みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
「活動」-白神の森と生き物たち

活動報告①

キクザキイチゲやエンレイソウなどの山野草

風に揺れるキクザキイチゲの群落。庭の写真を出そうと思ったが、アクシデントで頓挫。仕方がないので、昨春に撮った山野草の紹介でお許しを‥、深浦町で

風に揺れるキクザキイチゲの群落。庭の写真を出そうと思ったが、アクシデントで頓挫。仕方なく、昨春撮った山野草の紹介でお許しを‥、深浦町で

冬枯れて、伸び放題になった庭の芝。春が来るのを前に、きれいに刈り込むことにしました。ホームセンターで購入した電気芝刈り機を使って、壁際の狭いところを刈り取っていると、「バチッ」と音がして火花が散り、刃で電線のケーブルを断線してしまいました。これで昨年から数えて2回目。妻が、「やると思った‥」と、あきれ顔。

色鮮やかなタチツボスミレ

色鮮やかなタチツボスミレ

そう責めないで、自分で補修するし、もう二度としないから。と、口走った矢先、またバチッと火花が散って、別の新しいケーブルも断線させてしまいました。もう繋げるケーブルが無くなって、芝刈りは中止。妻は、氷のような冷たい視線で一瞥しただけで、何も言わず背中を向けて黙々と草むしりをしています。振り返ると、きっと怒った大魔神のような顔になっていると思われます。

白い花が可憐なニリンソウ

白い花が可憐なニリンソウ

芝刈り機を投げ出して逃げ去る訳にも行きません。暖かな日差しを浴びて今日一日、ゆっくりと庭を整備する予定が、屋内に籠もって電線のケーブルを接ぐ、苦手な工作作業に取り組まざるを得なくなりました。あー、何をやっているのか‥。もう、自分の「てぼけされ」(不器用の方言)ぶりが情けない。子供の頃から不器用な慌て者で、それが今に至っています。図画や工作は5段階で3以上取ったことはありません。たいてい1か2でした

エンレイソウ。黒く熟した果実は食用となる。根茎は中国では延齢草根と呼ばれ、胃腸薬や催吐剤などの薬草として扱われてきたが、サポニンなどの有毒成分を含んでおり、たくさん服用すれば、嘔吐、下痢などの中毒症状を起こすとされている

エンレイソウ。黒く熟した果実は食用となる。根茎は中国では延齢草根と呼ばれ、胃腸薬や催吐剤などの薬草として扱われてきたが、サポニンなどの有毒成分を含んでおり、たくさん服用すれば、嘔吐、下痢などの中毒症状を起こすとされている

庭仕事の事を書くつもりが、自分のダメさをさらけ出す羽目になってしまいました。つまらん更新ですみませんm(__)m=(哲)

トウダイグサの仲間。つぼみを包んでいた苞葉の中に黄色い花を複数つける。その姿を燈火の皿に見立てたことから「燈台」の和名がついた。 茎や葉を傷つけると白い乳液を出す。これも有毒草

トウダイグサの仲間。つぼみを包んでいた苞葉の中に黄色い花を複数つける。その姿を燈火の皿に見立てたことから「燈台」の和名がついた。 茎や葉を傷つけると白い乳液を出す。これも有毒草

白神山地の植物「フクジュソウ」

初春の海辺に近い森で満開になったフクジュソウ、深浦町で

初春の海辺に近い森で満開になったフクジュソウ、深浦町で

白神山地の動物を中心に取り上げてきましたが、ここでひとつ、北国に春を告げる可憐な花を紹介したいと思います。

満開になったフクジュソウ

満開になったフクジュソウ

深浦町の花にも指定されているフクジュソウです。早春、まだ冬枯れの野に咲く黄色い花は、見ているだけで気持ちが明るくなってきます。

雪を割って花を咲かすフクジュソウ。日が陰っているため花が開かない

雪を割って花を咲かすフクジュソウ。日が陰っているため花が開かない

キンポウゲ科で、開花時期は、2月初旬から3月半ば頃。北海道から九州の山林などに分布し、深浦では3月の中下旬に3~4cmの黄色い花が咲き始めます。光や温度に敏感で、太陽が陰ると花がしぼみ、日が出ると開きます。これは花弁を使って日光を花の中心に集め、その熱で虫を誘引しているとされるからです。葉は細かく分かれており、夏になると地上部は枯れて完全に見えなくなります。初春に花を咲かせて、夏までに光合成をして、それから次の春までを地下で過ごすのです。根っこはゴボウのように、まっすぐで太いものを伸ばします。

雪を割って花を咲かすフクジュソウ。日が陰っているため花が開かない

雪を割って花を咲かすフクジュソウ

花言葉は、幸せを招く、永久の幸福、祝福、思い出など‥。春を告げる花の代表で、「元日草(がんじつそう)」や「朔日草(ついたちそう)」とも呼ばれます。福寿草という和名も、幸福と長寿を意味し、新春を祝う意味があります。縁起の良い花とされていますが実は毒草で、同じ頃に芽を出すフキノトウと誤食され、亡くなった方もいるそうです。特に根に強い毒性を持っています。しかし、この強い毒は薬にもなります。強心や利尿作用に効果があるそうです

日が出ると一気に花弁を開いてくる

日が出ると一気に花弁を開いてくる

盗掘防止を訴える看板

盗掘防止を訴える看板

深浦町では、大間越地区の旧関所跡に「福寿草公園」があり、ここが青森県内でも最も早く花を咲かせる場所として知られています。この公園は、深浦町と岩崎村が市町村合併する前に、旧岩崎村の教育委員会が育成事業を続けていました。しかし、盗掘が後を絶たず、最近は花の数も減ってしまったようです。この時期になると、他府県ナンバーの車がひっきりなしにやって来るようになります。観光客の皆さま、どうか、「とる」のは写真だけにして下さい。 

初春の海辺に近い森で満開になったフクジュソウ

初春の海辺に近い森で満開になったフクジュソウ

 

白神山地の生き物たち「ニホンイタチ」

愛らしい仕草と表情のイタチ、深浦町で

愛らしい仕草と表情のイタチ、深浦町で

「イタチの最後っ屁」「イタチごっこ」など、イタチにまつわる格言や言い伝えは多く、自宅周辺などでよく見かける生き物です。ネコ目の中でも最小サイズで、体重が2kgにも満たない種です。そしてオスに比べメスが極端に小柄で、この傾向はイイズナやオコジョなど小型の種類ほど顕著です。日本へ移入されたチョウセンイタチでオスの半分、ニホンイタチではオスの3割程度の大きさです。

私らが雪上につけた足跡に落ちてシャチホコのような姿に

私らが雪上につけた足跡に落ちてシャチホコのような姿に

ロボットカメラに写る姿は、小柄でとても愛らしいのですが、見かけによらず凶暴な肉食獣です。ムチのようにしなる靭やかな体と短い足で、自分より体の大きいウサギや鳥類、小型の齧歯類も単独で捕食します。そして、農家が飼育しているニワトリなども襲うため、家禽の飼育を生業にしている方々からは、蛇蝎のように嫌われています。でも、体が小さいためか敵も多く、鷹やフクロウなどの猛禽類やキツネなどに捕食されることもあるようです。

落ち葉に積もった雪の上を周囲を警戒しながら歩く

落ち葉に積もった雪の上を周囲を警戒しながら歩く

凶暴なハンターとしてだけでなく、古来から怪異を起こす存在としても忌み嫌われてきました。「イタチの群れは火災を引き起こす」、「イタチの鳴き声は不吉の前触れ」とされ、信越地方ではイタチの群れが騒いでいる音を「鼬の六人搗き」と呼び、家が衰える、または栄える前兆としています。更に、キツネやタヌキのように化ける存在として、妖怪のようにも扱われています。いずれにせよ、姑息で気味が悪い存在として捉えられており、森のネズミ類などが増えすぎない調整役も担っているのに、気の毒に思えます。

二本足で立って樹上を見る。近くにニホンリスの巣がある

二本足で立って樹上を見る。近くにニホンリスの巣がある

そして終戦後は、イタチの毛皮は衣類、日用品などに利用され、現在も、イタチの毛を使った毛筆は高級品とされています。白神山地のマタギや長老たちも、生活が厳しかった終戦後には、競うように捕獲し、思いっきり引き伸ばした革を売りに行った、と懐かしみます。テンよりもカメラの前に姿を見せませんが、ネズミの巣穴や鳥の巣がある場所では、良い表情で登場してくれます。私らはイタちゃんと呼んで、可愛い仕草をパソコンや携帯の待ち受け画面に使っています。

ムチのように靭やかにしなる身体と短い四肢が特徴

ムチのように靭やかにしなる身体と短い四肢が特徴

森の中ではいつも通るコースが決まっているようで、同じカメラに何度も写ります。動画用のカメラでは、素早くて何が写っているのか判らないようなスピードです。いずれは小柄なイタちゃんの大きさに合うレンズを使って、本格的に撮影したいと考えています。(律)

愛らしい顔のイタちゃん。直ちに待ち受け画面に採用

愛らしい顔のイタちゃん。直ちに待ち受け画面に採用

 

白神山地の生き物たち「ツバメ」

電線にとまった雛に餌を与える親鳥=深浦町で

電線にとまった雛に餌を与える親鳥=深浦町で

沖縄で遺骨収集活動を始めてほぼ一ヶ月が過ぎました。青森と違い、暖かい日は半袖で過ごしたりしています。縦に長い日本列島。北国が冬のさなかでも、亜熱帯の島々には、もう春の使者が訪れ始めています。そう、深浦町でもよく見かける、ツバメ君たちです。北半球の広い範囲で繁殖し、日本では沖縄県以外で子育てをするそうです。彼らの主な越冬地は台湾やフィリピン、カリマンタン(ボルネオ)島北部、ジャワ島などです。沖縄で越冬も繁殖もしないのは意外でした。そういえば、市内を飛び交っている姿を見かけますが、巣をほとんど見つけることはできません。琉球列島は旅の中継地として羽を休めるために使われているのでしょう。

電線にとまった雛に餌を与える親鳥=深浦町で

電線にとまった雛に餌を与える親鳥

ほんどが民家や建築物の軒先など、人工物に泥と枯草を唾液で固めて巣を造ります。巣は新しく作るときもあれば、古い巣を修復して使うこともあります。産卵期は4~7月頃で、主にメスが抱卵するようです。人が暮らす場所で繁殖する傾向が高いのは、天敵である蛇やカラスなどが近づき難いからとみられています。農村部では、害虫を食べてくれる益鳥として大切にされ、殺したり巣を壊したりする行為は禁じられてきました。また、ツバメが巣をかけることが商売繁盛や家内安全の証、とする言い伝えも残っています。そのため、巣立った後も巣を大切に残しておく家庭もあるようです。「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」というお天気のことわざにも使われ、古くから日本人の暮らしと深い関わり合いを持った鳥です。

親鳥が飛んでくると振り向いて一斉に餌をねだる雛たち

親鳥が飛んでくると振り向いて一斉に餌をねだる雛たち

時々、中華料理の高級食材として話題にのぼるツバメの巣。これはアマツバメ科に属するインドショクヨウアマツバメなどの巣で、日本に渡ってくるツバメの巣は食べることはできません。一部、国内で冬を越す個体もあり、「越冬ツバメ」と呼ばれたりしています。主に西日本でみられるようで、民家や納屋内の軒先などを集団でねぐらにしているようです。

空中の親鳥から口移しで餌をもらう。ナイスキャッチ

空中の親鳥から口移しで餌をもらう。ナイスキャッチ

2月半ば、沖縄では寒緋桜 (カンヒサクラ)が咲き、道路沿いのアカバナー(ハイビスカス)も、ちらほらと花をつけるようになってきました。飛翔するツバメの数も、心なしか増えているようです。私たちが南の島に滞在できる時間も短くなりました。遺骨収集はまだまだ終わりそうにありませんが、本年のリミットが近づきつつあります。朝晩凍えることもなく、雪かきをしなくてもよい。暖かい日差しを浴びながら、ゆったりと生きる南国の暮らしも、捨てがたいものがあります。でも最近は、青森が故郷のように思え、長旅をすると「早く帰りたいなぁ」という気持ちが強くなります。ツバメ君たちもそうなのかな。冬は南へ渡り、春には子育てに帰ってくる。沖縄での残り少ない日々を惜しみながら、軽やかなツバメの飛翔を目で追っていました。(律)

大口を開けて餌をおねだり

大口を開けて餌をおねだり

番外編:沖縄本島の生き物たち「クロイワトカゲモドキ」と「オキナワトゲネズミ」

木の根元に現れたオキナワトゲネズミ、本島北部のやんばるの森で

木の根元に現れたオキナワトゲネズミ、本島北部のやんばるの森で

白神山地ではないのですが、沖縄の生き物たちも新聞記者時代は追いかけました。特に、本島北部に広がるやんばるの森では、幻と言われた生き物たちを長期間にわたって撮影し、報道し続けました。なかでも、数十年間、捕獲はおろか撮影すらできなかったオキナワトゲネズミの撮影に成功し、私たちの情報から林野庁の森林総合研究所などが、捕獲に至りました。本島では絶滅宣言が出されてもおかしくなかったネズミで、各方面から絶賛を受けました。新聞社の取材記者として最も楽しい経験の一つでした。

高くジャンプするのがこのネズミの特徴。ストロボの光線とともに大きく上に飛んだ

高くジャンプするのがこのネズミの特徴。ストロボの光線とともに大きく上に飛んだ

ただ、やんばるの森に十数年間通いつめて、全く撮影できない生き物がいました。クロイワトカゲモドキです。一度だけ、夜の林道で姿を見ましたが、車から降りた途端、あっという間に姿を消してしまい、悔して地団駄を踏んだことを思いだします。それが、遺骨収集中の壕の中に、ひょっこりいるではありませんか。慌てて一眼レフのカメラを取りに走り、懐中電灯の灯りだけで撮影しました。 

遺骨収集中の壕内にいたクロイワトカゲモドキ、糸満市で

遺骨収集中の壕内にいたクロイワトカゲモドキ、糸満市で

ヤモリの仲間ですが、指に吸盤がないため木登りが得意でなく、地上を歩き回って昆虫などの餌を採取します。名前の通りトカゲのような形をしている世界的にも珍しい形の生き物です。ヤモリにはまぶたがない種が多いのですが、クロイワトカゲモドキにはまぶたがあります。その目を長い舌でペロリと舐めることがあり、生態や形態が極めて珍しいことから、県天然記念物に指定され、環境省のレッドデータで絶滅危惧の指定を受けています。

サンゴ石灰岩の岩に逆さに張り付いていた

サンゴ石灰岩の岩に逆さに張り付いていた

尾の先に毒があるという説もありますが、無毒でおとなしい爬虫類です。大きさは15~19cmで、体色は黒や暗褐色で、黄色やピンク色などの縦縞や横縞が入ることもあります。動きはゆっくりとしていますが、天敵などに追われるとしっぽを切って逃げることができます。本島南部では洞窟や沖縄独特のお墓の中で見つかることもあります。完全な夜行性で、日没後、岩穴などの隠れ家から出現し、クモやムカデなどを待ち伏せして捕食します。遺骨収集仲間たちも、赤い目の珍しいヤモリを「きれいな目、可愛い‥」と息を飲んで見守っていました。洞窟内で続く、過酷な労働の合間に訪れた息抜きとなる出会いでした。

壕の中で懐中電灯の灯りに浮かぶ色鮮やかな光彩。光を当ててもほとんど動じず、シャッター音が響くとゆっくりと逃げ

壕の中で懐中電灯の灯りに浮かぶ色鮮やかな光彩。光を当ててもほとんど動じず、シャッター音が響くとゆっくりと逃げた

 

 

白神山地の生き物たち「ハシブトガラス」

嫌われ者のカラス。農作物を荒らし、家庭ゴミの袋は簡単に突っついて中身を散らかします。そして、猛禽類さながらに種の違う鳥の巣を襲い、ヒナを咥え去ります。色も真っ黒で縁起が悪い鳥として、忌み嫌われる存在です。白神山地にもカラスが増えてきました。山の麓の平野部で、ネズミなどを狙っている猛禽のツミやノスリなども集団で襲い、追い払ってしまいます。ほんとに困った存在です。

hp家族を亡くしたカラス①

でも毎春、愛情深くヒナを育てている姿を見ると、どこか憎めません。写真上は、海岸線を走る国道上で、車に跳ね飛ばされて死んだ家族に寄り添うカラスの姿です。動かない家族の傍を離れようとしないで、時折、鳴いてみたり、クチバシで引っ張ってみたり‥写真下。家族同士で守り合い、愛情深く子育てする野生の姿が、私たちには必要以上に意地悪で貪欲に見えてしまうんですね。自然界を掃除するスカベンジャーとしての位置付けも大きいカラス。邪険にしないで、もう少し深く観察しようと思いました。

hp家族を亡くしたカラス②

 

白神山地の生き物たち「ホンドキツネ」

白神山地で、狐の姿をみかけなくなりました。2011年の秋から、森の中で自動撮影のロボットカメラを設置しているのですが、まともに写ったのは1回だけ。あとは動画カメラの前を走り抜ける姿が1~2回、体の一部が1~2回捉えられたのみです。マタギや狩猟者に聞くと、以前は森の中でも民家の近くでも姿を見かけたといいます。日本海の海岸線には、潮風を防ぐために松林が設けられていて、ここの中で営巣していたのか、子ギツネが遊ぶ姿もあったそうです。が、「そう言えば最近見かけねぇなぁ」、と皆さん首をひねります。

センサーの置いてある方向を見るキツネ。全身がまともに写ったのはこれ一コマ、深浦町の十二湖で

センサーの置いてある方向を見るキツネ。全身がまともに写ったのはこれ一コマ、深浦町の十二湖で

カメラの前にめったに姿を現してくれないキツネですが、撮影していて驚いたのは、非常に耳が良いということです。自動撮影装置の特徴として、まず動物をとらえたセンサーのスイッチが入り、次にその信号を受けてカメラが作動します。動物たちは、たいていが「ウィン」というカメラの起動音に反応するため、目線はカメラかストロボに向くケースがほとんどです。が、キツネは最初にセンサーのスイッチが入る「コトン」という微かな音を聞きつけて、センサー方向を見ていました。センサーの音は、防音された室内でも聞き取れるかどうか、という音ともいえないような音。キツネは、雪の下のトンネルや地下を走るネズミなどの小動物の足音を聞きわけて狩りができますが、まさに驚異的な聴力です。

遊歩道を駆け抜ける。やはり、写る頻度は低く、白神では数が減っていると言わざるを得ない

遊歩道を駆け抜ける。やはり、写る頻度は低く、白神では数が減っていると言わざるを得ない

そんな聴能力者がなぜ、姿を見かけなくなっているかは不明です。キツネの餌となるウサギはよく見かけるし、ネズミ類も嫌というほどカメラのカウントを稼ぎます。なのに何故?。それは、キツネが減ったから起きている現象なのか、それ以前から始まっている現象なのか、これも判りません。私たちが出来ることは、時間をかけて記録していくしかありません。

やせ細って、毛並みも良くない。冬に写真に比べて、貧相な個体である

やせ細って、毛並みも良くない。冬に撮影された画像と比べると、貧相な個体である

白神山地の生き物たち「ブリコを食べるカモメ」

砂浜に打ち寄せられるハタハタの卵を咥えるカモメ、深浦町の海岸で

砂浜に打ち寄せられるハタハタの卵を咥えるカモメ、深浦町の海岸で

秋田、青森両県の日本海側は、冬になるとハタハタが産卵のために沿岸へ寄ってきます。冷え込んだ夜、10メートル以上の強風が吹いて雷鳴が轟くような嵐になると、お腹を卵で膨らませたハタハタが次々と接岸して、産卵してゆきます。その卵を地元では「ブリコ」と呼び、珍味として珍重されています。でも、浜辺などでの採捕や所持、販売をすることが、「青森県海面漁業調整規則」で禁じられていおり、違反した場合は罰せられます。

砂浜に打ち寄せられるハタハタの卵を咥えるカモメ、深浦町の海岸で

砂浜に打ち寄せられるハタハタの卵を咥えるカモメ

しかし、その違反行為を白昼堂々と実行する輩がいます。カモメたちです。ハタハタの産卵シーズンになると、夜明け前から浜辺の砂浜や岩礁地帯に並び、打ち寄せられてきたブリコを競うように奪い合います。

打ち寄せられるハタハタの卵を奪い合うカモメたち

打ち寄せられるハタハタの卵を奪い合うカモメたち

運良く咥えると、一目散に飛び去って独り占め。真っ白で見かけはとても可愛いカモメですが、カラスのように貪欲で、時には漁師さんたちの漁獲物も、ちょいと頂く事があるそうです。それなのに罰せられることもなく、傍若無人に振舞っています。

ハタハタの卵を咥えて飛び去るカモメ

ハタハタの卵を咥えて飛び去るカモメ

そして、深浦の町の鳥にも選ばれ、ちゃっかりと町章の図案にも取り入れられています。

美味しいブリコを独り占めにして‥。(律) 

海上に発生した竜巻

海上に発生した竜巻

 

 

 

 

 

 

 

 

白神山地の生き物たち「ハクビシン」

倒木の下を通じる獣道から姿を見せたハクビシン。ピンク色のお鼻が愛らしい、深浦町の十二湖で

倒木の下を通じる獣道から姿を見せたハクビシン。ピンク色のお鼻が愛らしい、深浦町の十二湖で

東南アジアやインド、中国南部などの暖かい地方に広く分布しており、南方系の外来種といわれています。それが雪深い白神の山中で、カメラ前に頻繁に登場しており、ブナの森の中にも住処を広げているようです。

自動撮影のロボットカメラの前を走り抜ける

自動撮影のロボットカメラの前を走り抜ける

額から鼻に抜ける白い毛の筋が特徴のネコ目ジャコウネコ科の動物です。木登りが得意で、果物が大好物。リンゴ、ナシ、カキなどを食べ荒らし、農家にとっては厄介者です。トマトなどのビニールハウスにも侵入することがあり、猫と同じで頭が入れる隙間があれば小さな穴でも簡単に侵入してしまう忍びの者です。隣の鯵ヶ沢町では、スイカやメロンがアライグマの食害を受けていると聞いていますが、その被害の一部には、ハクビシンによるものがあるかもしれません。夜行性で、食べごろの果実や野菜を見つけると、毎晩のように訪れます。人家の近くにも棲息し、物置や屋根裏などに住処を作り、糞尿による悪臭や足音による騒音の被害をもたらす事もあるようです。日本への移入時期が不確かなので、アライグマのように特定外来生物の指定を受けていません。ゆえに、狩猟鳥獣に指定されているものの、大規模な駆除の対象とはなっていないようです。

毛が毛筆の材料に利用されることもある

毛が毛筆の材料に利用されることもある

しかし、健啖家が多い中国では、広東や雲南などの料理の食材として、肉の煮込みなどになっています。独特の臭みがあるので、ニンニクなどの香味野菜や醤油などで濃厚な味にされるそうです。白神山地のマタギや狩猟者に話を聞いても、その肉を食べた人の話は聞いたことがありません。が、インターネットなどで検索すると、とても美味しい肉だとする声もあるようです。

大昔から人間に利用されてきたハクビシン。麝香ってどんな香りなんだろうか

大昔から人間に利用されてきたハクビシン。麝香ってどんな香りなんだろうか

ハクビシンは麝香猫(じゃこうねこ)科とされるように、オス、メス共に独特の匂いを出す「会陰腺」を持っています。この会陰腺から分泌される液は香水の補強材や制汗剤、皮膚病の薬として用いられてきました。クレオパトラの媚薬の原料にも使われたとされています。そして、フィリピン産の「アラミドコーヒー」やインドネシア産の「コピ・ルアク」は、ジャコウネコが食べたコーヒーの実の排泄物から作ったコーヒー豆です。熱帯雨林に住むジャコウネコが、コーヒーの実と林内の甘い果実を食べますと、それらが胃の中で混じり合い、排出時に麝香の芳香が加わります。その実を一つずつ拾い集めて精製することで、この上ない香り豊かなコーヒー豆が生まれるとされています。 運の良い日でも採集できる量は1kgほどで、超高級な豆として高値で取引されています。

雨に濡れたハクビシン。別の生き物に見えた

雨に濡れたハクビシン。別の生き物に見えた

新聞記者時代、インドネシアのカリマンタン島に野生動物などの取材に行ったとき、ジャングルの中にあったJICA(国際協力事業団)の宿舎に泊めていただきました。そこには、地元の森に詳しい現地スタッフが数人雇用されており、仮住まいの掘立小屋を敷地内に建てて暮らしていました。その小屋の横に自生していた果物の木に、毎夜、ジャコウネコがやってきました。その姿を見るために、JICAの日本人スタッフが夜通し小屋に籠って観察していたそうです。すると、その小屋に泊まった人たちが次々とデング熱に感染し、ひどい人は日本へ帰国して治療を受けることになりました。当時は、「ジャコウネコの呪い」なんてまことしやかに囁かれました。が、真相は、現地スタッフの家族の一人がデング熱に羅患しており、この病のウイルスを媒介する蚊が病気の家族を刺し、この同じ蚊に刺された人が、次々と感染したのが原因だったそうです。私も、その部屋で観察しましたが、幸いにも感染いたしませんでした。デング熱は出血熱化することもあり、危険な熱帯病です。今から思うと、無謀な取材行でした。(哲)

白神山地の生き物たち「ニホンザル」

ロボットカメラの前を群れの親子が通り過ぎた。子ザルが愛らしい、深浦町の十二湖で

ロボットカメラの前を群れの親子が通り過ぎた。子ザルが愛らしい、深浦町の十二湖で

青森県下北半島には、「北限のサル」という呼び名で有名なニホンザル(国天然記念物)が棲息しており、ヒトを除けば世界で最も北に暮らす霊長類とされています。そして、ほとんど緯度が変わらない白神山地にも数多くのサルが群れを作って生活中です。ニホンザルはその名が示すように日本の固有種で、東北地方の個体群は大型になるといわれます。観察していると、親子の愛情が深く、群れの結束が固いのがよくわかります。世界自然遺産に指定された頃は、山を歩いても、森の奥深くで一つか二つの群れと稀に出会う程度でした。しかし最近は異常に数を増やし、麓の集落の田畑を襲う「害獣」として、地域の人たちに嫌われています。

収穫後の農場で落穂を拾うサルの群れ、同町で

収穫後の農場で落穂を拾うサルの群れ、同町で

 

深浦町も、サルによる農作物の被害が深刻です。

カボチャを咥えて逃げるメスザル。堂々と歩いて去る、同町で

カボチャを咥えて逃げるメスザル。堂々と歩いて去る、同町で

 

若者が都会へ流出して地域の高齢化が進むと、限界集落となって耕作放棄地が増えます。そこに雑草や木々が生い茂り、サルやクマが畑や人家に近づきやすくなります。農作物は、彼らにとって苦労しないで簡単に手に入るエサです。味をしめたサルは頻繁に訪れて、美味しいところを一口だけかじって捨てるような「なぶり食い」をし、お年寄りたちが精魂込めて育てた農作物を食べ荒らしてゆきます。

網で囲った畑の作物もなんのその。座り込んでお食事中、同町で

網で囲った畑の作物もなんのその。座り込んでお食事中、同町で

 「うちのトマトはうんめえよ」。「息子や孫にカボチャ送ってやるよ」。畑に向かうじっちゃん、ばっちゃんの目はキラキラ輝いています。娯楽の少ない過疎の村では、畑仕事がお年寄りの数少ない楽しみの一つです。

サルに荒らされたカボチャ畑で呆然と立ち尽くすばっちゃん。ほどんど収穫できず、ほぼ全滅した。約半年間、手塩にかけて育ててきただけに、目尻から涙がこぼれた、同町で

サルに荒らされたカボチャ畑で呆然と立ち尽くすばっちゃん。ほどんど収穫できず、ほぼ全滅した。約半年間、手塩にかけて育ててきただけに、目尻から涙がこぼれた、同町で

それが、獣害で耕作できなくなると、草ぼうぼうの荒地が増えて、サルなどが更に侵入してきます。そして、田畑も生きがいも失ったお年寄りが、家に引きこもって寿命を縮めてしまい、また耕作放棄地が増える‥。そんな悪循環が、深浦のあちこちの集落で起こっていると聞きます。

花火で追い払い。後方に捕獲用の檻が設置してある、同町で

花火で追い払い。後方に捕獲用の檻が設置してある、同町で

「サルに負けてたまるか」と、元気に畑へ向かう方もいらっしゃいます。が、人がいると近づかず、お昼休みや悪天候で田畑を離れると、すかさずやって来て悪戯を繰り返します。我が家の近所のお年寄りたちも、猿知恵との闘いに疲れ果て、すっかりやる気を失いかけています。

母サルがカボチャを持ち帰るのを木の上で待つ子ザルたち

母サルがカボチャを持ち帰るのを木の上で待つ子ザルたち

かたやサルの方は、高カロリーで美味しい餌を簡単に手に入れて、短い期間で繁殖を繰り返し、個体数がねずみ算式に増えていると推測されています。深浦町の昨年度の集計では、25群で約550頭を確認しており、実数はそれを遥かに上回ると推計されます。山を歩くマタギや狩猟者によると、世界遺産に指定された頃に比べると、5倍から10倍ぐらい増えているのでは、いう指摘もあります

早朝、朝日を背に森の中を歩いてきた群れ、同町の十二湖で

早朝、朝日を背に森の中を歩いてきた群れ、十二湖で

 そのため、町では近年、有害鳥獣の問題解決に力を入れています

捕獲したメスザルの体長や体重などを計測する研究者ら、外ヶ浜町で

捕獲したメスザルの体長や体重などを計測する研究者ら、外ヶ浜町で

管内の生息状況の調査をはじめ、捕獲したサルに電波発信機(テレメトリー)をつけて群れに返し、この電波を拾うことで、群れの位置を読んで移動方向などを予測し、追い払いに生かしています。

テレメトリーを装着されるメスザル。個体が暴れて傷つかないように麻酔をかけられている、外ヶ浜町で

テレメトリーを装着されるメスザル。個体が暴れて傷つかないように麻酔をかけられている、外ヶ浜町で

できるだけ殺さない方向で努力していますが、天敵のいないサルにとってはよほどの気象変動などがない限り、減ることはないと思われます。

テレメトリーを装着後、群れに還されるメスザル。調査員から、「もう悪さするなよ」と言われ、反省しているような表情を浮かべている、深浦町で

テレメトリーを装着後、群れに還されるメスザル。調査員から、「もう悪さするなよ」と言われ、反省しているような表情を浮かべている、深浦町で

猿は古来から、山の神もしくは山神の使者として敬われてきました。「庚申様」、「見猿聞か猿言わ猿」、「猿カニ合戦」など、民間信仰やおとぎ話などにも登場し、そこでは人間と近しい存在として描かれています。白神山地でも、「サルを殺すとバチが当たる」とか、「サルを脅したり、汚い言葉を吐きかけたりしてもいけない」として、畏れ敬う存在として扱われてきました。マタギも「サルは殺せない、撃ちたくない」と、はっきりとサルの有害駆除を嫌がります。

鉄道ファン垂涎の「五能線」の線路上を歩く。この軌道が、近くの畑を荒らした後、山へ戻る最短距離だった、深浦町で

鉄道ファン垂涎の「五能線」の線路上を歩く。この軌道が、近くの畑を荒らした後、山へ戻る最短距離だった、深浦町で

世界自然遺産で暮らす貴重なサルですが、これだけ増えすぎると人間の暮らしだけでなく、他の生態系への影響も心配されます。いずれは行政機関が研究者らと相談し、減らしてゆく方向で保護管理してゆくしか方向性はないように思えます。今後も、サルと人間がより良い関係を取り戻すことを願って観察を続けようと思っています。(律)

子ザルを背中に載せた母ザル。とても可愛いですが、ちょっと悪戯が過ぎるようです

子ザルを背中に載せた母ザル。とても可愛いですが、ちょっと悪戯が過ぎるようです