みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
「活動」-白神の森と生き物たち

活動報告①

白神山地の生き物たち「ツキノワグマ」

観光地にある池から上がってきたのか全身に水滴がついたツキノワグマ。猛暑が続いた白神の夏、雨が降らない日が続いたので、水浴びでもしたのかな、深浦町の十二湖で

観光地にある池から上がってきたのか全身に水滴がついたツキノワグマ。猛暑が続いた白神の夏、雨が降らない日が続いたので、水浴びでもしたのかな、深浦町の十二湖で

白神山地に棲む哺乳動物の頂点に君臨しています。人間のほうが上だ、という指摘もあるでしょうが、武器もなく対峙したら、まず勝てません。鋭い爪と牙、そして人間の手足ぐらいの丸太なら簡単にへし折ってしまう馬鹿力の持ち主です。私たちも山を歩くときは、必ずクマよけスプレーと鉈(なた)、しっかりとした杖を手にしています。春先に親子連れなどと突然出くわすと、大変なことになりますので、我が身を守るためにもこの3点セットは必ず持っていきます。

林道上を歩くツキノワグマ。市販のセンサー一体型カメラなので画質がよくない

林道上を歩くツキノワグマ。市販のセンサー一体型カメラなので画質がよくない

 ネコ目クマ科に分類され、主に木の実などの植物質のものを食べていますが、昆虫や肉もしっかり食べる食肉類です。アジアクロクマとも呼ばれ、北海道に生息するヒグマよりもひと回り以上は小ぶりです。本州以南に棲息していますが、九州では絶滅宣言が出され、四国でも相当数が減っているようです。特に九州や四国は有数の林業振興地なので、植林したスギやヒノキの皮をはいでしまう事から有害鳥獣として駆除対象になったのも、大きく数を減らした要因のひとつです。

 白神では、山菜やキノコ採りに出かけると、3回に1回は遠方で見かけたり、通り過ぎたあとに木から滑り降りてきたりして、クマを目撃できる確率の高い森です。が、距離が遠すぎるのと、こちらが気づく前に不意をついて木から降りてくるので、なかなかきっちりと撮影できない、と夫はこぼしています。

カメラを仕掛けて最初に写った個体。耳などの顔の一部と前足が片方だけ見えた

カメラを仕掛けて最初に写った個体。耳などの顔の一部と前足が片方だけ見えた

更に森へ行くと、クマのサインがいくつかあります。ナラやミズキなどの樹の上に、寄生木(やどりぎ)のような枝の固まりがあります。これはクマが木に登って新芽や実などを食べた「クマ棚」です。白神の森をマタギと歩きますと度々みられますが、その季節ごとの木の実や野いちごなどの実り具合、山菜の繁茂の量で、棚が見られる数も違ってくるようです。そして、クマがよく登る木には、無数の爪痕が残っています。母子もあれば大型のオスの深い爪痕もあります。特にブナの木肌の痕跡は目立つので、マタギたちは行動のひとつの指標にしているようです

樹皮がクマの爪痕だらけになっているブナ。遺産地域のバッファゾーンに近い森で撮影、深浦町で

樹皮がクマの爪痕だらけになっているブナ。遺産地域のバッファゾーンに近い森で撮影、深浦町で

地元のマタギを始めとする狩猟者にとって、クマは重要な存在で、古くから獲られてきました。肉はもちろん、内臓や脂肪、毛皮や骨も余すことなく利用されています。記録によると、江戸時代には津軽藩へ肉や毛皮、熊の胆などが献上されていたそうです

高価な薬にするため処理される熊の胆

高価な薬にするため処理される熊の胆

白神山地のクマは有史以来、哺乳類の頂点として森の中で君臨してきました。しかし、知恵と道具を得た人間が、その地位を脅かしました。特に縄文以前の時代からクマを狩り続けてきた狩猟者(マタギ)の存在は、恐るべき天敵で、何度も生きるか死ぬかの争いを繰り広げてきたようです。

巻狩りでマタギたちに仕留められたツキノワグマ。熊猟用に仕込まれたアイヌ犬が踵に噛み付いていた

巻狩りでマタギたちに仕留められたツキノワグマ。熊猟用に仕込まれたアイヌ犬が踵に噛み付いていた

それが、時代の変化とともに、様変わりしつつあります。白神山地の麓の村々では、過疎と限界集落化が進み、狩猟で生計を立てる人がいなくなってきたのです。クマ狩りには、様々な手法が用いられています。東北のマタギたちは伝統的に巻狩りを重んじてきました。確実に仕留めることと、安全性に留意するためです。それが最近では、狩猟者の数が激減し、巻狩りができるほどメンバーが集まらなくなってきました。そして、マタギの後継者もほとんどいません。有史以来続いてきた人間の伝統的な生活文化が衰退し始めことで、クマやその他の野生動物たちが活動範囲を広げています。それがお互いにとって思わぬ弊害を生み出しています。

推定で100キロを軽く超える大型のクマ。観光ガイドが客を案内する遊歩道のすぐ脇で撮影、十二湖で

推定で100キロを軽く超える大型のクマ。観光ガイドが客を案内する遊歩道のすぐ脇で撮影、十二湖で

深浦町など、白神山地周辺の市町村では、ここ最近、野生動物による農作物への食害が深刻になってきました。それは、クマだけでなく、サルや外来生物なども被害を及ぼします。その話は、近々、アップする予定です=写真下、田んぼの米を食べたあと、道路を横切って森へ戻ったクマの足跡、深浦町で。(律)

田んぼの米を食べたあと、道路を横切って森へ戻ったクマの足跡、深浦町で

田んぼの米を食べたあと、道路を横切って森へ戻ったクマの足跡、深浦町で

 

 

 

 

 

 

白神山地の生き物たち「ニホンアナグマ」

 

自動撮影装置を不思議そうに見つめる

自動撮影装置を不思議そうに見つめる

ちょっと見の毛色や顔の模様がタヌキに似ていますが、分類学上ではイタチ科で、タヌキはイヌ科です。白神周辺では、「ムジナ」や「マミ」と呼ばれています。国内では、古くから兄弟のように混同されており、地域によっては正反対の呼び名がつくことも。土の斜面などに穴を掘って住処にしていますが、そこをタヌキに使われることもあり、「同じ穴のムジナ」というコトワザが生まれたようです。梅雨時や真夏の雨上がりの夜、国道沿いに数匹の群れが現れ、カエルや昆虫をあさる姿をしばしば見かけます。車にひかれたカエルを食べようとして、自らも撥ねられてしまうケースも少なくないようです。目があまり良くないのかなぁ。

前足には鋭く長い爪が見える。この手で硬い地面も簡単に掘ってしまう

前足には鋭く長い爪が見える。この手で硬い地面も簡単に掘ってしまう

白神山地の林道を歩くと、直径20センチ前後の穴が、地面にポコポコと開いていることがあります。時にはズラリと、十数個も並んでいます。アナグマが餌のミミズやコガネムシなどの幼虫を求めて掘り返し、鼻先で土中を探った跡です。青森に引っ越す前に暮らしていた西日本では、こうした穴はイノシシが作っていました。でも、ここはイノシシの棲息が確認されていないので、穴だらけの「林道工事」の犯人はアナグマに間違いないでしょう。初夏の夜、遊歩道脇に仕掛けた装置の足元を掘り返され、傾いた三脚上のカメラには、当事者のアナグマの背中しか写っていなかった、という出来事もありました。

アナグマ①

そして、たくましい前足は穴を掘るだけではありません。機会があれば、小鳥や小型の哺乳類を捕食するのにも使われているようです。池のほとりに張ったブラインドテントの中から、水鳥の子育てを撮影していた私たちの前に、突然アナグマが姿を現しました。水面に浮かぶ巣には、2、3日前に孵ったヒナが数羽。母親が守り、父親が盛んに餌を運んでいます。その様子を対岸からじっと見つめています=写真上。泳ぎが得意でないためか、遠巻きに見守るだけ。お母さんらしく、乳房が発達しています。アプローチできそうな場所を探し、池の周りをグルグル回り始めました。「お腹すいたよ、食べたいよう!」と、ヨダレを流さんばかり。しばらく徘徊してから、あきらめて森へ帰ろうとした時に、ブラインドテントから顔を出した夫と鉢合わせし、大慌てで茂みに駆け込みました。彼女にも、待っている子供がいたのかも‥。その後ろ姿が、ちょっと哀れでした。

けもの道にまたがる倒木を、ズイズイとくぐって歩く。中型犬程度の大きさだが短足で、跳んだり障害物を乗り越えたりするのは苦手

けもの道にまたがる倒木を、ズイズイとくぐって歩く。中型犬程度の大きさだが短足で、跳んだり障害物を乗り越えたりするのは苦手

餌を探すために下ばかり見て歩くせいか、自動撮影にもよく写ります。その写ったコマをよく見ると、模様が特徴的だったり、鼻がピンク色だったり、耳に怪我していたり‥となかなかに個性的です。ずんぐりむっくりした体型とユーモラスな表情に、ひょっとして夫に似ている?、なんだか親近感を覚えてしまいます。

雨の降りしきる森を足早に歩く。毛先も濡れています

雨の降りしきる森を足早に歩く。毛先も濡れている

 

秋が深まる頃には皮下脂肪を蓄えて丸々と肥えてくる

秋が深まる頃には皮下脂肪を蓄えて丸々と肥えてくる

捕まえて食べた人の話によると、かなり美味しいらしいですが、調子に乗って食べ過ぎると脂で腹を下すそうです。

画像を見た時、これ、ホントにアナグマ?と驚いた個体。撮影した中での歴代チャンピオン。たくましすぎる

画像を見た時、これ、ホントにアナグマ?と驚いた個体。撮影した中での歴代チャンピオン。たくましすぎる

アナグマ10

自動撮影をしていて、がっかりすることのトップ3に、メディアを回収しても一コマも写っていない事が挙げられます。夫がカメラのカウントを見て、「ゼロ!」と叫ぶと、一気にショボンとしてしまいます。しかし、アナグマは、春から秋にかけてカメラの前に頻繁に登場し、ボウズを救ってくれました。愛らしい姿で私たちを楽しませてくれますが、初雪が降る頃には、ぴたっと姿を見せなくなります。早々に冬ごもりしてしまう、寒がり屋さんでもあるようです。(律)

 

白神山地の生き物たち「トウホクノウサギ」

昨年12月、例年に比べまとまった雪が降るのが早かったので、まだ完全に保護色にならないまま登場。歌舞伎役者のようなお化粧

昨年12月、例年に比べまとまった雪が降るのが早かったので、まだ完全に保護色にならないまま登場。歌舞伎役者のようなお化粧

20年前に白神を訪ねた時は、西目屋と旧岩崎村をつなぐ弘西林道に夜間、ピョンピョンと飛び出してきたトウホクノウサギ。親子連れを車で轢きそうになり、夫が急ブレーキをかけていた覚えがあります。ウサギの宝庫だなぁ、とその時は感じたのですが、その後、十数年間、森の中でほとんど見かけなくなり、雪上に残る足跡も、稀に見る程度でした。ウサギを狩る狩猟者たちも、「最近、見ねえなぁ」と訝り、ちょっと可哀想な脚のバター焼きもあまり食卓にのぼらなくなりました。

夏の夜、遊歩道を猛ダッシュ。早すぎてストロボの光でも止めることができなかった

夏の夜、遊歩道を猛ダッシュ。早すぎてストロボの光でも止めることができなかった

それが昨年から、自動撮影のロボットカメラの前に、ちょくちょくと顔を見せてくれるようになりました。猛然と駆け抜ける個体もあれば、トコトコと歩く子もいます。カメラやセンサーの不具合による暴発で、まったく何も写っていないコマが時たまあるのですが、ウサギが猛スピードで駆け抜けた時も捉えきれずに、何も写っていないことがありました。センサーとシャッターのライムラグが少ない一眼レフを導入して、初めてお尻や脚の一部が写ったことから判りました。まさに森のスピードスターです。

降り積もった雪の上をトコトコ歩くトウホクノウサギ。ストロボの光にも動じていない

降り積もった雪の上をトコトコ歩くトウホクノウサギ。ストロボの光にも動じていない

冬は耳の先を残して真っ白に毛並みを変えます。雪深い地方にあわせた保護色のようです。ニホンノウサギは、国内でキュウシュウノウサギ、サドノウサギ、オキノウサギの計4亜種に分けるとされています。が、日照時間や気温で毛色が変化し、分布域の境界も不明瞭なため、本州内でトウホクノウサギだけを亜種とする説には疑問を唱える声もあるようです。

紅葉が真っ盛りの11月初旬、落ち葉の上を駆け抜けていった。色はまだ茶褐色のまま

紅葉が真っ盛りの11月初旬、落ち葉の上を駆け抜けていった。色はまだ茶褐色のまま

 

晩秋の11月末に降った雪の上を駆け抜ける。同じ場所で撮影したが同一個体かどうかは不明

晩秋の11月末に降った雪の上を駆け抜ける。同じ場所で撮影したが同一個体かどうかは不明

後ろ足で地面を蹴る力は相当強いようで、雪上に残された足跡も後ろ足の窪みが大きくて深いです。ウサギの足跡は、最も特徴があるので他の動物と簡単に識別が付きます。

雪上を走るまだら模様の個体。この時期のウサギはフクフクしていて、とても愛らしい

雪上を走るまだら模様の個体。この時期のウサギはフクフクしていて、とても愛らしい

中低山の草原や森の中に生息しており、群れは作らないようです。夜行性で、昼間は藪の中や木の根元などに隠れて休んでおり、白神の森を歩いても見つけ出すのは困難です。特定の巣は持たないようで、ねぐらを中心に半径約400mの範囲で行動すると言われ、大雪の朝は特徴のある足跡が縦横に残っています。餌は植物で、草の芽や葉、時には樹皮も食べるようです。私たちの自宅の庭にも時折訪れており、その跡をたどるのが雪に閉じ込められる冬場の楽しみのひとつです。

初春の「木の根開き(きのねあき)」。白神山地ではウサギが隠れていそうな立木の根っこの部分から雪が溶け始める

初春の「木の根開き(きのねあき)」。白神山地ではウサギが隠れていそうな立木の根っこの部分から雪が溶け始める

※「木の根開き」とは、立ち木のまわりの雪がいち早く溶けることで、雪国の春を告げる現象です。春が近づいて日差しが強くなってくると、木の生命活動も活発になり、光合成を行い、水もたくさん吸い上げるようになります。すると、幹は雪の温度より高くなり、木のまわりの雪が融けると言われています。雪と木の色の違いによる太陽熱の反射率も関係しているようです。

北国では冬から夏に、暖かい地域は一年中、繁殖するようです。1回に数頭の子供を出産します。赤ちゃんウサギは、生後間もなく自力で餌を食べ始め、約1ヶ月で独立するといわれます。寿命は4年を超えることはないそうで、意外に短命です。

春先の5月にカメラの前を通過した個体。素人なので老若の判定は難しい

春先の5月にカメラの前を通過した個体。素人なので老若の判定は難しい

「昔は1回の巻狩りで、十数羽捕れたのになぁ」と、白神でウサギ狩りをされるマタギが語ります。ウサギの主な天敵は、テンやキツネに猛禽類などです。それらの数が特別に増えたという報告はありませんので、ウサギの数が減った理由は、林道の開発や森林の伐採などによる環境破壊が大きな要因を占めていると思われます。戦中戦後の森林伐採、弘西林道や頓挫した青秋林道工事など、手つかずの自然が残っていた白神山地にも数々の開発が進められてきました。ウサギの増減は森の健全度を計るひとつのバロメーターかもしれません。それを証明すべく、自動撮影を続けていきます。(律) 

晩秋の遊歩道を駆け抜ける。この時期のウサギの色が一番好き

晩秋の遊歩道を駆け抜ける。この時期のウサギの色が一番好き

 

 

白神山地の生き物たち「カイツブリ」

母鳥の背中に載ったヒナに餌を与えるお父さん

母鳥の背中に載ったヒナに餌を与えるお父さん

これは自動撮影のロボットカメラで撮影したものではなく、ニコンD3と単体800ミリの望遠レンズで撮りました。カイツブリの子育てです巣作りから育児まで、夫婦で一生懸命に子育てをする鳥です。日本で観察されるカイツブリ類は、カイツブリ、アカエリカイツブリ、ハジロカイツブリ、カンムリカイツブリ、ミミカイツブリの1属5種で、繁殖するのは、カイツブリ、アカエリカイツブリ、カンムリカイツブリの3種です。白神山地でよく観察されるのは、このカイツブリです。

薄暮の夕暮れ時、夫婦が寄り添って巣に戻る

薄暮の夕暮れ時、夫婦が寄り添って巣に戻る

主に淡水域で繁殖し、繁殖期には縄張りを作ります。一夫一妻。水面の植物や杭などに水生植物の葉や茎を組み合わせた巣を雌雄で作ります。白神では、春から初夏にかけて1回に4~6個の卵を産み、交代で温めています。そして親鳥が巣を離れる際には巣材で卵を隠すほど大切にします。

夫婦で巣作り。新緑が映える湖面を水底に沈んだ草や木の葉をクチバシで咥えて巣まで運ぶ

夫婦で巣作り。新緑が映える湖面を水底に沈んだ草や木の葉をクチバシで咥えて巣まで運ぶ

夫婦で巣作り。水倒木や浮草などに水草や木の葉などを重ねて築き上げる

夫婦で巣作り。水倒木や浮草などに水草や木の葉などを重ねて築き上げる

浮き巣の水面下は、水上に見える巣の数倍の厚さがあり、水位の変化に備えて複数の予備の巣を作ります。白神の池でも、あちこちに草を積み上げるため、遊んでいるのかと思ったほどです。夜明けと共に積み上げ始め、夕暮れまで休まずに働く。仕事中もすぐサボってオヤツを頬ぼる怠け者のバカ夫婦は、頭が下がる思いで撮影しました

体の大きさが3倍近くはありそうなカワウが縄張りに侵入。夫婦であっというまに追い出した

体の大きさが3倍近くはありそうなカワウが縄張りに侵入。夫婦であっというまに追い出した

巣を狙いに来たヤマカカシ。卵は全部孵った後だったので、あきらめて泳ぎ去った

巣を狙いに来たヤマカカシ。卵は全部孵った後だったので、あきらめて泳ぎ去った

ヒナは生まれてすぐに泳ぎ、約1週間で巣から出られるようになります。小さいうちは親鳥が背中に乗せて外敵から保護し、雛を背中に乗せたまま潜水することもあります。

ヒナを載せた親鳥

ヒナを載せた親鳥

ヒナは自分で餌がとれるようになるまで親鳥が付き添い、徹底的に叩き込まれます。

一羽のヒナはずっとお母さんの背に乗ったまま、お父さんに餌をおねだり。甘えん坊さん

一羽のヒナはずっとお母さんの背に乗ったまま、お父さんに餌をおねだり。甘えん坊さん

その様は人間と同じで、教育熱心なパパやママから、子どもが英才教育を授けられているように見えます。

大型の水棲甲虫を食べるヒナ。口が裂けそう‥

大型の水棲甲虫を食べるヒナ。口が裂けそう‥

カイツブリ目カイツブリ科カイツブリ属。全長約26cmと、日本のカイツブリ科のなかでは最も小さい鳥です。本州中部以南では1年中生息しますが、北海道や本州北部は夏に飛来する鳥です。生息場所の凍結を避けて南に移動するからです。

羽を震わせて雄叫びをあげる親鳥

羽を震わせて雄叫びをあげる親鳥

足の位置が他の水鳥と違ってお尻付近から生えているので、陸上を歩くのが苦手なようです。反面、泳ぐ姿を上から見ると、カエルのように後ろ足を櫂のように使って泳ぐので、潜水も得意。脚は非常に柔軟で、足趾についている木の葉状の弁膜で水を掻いて潜水し、水生昆虫や小魚などを食べます。潜っている時間も長く、時には20~30秒近く浮き上がってこない時もあります。 琵琶湖などは同種が多く生息していたため、滋賀県の県鳥に指定されています。同種の脂肪は、刀のさび止めに使われたとされる記録も残っているようです。

「お父さんいってらっしゃい」。巣から出勤する父親を見送る母子

「お父さんいってらっしゃい」。巣から出勤する父親を見送る母子

 観光コース上の池で暮らしていますが、ほとんどの観光客が存在に気づいていないようです。1昨年も、昨年も、無事に子育ては成功しました。騒がず静かにしていれば、とても可愛い姿を観察することができます(律)

白神山地の生き物たち「ニホンカモシカ」

カモシカ

森を歩いていると、ふと視線を感じる時があります。目を向けると、崖の上の岩や木々の隙間から、国の特別天然記念物・ニホンカモシカが優しい眼差しで、こちらを見つめています。脅かさない限り、近づきすぎない限り、ジッと見つめてくるだけで逃げません。ウシ目ウシ科カモシカ属に分類される偶蹄類。シカと名付けられていますが、どちらかというと牛に近いようです。

カモシカ11

白神山地の山裾に広がるブナ林は、カモシカ君に会える確立が高い神秘の森です。あちこちに食痕や歩いた跡、糞が転がっています。一度、猟犬に追われて草むらから飛び出してきた個体と正面衝突しかけました。体高が1メートル近いので、びっくりして後ろに尻餅をつく羽目に。山々が赤や黄に彩られる紅葉が終わる11月半ば、落ち葉の上にうっすらと雪が積もった遊歩道を、フンワリとした灰色の毛に覆われた若い個体が歩いてきました=写真上。横を向いているのはちょっとカメラに写されるのが恥ずかしくて、引き返そうとしたようです。自慢の角も、まだ生えてきたばかり。とてもかわいいです。

カモシカJ①そして、冬場は一杯食べて、コロコロに太っています=写真上。後ろ姿だけを見るとイノシシかな、と思いました。白神ではイノシシもニホンジカも見かけません。稀に目撃情報があるのですが、真偽は謎です。カメラの前を通ると確認が取れるんですが‥。でも、繁殖力が強く、群れる性質のあるニホンジカや暴れ者のイノシシが白神の森に入ってくると、カモシカは住処を失う可能性があります。九州地方では、ニホンジカが増えすぎたために餌が不足して、カモシカの生息数が減っているという報告もあります。 

カモシカ 口蹄疫?②hp用また、国内のカモシカに流行っているパラポックスウィルス感染症も心配な要素です。この病気は、ウシの丘疹性口炎、偽牛痘、緬山羊やニホンカモシカの伝染性膿疱性皮膚炎などが知られており、 監視伝染病に含まれているそうです。いずれも口腔や口唇部、乳房などに丘疹、水疱などが認められ、まれに膿疱、 潰瘍まで進行するそうです。宮崎県の飼育牛に発生した悪性の伝染病「口蹄疫」との臨床的な鑑別も難しいとされています。写真上、ガリガリに痩せて、口から泡を吹いたニホンカモシカ。今年7月中旬に撮影した画像で、宮崎大学の研究者や環境省などに問い合わせたところ、「写真だけでは判別できないが、たぶんパラポックスウィルス感染症」だろうと診断されました。この画像を見た時、もしかしたらカモシカに口蹄疫が伝染ったのでは、と思い、各方面に写真を添付したデータを送って問い合わせてみました。

口蹄疫?のカモシカ

個体を捕らえて検査してみない確実な診断は下せないそうですが、ほとんどの研究者は口蹄疫ではないと診断して下さいました。ヒヅメなどに病変した部位もみられないし、潰瘍ができている口元の病変部がパラポックスウィルス感染症の症状に酷似していると指摘されています=写真上。口蹄疫じゃなかったらいいか、と思いがちですが、カモシカたちにとっては深刻な事態で、早急な調査と対策が求められます。なんせ世界自然遺産に生息する国の特別天然記念物ですからね。

カモシカ10

カモシカが歩いた後や近くに隠れているときは、独特の獣臭が残ります。山を歩かれる人が時折、「クマの匂いだ。近くにクマがいるぞ」と騒がれていますが、マタギの親方に聞くと、「クマはモワッと蒸れたような匂いがする。この獣臭さはカモシカだ」と、一笑に付されます。私らも最初、この匂いを嗅いで怖れをなしていましたが、最近は、カモシカとクマの匂いの違いが判ってきました。でも、ニホンジカほどではないですが、角もそれなりに立派ですし、体も大きい。突かれるとただでは済まない風体です=写真上

カモシカ寄り添って③

ほとんどが単独行動で、森の奥深くで暮らすカモシカは、1年に1~2頭出産するだけで、子供の生存率は低いと言われています。ゆえに母シカは子どもを慈しんで育てているようです=写真上

カモシカ新緑の中を②

白神山地も含まれている津軽国定公園内に、十二湖という観光地があります。その小さな池のほとりに、親子連れがいました。子供は今年生まれたようで、お母さんの後を一生懸命追いかけてゆきます=写真上。ブヨが子どもの柔らかい皮膚を狙って、群がっているのがわかります。

無事に育って、来年も元気な姿を見せてね。(律)

白神山地の生き物たち「ホンドテン」

12月上旬、白神山地の森に本格的な雪が降りました。木々も大地もふんわりと雪が積もり、原生のブナ林から人が遠のきます。夜が明けきれぬ薄暮の朝、青白い雪の上を黄色い炎が踊るように揺れています。しなやかなその動きは、ホンドテンの雪上の舞でした=写真上下。冬毛で雪の中に佇む美しさは、まるで黄色い宝石のようです。

秋が深くなる10月の下旬、大型の哺乳類を狙っていたカメラに「忍びの者」が写りました。池が点在する場所に置いたカメラ。引き伸ばしてみると、その口に魚を咥えています=写真下。隠れ家に持って帰るのかな。誰か待っているのかな。

ネコ目のイタチ科であるテンは泳ぎが上手く、水中に潜って小魚を捕らえることができるようです。敏捷で木登りなども得意。ネズミや鳥、両生爬虫類だけでなく、木の実などの植物も食べます。佐渡島では、飼育センターで掌中の玉のごとく育てられていた国特別天然記念物のトキを9羽も捕殺してしまい、冷血で残忍なハンターとして悪名を轟かせました=写真下

そして、北東北地方などを含め、民間伝承でもあまり縁起の良い動物として扱われてはいません。江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕(とりやま・せきえん)が描いた妖怪絵「画図百鬼夜行」に火難をもたらす存在として登場し、一部地方では殺すと火による災いが降りかかるとされています。更に「狐の七化け、狸の八化け、貂(テン)の九の化け、やれおそろしや」とした言い伝えが残る地域もあり、 狐や狸よりも貂の方が化ける技が長けているとの伝承も残っているようです=写真下

でも、ブナの森で見かけるその姿はとても愛らしくて、人心を惑わす存在とは思えません=写真下。地元のマタギや長老たちの話では、一時期、高級な毛皮が狙われて数を減らしたようですが、最近は自然保護の意識が変化したのか売れなくなったのか、狩猟鳥獣でありながら白神の森でテンを捕獲する人は少ないようです。

夫が設置するカメラの前に、ネズミ類に次いで数多く登場する千両役者=写真下。原生のブナの森を舞台に、悪い噂をものともしない艶やかな舞を見せ続けて欲しいものです(律)。

 

白神山地の生き物たち「プロローグ」

写真上は国特別天然記念物のニホンカモシカ(自作したセンサーとニコンDシリーズを組み合わせたロボットカメラで撮影)

国特別天然記念物のニホンカモシカ(自作したセンサーとニコンDシリーズを組み合わせたロボットカメラで撮影)

2011年秋から、国有林などを統括する林野庁と国定公園を管理する青森県の許可を戴いて、白神山地で暮らす生き物の撮影に取り組んでいます。森の中を縦横に走る「けもの道」と人も歩く林道や遊歩道などに、体温がある生き物が通過すると自動的にシャッターが切れる自作の「ロボットカメラ」を仕掛け、一定期間過ぎるとデータを回収します。カメラの設置期間は、まだ1年と数か月ですが、写し出される生き物の数と種類の豊富さに驚いています下はツキノワグマ(センサー一体型の市販カメラで撮影)

新聞記者時代、高知県西部で先ごろ絶滅宣言された「ニホンカワウソの調査」や、沖縄本島北部の森に生息する、幻と呼ばれた「オキナワトゲネズミの調査」などに参加し、自動撮影を何度か手がけてきました。が、生物層が豊かなのか、白神周辺で得る成果は素晴らしいものです。でも、当然のことながら、自動撮影の専門家でもないので、人並みのことを判断できる立場にはありません。今後も続ける予定ですが、できれば、この世界で第一人者の巨匠・宮崎学先生に師事して、技術やコツを教えていただきたく思うほどに、生き物の生態を知る技と機材管理の難しさを痛感しています。

ただ、私たちにも強い味方がいます。それは、深浦町で今も狩猟採集生活を続けている山の師匠が、食痕や足跡などから動物が通る道を探すお手伝いをして下さるからです。この地方には、有名な「白神マタギ」が今も活動されていますが、この親方は地元出身ではないので、白神のマタギとは呼べない存在です。でも、深浦町の山のことや生き物の行動などに詳しく、その指示のもとにカメラを置けば、ほぼ百発百中でした。へぼな私たちがそれなりに成果を出せるのも、この親方のおかげです。そしてマタギの話は別項で後述いたします。

これからも、季節ごとに新しい動物たちの姿が撮影できれば、公開していく予定です=写真下、冬毛になったホンドテン(哲)。