍は越えるブナの倒木にナメコが出ていた。少し、収穫するのが遅かったので形が悪い、

直径1㍍は越えるブナの倒木にナメコが出ていた。少し、収穫するのが遅かったので形が悪い、

深浦町の「マタギ」伊勢親方⑧-親方、先生になる(下)

10月22日付、東奥日報の小中学生新聞「週刊Juni Juni」の1面に掲載されました。

http://www.toonippo.co.jp/junijuni/pickup/20131022103142.asp

伊勢親方と一緒に十二湖の森を歩く児童たち=深浦町で

伊勢親方と一緒に十二湖の森を歩く児童たち=深浦町で

まず棟方先生からの注意事項を聞く。誰、耳を塞いでいるのは!

まず棟方先生からの注意事項を聞く。誰、耳を塞いでいるのは!

秋が深まりつつある北東北地方。朝晩も、すっかり冷え込むようになりました。世界自然遺産・白神山地は、間もなく全山が赤や黄色などの紅葉に彩られます。町立深浦小学校3年生に、深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方が教えている森の授業も今回で2回目。31人の児童たちが、遠足形式でお弁当と水筒を持って、白神の麓の森、「十二湖」を歩くことになりました。

集合場所の駐車場に落ちていたウサギの糞を見る児童たち

集合場所の駐車場に落ちていたウサギの「フィールド・サイン」を見る児童たち

あちこちに立ち止まって森のお話を聞く。「これがタラの実だよ」

あちこちに立ち止まって森のお話を聞く。「これがタランボの実だよ」

出発する前に、親方たちから、森に入るにあたっての注意事項を聞きます。「この時期は、スズメバチが盛んに行動しているので、目の前に飛んできても慌てず騒がず、静かにやりすごしなさい。そして、道から外れた草むらには、マムシなどの毒蛇が潜んでいるかもしれないので、むやみに立ち入らないように。森の中の生き物たちは、こちらがちょっかいを出さない限り、めったに襲ってこないからね。さぁ、出発だ。今日は実際に植物や生き物を観察しよう」

狭い道では一列に並んで進む。休憩中も隊列を乱さないよ

狭い道では一列に並んで進む。休憩中も隊列を乱さないよ

広い場所では仲良く手を繋いで歩く

広い場所では仲良く手を繋いで歩く。「楽しいね!」

親方を先頭に、嬉々として歩き出す児童たち。広い林道では、二人が仲良く手を繋ぎ、狭い遊歩道では、一人ずつ整然と歩きます。「みんな、走ったらダメだよ。木の根や切り株があるから、転ぶと大けがをするからね」と親方。優しい表情ながら、少し厳しい口調で子供たちに語りかけます。

親方から、森の説明を受ける児童たち

親方から、森の説明を受ける児童たち。誰もが熱心に聞き入っていた

まず最初に見つけたのは道端に群生している山菜のミズ(ウワバミソウ)。親方が、「ほら、これは何だべかな。判る人」と聞くと、何人かが手を挙げます。そして、「ミズー!」と、元気一杯な返答。「よしよし正解。食べた事あるんだな。この時期は実っこが付いているので判りやすいな。この実も美味しいんだよ」

森の中は危険もいっぱい。でも今日は、親方がいるから安心だね

森の中は危険もいっぱい。でも今日は、親方がいるから安心だね

朽木に生えていたサモダシ(ナラタケ)。美味しい食菌だ

朽木に生えていたサモダシ(ナラタケ)。美味しい食菌だ

しばらく歩くと、朽木にキノコが出ているのを親方が見つけました。「さぁ、このキノコは何かな?」との問いかけには、誰も手を挙げることができません。「これはサモダシ(ナラタケ)という美味しいキノコ。朝晩、寒さが増して、森の木々が色づき始めると出てくるんだな。はなはだしい時だば、お花畑のように地面に広がっていることもあるんだよ」

森の中で親方の講義を聞きながらキョロキョロ。不思議がいっぱいだね

森の中で親方の講義を聞きながらキョロキョロ。不思議がいっぱいだね

ナラの木の根もとから採取したシロハマイタケ。親方の鋭い眼力で見つけた

ナラの木の根もとから採取したシロハマイタケ。親方の鋭い眼力で見つけた

そして、斜面の木の根元を見て、「あの白いのはマイタケでねぇか。そうだ多分マイタケだ」と指差します。ナラの木の根元に生えた白い塊。それは「シロハマイタケ」でした。見つけた人が舞って喜ぶほど、貴重で美味しいキノコ。それを子供たちとの森の授業中に見つけたのです。

すごーい。良い香り‥

すっごーい。良い香り‥

僕たちにも嗅がして!

早く早く、僕たちにも嗅がして!

私も嗅ぎたい。わぁー、美味しそうな匂い‥

私も嗅ぎたい。わぁー、美味しそう‥

手にしてみると、何とも言えない素晴らしい香りが漂っています。まさに、広葉樹の森が広がる白神の秋の香りです。子供たちもびっくり。誰もがマイタケが実際に生えている所など見たこともありません。全員が、キノコを手にする親方の下に集まってきて、香りを嗅いだり、触ったりしています。「親方すげぇ‥」、「あー、良い匂い」、「意外に硬いよ」、「食べたいなー!」。ニコニコ笑いながら子供たちに接している親方も、少し誇らしげです。

ロボットカメラの設置場所で撮影された生き物の写真を見ます

ロボットカメラの設置場所で撮影された生き物の写真を見ます

目的地は、獣道にロボットカメラを仕掛けてある森です。ここは親方の指導の下、カメラを設置した場所のひとつ。約1時間で到着し、実際に何が写っているのかを、全員で確認しました。カメラのモニターに写し出されたのは、カモシカとアナグマ、ウサギなど。子供たちは、遠足のコース近くにも、様々な野生動物が棲息していることに驚いた様子でした。

「後ろの人、聞こえているかな」。こんなクマがここを歩いたのよ

「後ろの人、聞こえているかな」。こんなクマがここを歩いたのよ

「この森には、クマやカモシカ、ウサギなどの生き物がたくさん暮らしているんだ。もしかしたら、世界自然遺産として保護されている森と同じくらいかもしれないな。それほど十二湖は、豊かな森なんだよ」と、親方。説明を聞く子供たちの目も、教室での座学のとき以上に輝いています。

ロボットカメラの前に現れたニホンアナグマ

子供たちが見学した場所のロボットカメラの前に現れたニホンアナグマ

子供たちが見学した場所のロボットカメラの前に現れた国特別天然記念物のニホンカモシカ

子供たちが見学した場所のロボットカメラの前に現れた国特別天然記念物のニホンカモシカ

そして、この場所で撮影された動物の写真を鑑賞し、体の大きさや森の雰囲気を体感します。クマと一緒に写っている実物の木を見て、「このクマ、でけぇ‥」と驚嘆する男児。「秋と冬、違う毛色で写ったウサギ。同じ子かな?」と、首を捻る女児。ロボットカメラに写った生き物が、実際に歩いた現場を見た子供たちは、「この近くに、動物たちがいるんだね。今も木の陰から私たちを見てるかも」と、森の臨場感に感嘆しきりでした。

さぁ、待ちに待ったお弁当の時間だ。お腹一杯食べるぞ。

さぁ、待ちに待ったお弁当の時間だ。お腹一杯食べるぞ

お昼の休憩時間。元気一杯に広場で遊ぶ

お昼の休憩時間。おやつを頬張りながら、元気一杯に広場で遊ぶ

お昼ご飯は、子供たちのスクールバスを停めた、リフレッシュ村の駐車場で戴きます。思い思いの場所でお弁当を広げ、皆とても楽しそうです。食後、子供たちが、持ってきたおやつの飴やグミなどを握りしめて、親方のもとへ駆け寄ってきます。「親方どうぞ」、「はい、これも食べてください」。「おー、ありがとう。遠慮なく戴くよ」。親方のお孫さんは、首都圏で暮らしているので、最近、会えていないようです。それもあってか、好々爺のような満面の笑顔です。

楽しいお昼のお弁当の時間。あ、恥ずかしいけど、写して、写して

楽しいお弁当の時間。あ、恥ずかしいけど、写して、写して

エコミュージアムを見学する児童たち

エコミュージアムを見学する児童たち

森の授業の最後、全員で十二湖エコミュージアムを見学しました。白神山地の成り立ちの映像を鑑賞し、ミュージアムの展示物を見て回ります。ここで親方から、森の中で獲ったマイタケをプレゼントされました。「他の学年の仲間たちにも見せておあげ。まだまだ香りは消えないので、それも嗅がしてあげなさい」と親方。受け取った子供たちも大喜び。「ねぇ先生、給食に出してー」

エコミュージアムでビデオを視聴する児童たち

エコミュージアムでビデオを視聴する児童たち

エコミュージアムでビデオを視聴する児童たち

エコミュージアムでビデオを視聴する児童たち

すべてが終わってバスに乗り込んだ子供たちを親方が見送ります。窓に顔を押しつけて、千切れんばかりに振られる小さな手。「良かったなぁ。子供たち、喜んでおったようだ。まさかこの年で、先生になるとは思っていなかったよ。まだまだ老け込んでいられないな」と、背筋を伸ばす親方。そうです。長生きして、子供たちに白神の森の素晴らしさを伝えてやって下さい。私たちも出来る限りのお手伝いをいたしますからね!。

小さな手を力一杯に振る児童たち。「さよならぁー親方。ありがとうございました」

小さな手を力一杯に振る児童たち。「さよならぁ、親方。ありがとうございました」

親方、ありがとうございました。また会えるよね!

親方。きっと、また、会えるよね!

深浦町の「マタギ」伊勢親方⑦-親方、先生になる(上)

10月22日付、東奥日報の小中学生新聞「週刊Juni Juni」の1面に掲載されました。

http://www.toonippo.co.jp/junijuni/pickup/20131022103142.asp

3年生の児童たちにマタギの心得を語る伊勢親方=町立深浦小学校で

3年生の児童たちにマタギの心得を語る伊勢親方=町立深浦小学校で

白神や向白神岳の山頂付近が色づき始め、いよいよ紅葉の季節が幕を開けました。アケビやクリ、山のキノコが頭をもたげ、森の恵みを戴く「マタギ」の伊勢親方は大忙しです。そんな中、町立深浦小学校から親方に、「ゲストティーチャー」の依頼がありました。

棟方先生のお話を聞く3年生の児童たち

棟方先生のお話を聞く3年生の児童たち

担任は、棟方いづみ先生。7月に実施した「白神自然教室」に続く、総合学習授業の一環です。子供たちに、山の動物やマタギの暮らしを伝えてほしいという主旨。対象は小学3年生。最初は教室で、写真を見ながらお話を聞き、二回目は親方と一緒に山を歩いてみよう、というプログラムです。

クマの毛皮の腰当てを順番に触る子供たち

クマの毛皮の腰当てを順番に触る子供たち

「今度は3年生か。よしよし。オラにできることならば、どこへでも出向くぞ」と、親方。地元の子供たちへ、狩猟採集の生活文化を引き継ぐために、二つ返事で引き受けて下さいました。教室で、山で、森の生き物たちと向き合う授業、マタギ学校の開校です。

テレビ画面に映し出されたスライドを見ながら、親方の話を聞く

テレビ画面に映し出されたスライドを見ながら、親方の話を聞く

まず教室での座学。山でクマなどを獲ったり、キノコなどを採集したりしている写真のスライドを見ます。親方の銃を構える姿を見て、「超、カッコイイ!」。でも、撃たれて横たわるクマや皮をむかれるウサギの写真を見ると、「ちょっと、かわいそう‥」。で、キノコや山菜の写真には、「あー、美味しそう!」と、一喜一憂。くりくりした目を輝かせてスライドに見入り、親方の話にぐいぐいと引き込まれてゆきます。

マキリの説明をする親方と聞き入る子供たち

クマの腰当てやマキリなどの説明をする親方と聞き入る子供たち

次は、親方が猟などに使う道具の説明を受けます。まず、獲物を解体するマキリ(マタギの山包丁)や鉈を見せてもらいます。そして、親方が獲ったクマの毛皮で作った腰当てを触ってみました。「わぁー、フカフカで温かそう」。「これを着けていると、雪の上に腰をおろしても、濡れないし、冷たくないんだよ」と、親方が優しい目で答えます。

猟仲間のお孫さんに、クマの腰当てを着けてあげる親方

猟仲間のお孫さんに、クマの腰当てを着けてあげる親方

「どうだい?」と聞く親に、「なんか不思議な感じ」と答える女児。世代を超えた交流になった

「どうだい?」と聞く親方に、「なんか不思議な感じ。でも気持ちいい」と答える女児。世代を超えた交流

「誰か着けたい人」と希望を募ると、「ハイハイ、ハイ」と、皆が競い合って手を挙げます。その中に、親方が昔一緒に山を歩いたマタギ仲間のお孫さんがいました。「よし、じゃこっちへおいで」と、その娘を呼び寄せ、着けてあげると、「私、親方の事、知ってるよ。お祖父ちゃんのお友達だったんだね」。その言葉に、ホッコリとした笑顔を見せる親方。世代を超えた繋がりを感じさせます。

さぁ、次は誰だい?。「ハイハイハイ」

さぁ、次は誰だい?。「ハイハイハイ」

「どう、似合う」と振り返る男児。親方も苦笑い

「どう、似合う」と振り返る男児。親方も苦笑い

雪の上を歩くための輪かんじきを装着する親方

雪の上を歩くための輪かんじきを装着する親方

次は雪の上を歩く親方手作りの輪かんじき。まず見本として、自らの足に装着した後、子供たちにも着けさせます。「ホラ、歩いてごらん」と親方。「ワー、軽い。けど、歩き辛い」。初めてのかんじき体験によろめいたり、笑ったり。山の中で、猟犬や猟間に合図を送るために使う、ライフル銃の「薬きょう笛」も実演してくださいます。

薬きょうを口に当てて息を吹き込む。「ヒュー」と少し物悲しい音が出る

薬きょうを口に当てて息を吹き込む。「ヒュー」と少し物悲しい音が出る

薬きょうを口に当てて息を吹き込む。「ヒュー」と少し物悲しい音が出る

私も鳴るかな。うーん、難しいよ‥

次はボクだよ。「ヒュー、ヒュー」。よし、やったー

次はボクだよ。「ヒュー、ヒュー」。よし、やったー

これにも子供たちは、「吹いてみたい」と熱心に手を挙げます。競うように、口元に当てて息を吹き込みますが、音が出る子はごく僅か。「うーん、難しいよ‥。でも親方、この音はどれくらい先まで聞こえるの」。「そうだな、障害物がなければ1キロは聞こえるかな。それぐらい離れた場所の犬が、笛を吹くと飛ぶように帰ってくるよ」

今日の授業はこれで終わり、と先生の声。名残惜しそうな子供たち

今日の授業はこれで終わり、と先生の声が。名残り惜しそうな表情をする子供たち

ここで、「さぁ、今日の授業はここまで。次は森の中で親方のお話を聞きましょうね」と、いづみ先生。「えぇー」と名残り惜しそうな子供たち。「じゃ、今度は山で、一緒にキノコでも探そうな。それまで元気にしているんだよ」。授業の終了後、纏わりつくように集まってくる子供たちに囲まれて、親方は上機嫌で呟きました。(下に続く)

小学校の道徳の公開授業と講演会

道徳教育研究協議会の全体会議で、挨拶するいわさき小学校の柳澤 弘幸校長先生=いわさき小学校で

道徳教育研究協議会の全体会議で挨拶する、いわさき小学校の柳澤 弘幸校長先生=いわさき小学校で

今年は、白神の山々と中秋の名月を絡めて撮影しようと目論んでいましたが、その前後に講演会や公開授業が飛び込んできて、それどころではありません。夜間に撮影へ出かけるどころか、原稿書きと読み上げる練習に毎夜、忙殺されました。しかも、同日に重なって開催されることになったので、二人共にパニクって、テンパってしまい、右往左往するのみ。上手くできたかどうか、皆様からの批評が怖いです。

道徳の公開授業を受ける6年生たち

道徳の公開授業を受ける6年生の児童たち

先生からの問いかけに、立ち上がって答える

先生からの問いかけに、立ち上がって答える

先生からの問いかけに3人娘も積極的に発言

シノリガモ観察の3人娘も積極的に発言

まず午前中は、いわさき小学校の可愛い子供たちの「公開授業」に、ゲストティーチャーとして招かれました。公開授業の教科は「道徳」。青森県教育委員会が主催する、道徳教育研究協議会のプログラムの一環で、実際に授業をする姿を、他校の先生方や保護者、地域の人たちに広く見てもらおうという試みです。夫は6年生、私は3年生を受け持ちました。

世界自然遺産・白神山地の話をする6年生担任の青木先生

児童たちに、世界自然遺産・白神山地の話をする6年生担任の青木竜太先生

協議会で報告する青木先生

協議会で報告する青木先生

とても楽しい内容。こんな授業を受けたかったなぁ

とても楽しい内容。こんな授業を受けたかったなぁ

いずれも、世界自然遺産の白神山地や十二湖など、身近な自然を題材に、故郷の良さや自然保護などについて子供たちに考えてもらうのが目的です。3年生は生き物の写真を見せながら、白神山地の生物の多様性をお話し、6年生は深浦町の自然の素晴らしさと生活文化の大切さを講義いたしました。

協議会で報告する3年生担任に七戸先生

協議会で報告する3年生担任の七戸明美先生

他のクラスの先生方も次々と報告

他のクラスの先生方も次々と報告。5年生の担任・林圭子先生

2年生の担任からも報告

2年生の担任・今裕子先生からの報告

1年生の担任からも報告

1年生の担任・菊地規雄先生も報告

4年生の担任からも報告

4年生の担任・佐藤美和子先生も報告

私たちの持ち時間は、授業最後の数分間。教育のプロの先生方や、お母さんたちが参観される前でお話するのは生まれて初めてです。とても緊張しました。が、多くのギャラリーをものともせず、いっぱい手を挙げて、のびのびと発言する子供たちが可愛くて、おどおどしている自分たちが恥ずかしくなりました。

授業の終わりに、学んだ事を感想に書く。皆んな、きちんと理解できました

授業の終わりに、学んだ事を感想に書く。皆んな、きちんと理解できました

覚悟を決めて、エイや!。最後は笑顔で終えることができました。私が小学生の頃は、道徳といえば某テレビ局の番組を鑑賞して終わり、ということが多かったのですが、工夫が随所にちりばめられた今回の授業をみていると、時代は変わったなぁ、と感慨深いものがあります。同時に、準備された先生方の努力とご苦労がしのばれます。本当にお疲れ様でした。

道徳協議会に参加された教育関係者や保護者ら

道徳協議会に参加された教育関係者や保護者ら

道徳協議会に参加された教育関係者や保護者ら

道徳協議会に参加された教育関係者や保護者ら

我が集落の重鎮も、素晴らしい授業を見せてくださった先生方にお礼と激励を

我が集落の重鎮も、素晴らしい授業を見せてくださった先生方にお礼と激励を

さて、夕刻の講演会は、深浦の町の活性化に取り組む「ふかうら未来塾OB会」が企画して下さいました。深浦町とそこに暮らす人を盛り上げたい、という熱い想いで、勉強会を開くなどの活動を続けているグループです。「豊かな白神の恵みを次の世代に残すために」というテーマで、私たちが森で撮影した動物たちや、白神で生きる「マタギ」伊勢勇一親方の映像を、スライドで見せながらお話ししました。

皆んな、真剣な顔つきでお話しを聞いている

皆んな、真剣な顔つきでお話しを聞いている

聴衆がいても気が散りません。さすが6年生

聴衆がいても気が散りません。さすが6年生

会場となった町民ホールには、なんと、シノリガモを一緒に観察している3人娘の一人が来てくれて、ロボット・カメラの解説や操作などを手伝ってくれました。みなみちゃん、ありがとう。少しは講演会の雰囲気がわかったかな。さあ、今度は、君たちが舞台へ上がって、観察を続けているシノリガモのことを、皆さんにお話しする番だよ。また、一緒に頑張ろうね。

授業が終わって。「さて、明日から3連休だけど、宿題どうしようかな。いっぱいだそうかな。それとも、頑張ったから‥」と、先生

授業が終わって。「さて、明日から3連休だけど、宿題どうしようかな。いっぱいだそうかな。それとも、頑張ったから‥」と、先生

「お願い先生。無しにして。お願い‥」

「お願い先生。宿題は無しにして。お願い‥」

「よし、皆んな頑張ったから、今回は無し」。「わぁー、やったぁー、嬉しい」。「コラコラ喜びすぎ。でも、連休中も事故や病気に気をつけてな。これで終了」

「よし、皆んな頑張ったから、今回は無し」。「わぁー、やったぁー、嬉しい」。「コラコラ喜びすぎ。でも、連休中も事故や病気に気をつけてな。今日はこれで終了」

 

深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方⑥‐「歓喜のマイタケ狩り」

紅葉した木々に彩られる赤石川。まさに世界遺産の絶景だ(昨秋撮影)=鰺ヶ沢町で

紅葉した木々に彩られる赤石川。まさに世界遺産の絶景だ(昨秋撮影)=鰺ヶ沢町で

笹内川に覆いかぶさる紅葉した樹々=深浦町で

笹内川に覆いかぶさる紅葉した樹々=深浦町で

白神山地に秋の気配が漂ってきました。自宅で寝ていても、朝晩、寒くて、少し分厚い布団を被らないと安眠できません。空の色も真っ青な秋色に変わり、夕暮れには赤とんぼが舞い飛んでいます。山々が徐々に色付き始める頃、親方が動き始めます。そう、秋は深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方の力が、最大限に発揮される季節なのです。

ブナやイタヤカエデなどの紅葉した木々に彩られた森=鰺ヶ沢町で

紅葉したブナやイタヤカエデなど木々に彩られた森=鰺ヶ沢町で

クマやアナグマなどの獲物は、この時期、冬眠のためにたっぷりと食べて、脂が乗ってきます。猟期に入り、木々の葉っぱが落ちる頃、親方は鉄砲を担いで山々を歩きまわります。そしてクマを見つけたら、すぐに仲間を招集します。決して、ひとりでクマを撃とうとしません。必ず、信頼が置ける猟友会のメンバーを集めて仕事をします。それは、若いメンバーに経験を積ませるためと、絶対に事故を起こさないためにです。クマ狩りは危険と隣り合わせだからです。

色付いたブナ

色付いたブナ

色づいたブナの木越しの木漏れ日

色づいたブナの木越しの木漏れ日

そして、秋といえばキノコ。ブナなどの広葉樹の朽木や倒木に、花が咲いたように生えてきます。特に9月に入ると親方の目の色が変わってきます。キノコの王様「マイタケ」が出てくるからです。これは、サルノコシカケ科の食菌で、主にミズナラの木の根元などに生えてきます。まれに桜の木にも出ることがあるといいます。

ミズナラの木の根付近に出たマイタケ=場所は秘密

ミズナラの木の根付近に出たマイタケ=場所は秘密

木下の岩場に出たマイタケ

木下の岩場に出たマイタケ

その名の由来は、見つけた人が喜びのあまり、舞い踊るから、舞茸(マイタケ)と名付けられたとされているそうです。ご多分に漏れず、私たちも初めて見つけたときは、大歓声を上げてはしゃいでしまいました。親方によると、このマイタケ。色によって幾つか種類が分けられています。白葉、茶葉、黒葉の3種類。黒葉が肉厚で、最も美味しくて価値があるとされています。

ミズナラの巨木の脇に出たマイタケと伊勢親方

ミズナラの巨木の脇に出たマイタケと伊勢親方

素晴らしい味と香りのキノコなのですが、実は見つけるのがたいへん難しいとされています。それは、100本ミズナラの木があれば、その内の1本に出るか出ないかの確率だからです。そして、岩が多い、険しい地形にある木の根付近に出ていることが多く、そこまでたどり着くのも容易ではありません。親方と一緒に歩いた夫が、「俺、マイタケも欲しいけど、命が惜しいわ‥」とビビるぐらいです。

マイタケを手に取る親方

マイタケを手に取る親方

情けない発言なのですが、私の同行が許されないぐらい厳しい所なので、黙って聞かざるを得ません。まぁ、普段から、後先を考えずに突撃する夫とは思えないぐらいの弱気発言なので、よほど恐ろしかったのでしょう。崖から落ちて、死んでしまったら元も子もないので、マイタケ狩りだけは決して無理をしないように、言い含めてあります。

崖にぶら下がってマイタケを収穫する親方

崖にぶら下がってマイタケを収穫する親方

去年は豊作だったマイタケですが、今年も期待が持てそうです。親方は、「雨が多かったし、冷え込みも早い。楽しみだびょん」と、燃え上がった目で呟きます。また、太りすぎの夫も連れられて、ヒイヒイ言いながら急斜面を登っていくのでしょう。お願いだから、落ちないでね。ホント、死ぬ高さだからね。

このキノコは、通称「カノカ」(ブナハリタケ)。香り高く、美味。すき焼きや油炒めに最適

このキノコは、通称「カノカ」(ブナハリタケ)。香り高く、美味。すき焼きや油炒めに最適

さて、このマイタケ。頻繁に手に入るキノコではないのですが、採れるときには一度に40~50kgも収穫できる時があります。それは、同じ木の周りに5~6株も出ていることがあるからです。でも、他の雑菌に弱いとされており、不用意に木の周りを歩き回ってたり、幼菌に息を吹きかけたりしても、ダメになることがあると言い伝えられています。

雪を被って凍りついたナメコ。溶かせば美味しく戴ける

雪を被って凍りついたナメコ。溶かせば美味しく戴ける

そして、刃物の使用も厳禁だそうです。ゆえに親方は、手で摘み採ったり、落ちている枝を削って地面から掘り起こしたりして、収穫します。普段は優しい親方ですが、ことマイタケになると、厳しい決まりを私たちにも課してきます。それほど、重要な存在なのでしょう。

皮をむくのが面倒だが、とても美味しいムキタケ。少しヌルヌルした食感

皮をむくのが面倒だが、とても美味しいムキタケ。少しヌルヌルした食感

香りも味も抜群の食菌。調理の王道は、やはり天ぷらでしょう。歯ごたえが良く、噛むと紅葉のブナ林の香りと芳醇な味が口一杯に広がります。市販されている養殖物とは、全くの別物。素晴らしい!。まさにキノコの王様です。更に、食物繊維がたっぷりで、ビタミンB2やD2も豊富に含まれていることから、ガンや成人病予防にも効果があるとされています。ダイエット効果もあるそうですが、たくさん手に入る訳でもないので、デブっちょ夫婦の変身アイテムとしては難しそうです。

マイタケの大収穫で、得意そうな親方

大収穫だったマイタケの前で、得意そうな親方

そうこうしている内に、また親方から連絡が来ました。「おーい、そろそろ『◎◎◎』に行くぞ。もう出ているかも知れんし。早くいかんと、敏捷い奴らにやられるぞ」。親方が知るマイタケの木は何本あるのか判りません。100本を遥かに超えていそうですが、詳しい話はうやむやです。

収穫したマイタケの一部を手に持ってキノコ狩りメンバーで記念撮影

収穫したマイタケの一部を手に持ってキノコ狩りメンバーで記念撮影

マイタケは、出る木の存在を家族にも知らせずに墓場まで持ってゆく、とされる幻のキノコですから、その場所も木も大切にされているのでしょう。「オラが死んだ後は、お前らが木を引き継ぐんだぞ」と仰ってくださいます。とても嬉しいお話です。キノコを手に入れることよりも、そこまで信頼して戴けるのが何よりもの幸せです。親方、できればその意志を引き継いでゆく所存です。

手で持ちきれないほどの株。厳しい親方の表情も緩む

手で持ちきれないほどの株。厳しい親方の表情も緩む

でも、そんなに早く死ぬと言わないで、長生きしてください。まず、目標は100歳ですね。そして、90歳までは一緒に山を歩きましょう。毎年、不老不死の妙薬マイタケを食べていれば、それも可能ですよ。じゃ、そろそろ例の場所へ行きましょうか。え、どこかって?。(ΦωΦ)フフフ…。当然、秘密ですよ。

次はナメコとナラタケのシリーズをお届けする予定

次はナメコとナラタケのシリーズをお届けする予定

 

子どもたちによるシノリガモ観察⑥「番外編」

読売新聞に掲載されました。

下記の「YOMIURI ONLINE」のURLで、記事と写真が配信されています 

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20130902-OYT8T00550.htm

河口から離れないシノリガモの親子=深浦町で

河口から離れないシノリガモの親子=深浦町で

シノリガモの観察を続けている子供たちですが、先日、写真撮影に挑戦しました。夫の指導の下、巣立ちを目前に控えたカモの親子を、800ミリの超望遠レンズで追いかけます。「レンズの振り方はこうだよ」、「オートフォーカスなので、ピントはファインダー内にある赤い印で合わせてごらん」と夫。子どもたちは、三脚に取り付けた大砲のような望遠レンズ越しにカメラを構えて、真剣に撮影します。

海に出て、波間の揉まれながら餌を採る親子

海に出て、波間の揉まれながら餌を採る親子

皆、飲み込みが早くて、カモの姿を素早くとらえている様子です。いいぞ、将来はカメラマンになれるかな。もう、巣立ちを迎え、いつ川からいなくなってもおかしくないカモたち。夕闇が迫る中で3人娘は、別れを惜しむようにそれぞれの思いを込めてシャッターを切っています。

3人娘が撮影したシノリガモ。日没後の光の中で、よく撮れている

3人娘が撮影したシノリガモ。日没後の光の中で、よく撮れている

カモたちの就寝を見届け、子供たちを自宅に送り届けた後、鼻歌交じりで家に帰った夫。どれどれ、と嬉しそうに画像をチェックしてみると、あれっ?、と変な声。見ると‥、なんと全ての画像がモノクロで撮影されています。うっかり者の夫が、カメラの設定を間違えて、子供達にも撮影させたようです。

日没後、岩の上に登った親子。今日はここで寝るのかな

日没後、岩の上に登った親子。今日はここで寝るのかな

あーぁ‥、と溜め息を吐いていますが、可哀想なのは子供達。写真の仕上がりを見て、さぞかしガックリすることでしょう。仕方ないので、そのモノクロ写真を紹介します。ごめんね、3人娘。夫のミスとは裏腹に、とてもよく撮れていましたよ。皆さんに見て頂きましょう。

岩に上がると、全羽が一斉に毛ずくろいをする。もう一人前になれたかな

岩に上がると、全羽が一斉に毛ずくろいをする。もう一人前になれたかな

さて、シノリガモのヒナ達ですが、頻繁に飛ぶ練習もしており、河口付近から上流へは遡上して来なくなりました。釣り師の影響もあったのでしょうが、もう巣立つ直前です。いや、ここ数日、姿を見かけないから、8月末に巣立ってしまったのかもしれません。後、1週間ほど、観察を続けてから、結果を報告いたします。でも、3人娘の調査は、まだまだ続きます。

一羽で海にいても平気。もう、自由に飛べるようになってきたからね

一羽で海にいても平気。もう、自由に飛べるようになってきたからね

これから秋に向けて、重要なフィールド調査をいくつか予定しています。同時に、調査、観察のデータをまとめ、関係各機関にお送りするのと、この1年の集大成となる発表会が目白押しになってきそうです。さぁ、のんびりはしていられないわよ。データを集める技術も、観察する力もついてきた3人娘。次は、それをまとめて発表する訓練をしなければ。この1年の調査の締め括りまであと一息だから、一緒に頑張ろうね。

仲良く岩に登るヒナ。3人娘が撮影したカット

仲良く岩に登るヒナ。3人娘が撮影したカット

海に向けて飛ぶ訓練をするヒナたち

海に向けて飛ぶ訓練をするヒナたち。飛翔力は劣るが体格はお母さんを越える個体もいる

子どもたちによるシノリガモ観察⑤「秋の気配」

双眼鏡でシノリガモを観察。その上空には、うろこ雲が一面に広がっていた=深浦町で

双眼鏡でシノリガモを観察。その上空には、うろこ雲が一面に広がっていた=深浦町で

数日来の猛暑が嘘のように、涼しくなりました。昼間はまだ、太陽が照りつけて残暑も厳しいのですが、朝晩は窓を締め切らないと寒いほど。さすが、北東北の日本海側の気候です。めっきりと秋の気配が漂ってまいりました。白神が最も美しく輝く季節の到来です。 

シノリガモのフンを分析し、その食性を調査する手法を聞く6年生の児童ら

シノリガモのフンを分析し、その食性を調査する手法を聞く6年生の児童ら

本日は、月に1回受け持っている、いわさき小学校6年生の総合学習の授業がありました。シノリガモの観察を通して、白神山地の自然や生き物への理解を深め、自分たちが暮らす故郷の素晴らしさを再認識してもらうのが目的です。午前10時過ぎに、11人の可愛い児童たちが、夏休み明けの真っ黒に日焼けした笑顔を見せてくれました。

河口の石の上に上がったお母さん

河口の石に上がる

海へ出て、波間も潜りながら餌を探すシノリガモの親子

海へ出て、波間に潜りながら餌を探すシノリガモの親子

が、残念ながら、肝心のシノリガモたちが川にいないのです。最近の観察では、朝早くから海に出てしまい、午後遅くならないと帰ってきません。昼間は海中に潜って餌を捕ったり、飛ぶ訓練をしたりしているらしいのですが、これまでは巣立ちの寸前まで、昼間も川で過ごしていたので、今年は行動が変です。 

河口付近を遡るヒナたち

河口付近を遡るヒナたち

その理由は、鳥たちが子育てをしている流域に入り込むアユ釣り師の数が例年よりも多く、これを警戒して川を遡れなくなってしまったようです。特にお盆休みの前後は、常時人が川面に降りて釣っている状態でした。釣り師たちには看板を設置し、マスコミ報道も通して、一部区間の釣りを自粛してくださるようお願いしたのですが、どうしても理解して戴けない方がいるようです。 

波を潜る親子

波を潜る親子

河口付近で羽ばたく練習をするヒナ。間もなく巣立ちを迎える

河口付近で羽ばたく練習をするヒナ。間もなく巣立ちを迎える

河川は誰もが使える自由な場所なので、ある程度の立ち入りは仕方ありません。でも、これだけ人が入り込むと、親子の行動が制限され、繁殖活動に影響が出るのは必至です。北の大地から、遥々日本へ旅してきた道化師の姿をした鳥たち。このままの状態が続くと、いずれは営巣地を放棄する可能性もあります。美しく、愛らしい姿をこの地で見られなくなる日も遠くないかもしれません。 

何を食べたのかな?。あ、これは足だよ。こっちは羽根?

何を食べたのかな?。あ、これは足だよ。こっちは羽根?

水で溶かしたフンを濾しとる児童たち

水で溶かしたフンを濾しとる児童たち。校長先生も、そっと見守る

何とかならないものかと、今、国や県と相談しています。自然を愛する気持ちがあるならば、協力のお願いを聞いて戴きたいものです。  繁殖場所は距離にして1キロ足らずの流域です。そこを外せば、どこで釣りをして戴いても問題ありません。口頭でお願いしたら、ほとんどの方は快く理解して下さり、納竿してくださいます。が、一部の方々は強引に川面に降りて釣りをされます。観察を続ける子どもたちも、鳥たちが驚いて逃げ惑う姿や、親とはぐれたヒナが捕食される現場を見ているだけに、とても悲しそうにしています。 

海から帰ってきたら、川でも潜る訓練

海から帰ってきたら、川でも潜る訓練

お母さんと変わらない大きさに成長したヒナたち。ほとんど見分けがつかない

お母さんと変わらない大きさに成長したヒナたち。ほとんど見分けがつかない

さて、試練をかいくぐって生き残った、今年のヒナたち。後、1~2週間で巣立ちを迎えます。もう、飛べるようになっており、いよいよ大海原へ旅立つのです。東北地方の爽やかな秋の到来と共に、別れの時期が近づいてきました。その時を子どもたち、涙なくして耐えられるかな。この夏休みの宿題も、シノリガモの観察で埋め尽くした3人娘。君たちも、いずれは故郷を巣立つ時期が来るんだよ。それまで、精一杯、遊んで、勉強して、白神の素晴らしさを実感しなさい。そして、願わくは帰郷し、家族を作って立派な子どもを育ててね。いつまでも、応援しているよ。

滑るように水面を泳ぐ。もうお母さんと変わらないぐらいに、餌も採れる

滑るように水面を泳ぐ。もうお母さんと変わらないぐらいに、餌も採れる

夕暮れ時、中洲で休むヒナたち。旅立ちは近い

夕暮れ時、中洲で休むヒナたち。旅立ちは近い

子どもたちによるシノリガモ観察④

シノリガモのフンを調査する子どもたち=深浦町で

シノリガモのフンを調査する子どもたち=深浦町で

シノリガモの観察を続ける子どもたちは、今、夏休みの真っ盛り。学校が始まると、自由な時間をとれる時は少ないので、この期間にしか出来ない調査に、じっくりと取り組んでいます。

河原で子どもたちが見つけたカワゲラの抜け殻

河原でみなみちゃんが見つけたカワゲラの抜け殻

そのテーマの一つが、「シノリガモは何を食べているのか」。生態に謎が多いシノリガモ。中でも、日本にとどまって子育てをする個体の食性は、大きな疑問のひとつです。私たちも、目視によって観察してきました。海では海藻やウニ、貝類などを食べている姿を目撃しましたが、繁殖期の川での食性は、確たる答えが得られていませんでした。

シノリガモのヒナと岩の上にした糞

シノリガモのヒナと岩の上にしたフン

でも、熱心に観察を続ける子供たちに、思わぬチャンスがめぐってきたのです。先日の観察会で、カモの親子が、岩の上でお昼寝する姿を見ていた時のことです。カモの足もとに、灰白色の塊が見えます。「あれ、フンじゃないかな」。今までの観察でも、シノリガモが休憩するときに、用を足す姿を見ていました。

子どもたちが採取したシノリガモのフン

子どもたちが採取したシノリガモのフン

それを分析すれば、食性解明の手掛かりがあるかもしれません。カモが上っている岩は、川のど真ん中。うまく採集出来るかどうか疑問でした。が、子どもたちは、「取りに行く!」、「水着持ってきてるし、濡れてもへっちゃら」と、やる気満々。結局、カモが泳ぎ去ったのを見定めて、夫を先遣隊として川に入らせることにしました。

伝染病などが心配なため、マスクと手袋を着用

伝染病などが心配なため、マスクと手袋を着用

猛暑で水量が減っていたため、水の流れもゆるく、深みも無さそうです。ズボンをまくり上げるぐらいで、容易に近づけたらしく、川の真ん中で笑顔で手招きをしています。早速、全員で岩に近づき、フンを採集して持ち帰りました。大さじのスプーンに2杯分ぐらいの量でしたが、期待が持てそうです。

虫眼鏡で内容物を観察

虫眼鏡で内容物を観察

まず、乾燥したフンの重さを測定したあと、目で見て判るものを探します。かなり消化が進んでいるらしく、大量の小石が混ざっているのが目立ちます。次に、これを水でほぐして、さらに細かな内容物を探します。鳥インフルエンザなど、野鳥が媒介する伝染病が怖いので、マスクとゴム手袋を着用しての作業です。

水を加えて、泥や小石と未消化の内容物を分離させる

水を加えて、泥や小石と未消化の内容物を分離させる

水に土などが溶け込んだり、小石が洗浄されたりすると、何かが見えます。あー、虫の頭じゃない、これ!と、かえでちゃんの叫び。こっちは羽根かな?と、理花ちゃんが冷静にピンセットでつまみ上げます。やりました。フンの中に、トビケラの頭部のような物やカワゲラの羽の部分など、水生昆虫の体の一部が未消化のまま残っていたのです。

判別できるものを分離させる

判別できるものを分離させる

子どもたちが採取した水生昆虫の足や頭部など

子どもたちが採取した水生昆虫の足や頭部など

そして、カモが羽づくろいしたときに飲み込んだのか、自らの羽毛の一部も水面に浮かび上がりました。それを撮影した夫の写真を見て、さらに驚きが。肉眼では全く見えなかったのですが、羽根に混じって大量の昆虫の足を確認できました。やはり、シノリガモたちは、川底の水生昆虫を食べていたのです。これは大発見です。玉のような汗をかきながら、マスクと手袋姿で、よく頑張ったね。思わず子どもたちの頭を撫でてしまいました。

シノリガモの羽毛と水生昆虫の足や体の一部。すべてフンから採取した

シノリガモの羽毛と水生昆虫の足や体の一部。すべてフンから採取した

最後に、フンの「水溶液」をろ過して、乾燥させます。私たちの手元にある機材では、これ以上の分析は難しいかもしれませんが、これを貴重なサンプルとして保管します。日本で子育てをするシノリガモの食べ物が分かれば、シノリガモの繁殖地を守るために、何をすれば良いかを考える大きな手がかりに繋がる可能性があります。子どもたちとの活動が、また一つ実を結んだようです。

ホラ、自分たちでしなさい。慎重にね

ホラ、薄く広げて。慎重にね

そして、この子どもたちの観察と調査の取り組みを、朝日小学生新聞さんが取り上げて下さいました。カラーでほぼ1ページ。写真も大きく、シノリガモ親子の愛らしい姿と、子どもの熱心な様子がしっかりとした扱いで掲載されています。私たちのチームは、全員ボランティア活動ですので、このような形で応援して戴けると、大変、励みになります。

img-731112932

 ↑ 紙面のPDFファイル=クリックしてください 掲載紙を読むことができます

朝日小学生新聞の掲載紙面

朝日小学生新聞の掲載紙面

掲載紙と、子どもたちにはノートなどを送って下さり、一同大喜びです。関係者の皆様、本当にありがとうございました。次は現地に取材に来てくださいね。そうすれば、日本全国のお友達に、シノリガモや白神山地の自然のことをいっぱいお伝えできるから、と子どもたちは意気込んでいます。今後とも、よろしくご支援願います。

水でとかしたフンを漉しとる

汚いフンだけど、作業中も満面の笑顔。だって楽しんだもの

さて、夏休みは8月22日まで。宿題の仕上げも、我が家のリビングでやります。シノリガモの観察で忙しかったから、という言い訳は許されないぞ。絵も作文も、シノリガモを題材に、最後の追い込みにかかります。さぁ、もうひと踏ん張り。ガンバレ3人娘!。

シノリガモを題材に水彩画などを描くみなみちゃん(手前)、理花ちゃん(左端)、かえでちゃん(右端)

シノリガモを題材に水彩画などを描くみなみちゃん(手前)、理花ちゃん(左端)、かえでちゃん(右端)

お盆の行事 子ども「ねぷた」

お盆に子どもたちが扇形のねぷたを引き回す「子どもねぷた」=深浦町で

お盆に子どもたちが扇形のねぷたを引き回す「子どもねぷた」=深浦町で

獅子踊りが終わった翌日、地域の子どもたちが待ちわびていた子ども「ねぷた」が実施されました。武者絵などが描かれた扇型の高さ約4メートル、幅約5メートルの扇ねぷたを、十数人の子どもたちが、「ヤーヤドー」という掛け声を上げながら引きます。家々の軒先から、励ましの声を受けながら、集落内を網羅する形で練り歩きます。

武者絵などが描かれたねぷた

武者絵などが描かれたねぷた

この日、ねぷたを引いたのは10数人の地元の子どもたち。小学生が中心ですが、希望があれば、中学生以上でも参加できます。お盆休みで帰省している親子連れの飛び入りもあって、ねぷたの列はどんどん大きくなっていきます。

出発前に皆んなで記念撮影

出発前に皆んなで記念撮影

最後は、大人も入り混じって40~50人程の隊列に。お盆の中日に、限界集落化が進む過疎の村が、タイムスリップしたかのようなお祭りの賑わいとなりました。

出発地点は村外れにある物置前。薄暮の空の下、「歩き始める

出発地点は村外れにある倉庫前。薄暮の空の下、歩き始める

この祭りは、平成元年頃から、地域の子どもたちを楽しませる目的で始められたとされています。以前は、お年寄りが中心となって、ねぷたを引いていましたが、少子高齢化が進む中、子どもたちの祭りに変えることで、以前の活気を取り戻そうとする地域の方々の願望も込められているようです。

お母さんに祭りの衣装を着付けてもらう

お母さんに祭りの衣装を着付けてもらう

僕もマイクで叫んでみたい!。まだ早いのよ。もう少しお兄ちゃんになってかえあね

僕もマイクで叫んでみたい!。まだ早いのよ。もう少しお兄ちゃんになってからね

私たちとシノリガモを観察する3人娘も、小学校の最高学年として、行列の先頭を引っ張りながら、声を張り上げています。年少の子どもたちを引率する姿が頼もしくて、思わず目を細めて見入ってしまいました。人が嫌がるような仕事は率先して引き受け、お菓子やジュースが振舞われるときには、小さな子を優先します。さすが、地域のお姉さんだね。なぜか我が事のように嬉しくて、鼻高々です。

「ヤーヤドー」の掛け声を大声で張り上げながら、先導する3人娘

「ヤーヤドー」の掛け声を大声で張り上げながら、先導する3人娘

3人が最初の掛け声を上げると、それを追って年少組が追随する

3人が最初の掛け声を上げると、それを追って年少組が追随する

 この地区では過疎化が進み、子どもたちも激減しています。若者が働く場がなく、都会からの移住者を引き寄せる魅力も乏しいとされる集落。ここを終の棲家と決めている私たちは大好きですが、更なる移住者を呼び込める起爆剤は、なかなか見つかりません。

お囃子の太鼓も子どもたちが叩く

お囃子の太鼓も子どもたちが叩く

小さな子でも、リズムのテンポよく太鼓を叩ける

小さな子でも、リズムのテンポよく太鼓を叩ける

仕事さえあれば、この村から出て都会で暮らす人たちも戻ってきそうですが、今のままでは為すすべがなさそうです。私たちは、出来る限りの力で、この町の魅力を取材し、情報発信をし続けていきます。このホームページを見て下さった皆さまも、よければ一度おいで下さい。そして、この町の素晴らしさを感じて戴けたら、ぜひリピーターとなって、応援してください。

道一杯に広がってねぷたを引く人たち

道一杯に広がってねぷたを引く子どもたち

少なくとも私たち夫婦は、日本の原風景が残る深浦町を胸を張ってお薦めいたします。

祭りが終わると、ねぷたを引いた子はお菓子がもらえる。皆んな、これも楽しみ

祭りが終わると、ねぷたを引いた子はお菓子がもらえる。皆んな、これも楽しみ

限界集落に揺れるねぷたの灯。いつまでも消えないで欲しい‥

限界集落に揺れるねぷたの灯。いつまでも消えないで欲しい‥

子どもたちによるシノリガモ観察③

青森の県紙・東奥日報で紹介されました。下記URLをクリックしてください。

http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2013/20130802140138.asp?fsn=eb33f76037153e93cde084f7e7644d6f

8月8日午後6時40分すぎに、青森朝日放送の「スーパーJチャンネル」で放映されました。

カメラを構える藤岡アナウンサーとブラインドテント内で観察する子どもたち=深浦町で

シノリガモを撮影する藤岡アナウンサーとブラインドテント内で観察する子どもたち=深浦町で

地元の子どもたちによるシノリガモの観察が続いています。その様子が、8月8日に青森朝日放送の夕方6時すぎから始まる「スーパーJチャンネル」で、ニュースとして放映されました。藤岡勇貴アナウンサーが取材に訪れ、自ら撮影もこなして、約5~6分間の番組を作って下さいました。

ブラインドテントの前からも撮影

ブラインドテントに密着して撮影

ヒナが母鳥と変わらない大きさに成長しているため、夫が1ヶ月以上前に撮影したヨチヨチ歩きの親子の写真と共に生態などを詳しく紹介。人当りが柔らかくて、好青年の藤岡アナウンサーのインタビューに、子どもたちはとてもお利口にお答え出来たのですが、黒い鉢巻にサングラスをかけて語る夫の姿が怪しくて、番組に水を差したのではないかと心配しています(笑)。

夕暮れが迫り、川面が黄金色に染まる中、岩の上で休む親子

夕暮れが迫り、川面が黄金色に染まる中、岩の上で休むシノリガモの親子

さて、しばらく報告できていなかったシノリガモの近況です。一部のヒナはグイグイと成長しており、子育ても順調に進んでいます。しかし、非常に悲しい出来事もありました。2組のグループのうち、6羽のヒナを連れた親鳥が猛禽のハヤブサに襲われたらしく、行方不明になってしまいました。そして、親を失った6羽のヒナたちも、カモメやウミネコなどに次々と襲われ、全滅したようです。

岩の上で休む時も周囲を警戒するお母さん。その羽根の下に隠れる6羽のヒナたち

岩の上で休む時も周囲を警戒するお母さん。その羽根の下に隠れる6羽のヒナたち

一度は、観察する子どもたちの目の前で、ウミネコがヒナを咥えて飛び去ってしまいました。「あー!」、「コラー」という、子どもたちの叫び声も届きません。まさに一瞬の出来事、弱肉強食の残酷なシーンです。「浜田さぁーん。ヒナが連れてゆかれたよ!。どうなるの‥」。「くちばしの横から、ヒナの白い綿毛が見えていたよ」。一同が、青ざめた顔で唇を震わせています。

羽を広げて渓流の岩場を上るお母さん。ハヤブサに襲われてしまったようだ

羽を広げて渓流の岩場を上るお母さん。ハヤブサに襲われてしまったようだ

昨年も、1組の親子がカラスなどに襲われて全滅しています。毎年繰り返される厳しい野生の現実。自然の摂理とはいえ、子どもたちにはあまり見せたくない場面でした。でも、それを直視できないと、生き物の観察は続けられません。がっくりと肩を落としながら、その日の観察日記を書く子どもたちと、残りの親子の無事を祈らずにはいられませんでした。

この群れが全滅してしまった

この群れが全滅してしまった

さて、シノリガモが子育てする川は、渓流に住むイワナやアユが釣れるポイントとして、地元だけでなく首都圏からも大勢の釣り客が訪れます。7月から8月にかけて、週末になると他府県ナンバーの4輪駆動車やレンタカーを川沿いに停めて、釣りを楽しまれています。

川の中に立ち入って魚を獲る釣り師

川の中に立ち入って魚を獲る釣り師

この釣り師たちは川に立ち入って竿を振るため、子育て中のシノリガモには重大な脅威になります。昨年も、アユ釣り師に追われたヒナたちが、時期尚早に巣立ってしまいました。まだ完全に飛べる状態ではなかったので、とても心配です。今年も数多くの方々が訪れ、川に立ち入られます。理解がある方やマナーの良い方は、こちらの趣旨やシノリガモの貴重さに共感していただけるようで、早々に別の川へ移動して下さいます。

子どもたちと看板を立てる

子どもたちとシノリガモの保護願いとマナー向上の看板を立てた

残念ながら理解が得られない時は、強引に川面へ降りて竿を振り、川の中を歩かれます。ある時は、シノリガモを大切に思う地域の人とトラブルになりかけ、駐在さんの手を煩わせたこともありました。そのため、青森県や深浦町などと協議して、町と自治会と共同で看板を設置し、シノリガモの繁殖行動を保護するためのお願いを訴えることになりました。看板は、釣り師がアプローチする場所に2箇所設置。これを地元紙の東奥日報がニュースとして、朝刊の第4社会面で取り上げて頂きました。

岩の上に上がると親子が揃って羽繕い

岩の上に上がると親子が揃って羽繕い

それでも、立ち入る人は後を断ちません。国や県が管理する河川でのレジャーを私たちが規制することはできませんので、来られる方々に看板を見てもらい、声を掛けてお願いし続けています。にもかかわらず、個人の土地に無断で駐車し、食べた弁当のケースや飲料の缶、針や鉛のオモリがついたテグスを捨ててゆく、マナー無き釣り師も数多く、不安と不満は募る一方です。

看板設置の様子を東奥日報の記者さんが取材してくれた

看板設置の様子を東奥日報の本間記者が取材してくれた

漁業権のある管理釣り場ではないので、マナーの悪い方を規制する術はありません。どうしたら良いか、頭を抱え込んでいます。できれば、国や県などの行政が腰を上げて、保護活動のお手伝いをしてくれたら、もう少し打開策も見えてくるような気がするのですが‥。本来、この種を絶滅危惧に指定しているのは、環境省であり、県なのですから。

ヒナを引き連れたお母さん。今はもういない‥

ヒナを引き連れたお母さん。今はもう、この親子を見ることはできない

ただ県は、シノリガモの繁殖活動を守るために、違う形で柔軟な対応をして下さっています。それは、この川で行われている河川改修工事の中断です。管轄の鰺ヶ沢道路河川事業所では、40~50年前に作られた砂防堰堤に切れ込みを入れて、魚道を整備する事業を、昨年から2年計画で実施してきました。それが、シノリガモの繁殖を正式に確認してからは、繁殖期である3月末から9月末まで、工事をストップするなど、工期や工法を変える配慮をして下さっているのです。

魚道整備の工事が予定されている堰堤

スリットが入る前の堰堤。魚道を整備など、環境に配慮した工事を進める予定

昭和37年に完成した堰堤。土砂が堆積して満杯になっている

完成時期は昭和37年。土砂が堆積して満杯になり、堰堤としての機能を果たしていない

つまり、繁殖期に被さらない10月から翌年の3月までに、川に溜まった土砂を運び出し、堰堤に切れ込みを入れる作業を突貫されています。工事を請け負っているのは地元で土建業を営む「熊谷組」さん。現場付近は、12月には雪が積もり始めるので、手間は取られるし、危険が伴うので、たいへんなご負担をお掛けしています。

スリットを入れられて完成したかに見える堰堤。だが、老朽化が進んでいたため、補強工事が必要になった

スリットを入れられて完成したかに見える堰堤。だが、老朽化が進んでいたため、補強工事が必要になった

最も積雪が多くなる1月~3月は、半日は雪かきをして、残りの時間で作業を進める、とした工程だそうです。それでも、嫌な顔ひとつせず、貴重な生き物のために、全面的な協力を頂いています。下流に土砂が流れないように、フィルターを設置して、川が濁らないような工夫もして下さっているそうです。

新緑が美しい白神山地を流れる川に作られている堰堤

新緑が美しい白神山地の川に作られている砂防堰堤。険しい山々から絶えず土砂が流れ込む

こうして、繁殖中のシノリガモ親子と、その観察を続ける子どもたちは、皆さまの協力を得ながら成長を続けています。8月末から9月にかけて、ヒナも巣立ちのシーズンを迎えます。その時まで、行政、工事関係者、地元の方々らとガッチリとスクラムを組んで、調査し、見守ってゆきます。皆さまのご支援とご協力をお願いいたします。

岩の上で羽ばたくお母さん

岩の上で羽ばたくお母さん

青森の県紙・東奥日報で紹介されました。下記URLをクリックしてください。

http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2013/20130802140138.asp?fsn=eb33f76037153e93cde084f7e7644d6f

8月8日午後6時40分すぎに、青森朝日放送の「スーパーJチャンネル」で放映されました。