みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
東奥日報「Juni Juni」の連載:10回目

東奥日報「Juni Juni」の連載:10回目

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東奥日報「Juni Juni」の連載:10回目
東奥日報「Juni Juni」の連載:10回目

今回の「Juni Juni」連載は、地元農家の嫌われ者、「ニホンザル」です。下北の個体群と同様、世界最北端に生息するサルたちですが、増えすぎて田畑の農作物を襲うため、一部が間引かれる事態にまでなっています。

集団で農場を襲うサルの群れ
農場に現れたサルの群れ

以前は、白神山地の奥地で、わずかな群れが平穏に暮らしていました。麓の村に下りてきて、悪さをする個体も少なく、駆除の対象にもなっていません。地域の人も、「サルに悪戯をすると罰があたる」と、畏怖の念を抱くほどでした。

親子連れ。とても愛らしいが‥
親子連れ。とても愛らしいが‥

それが、ここ最近、急激に数を増やして、麓の村々を困らせています。なぜ、増えてきたのか?。その理由は、判っていません。マタギたちの高齢化により、狩猟圧が減ったことなのか。過疎と限界集落化で、人間の力が弱まっているのをサルが見抜き、攻勢に出てきているのか。

キョロキョロと、周りを窺いながらカボチャ畑を荒らすサル
キョロキョロと、周りを窺いながらカボチャ畑を荒らすサル

研究機関などの調査も、ほとんど進んでいないので、判別がつかないのです。そして、サルだけでなく、クマやハクビシン、アライグマ、カラスなどが、害獣となって農地を襲う、「動物たちの逆襲」が続いています。

サルの罠である折を運ぶ役場の職員
サルの罠であるオリを運ぶ役場の職員

先日、近所のおばあちゃんが、我が家の軒先に捥ぎたてのトマトを4~5個、置いてくれました。外出先から帰ってくると、今まさにトマトを持ち去ろうとしている若いサルと鉢合わせ。「コラッ!」と、夫・哲二が、拳を振り上げて追い払います。

農園で落ち穂を披露サルの家族
農園で落ち穂を拾うサルの家族

が、敵もサルもの。瞬時に我が家の屋根へ飛び移ります。そして、どうしてもトマトが欲しいらしく、立ち去りません。しばらく睨み合っていましたが、ボス猿のような哲二の風体に恐れをなしたのか、渋々と山の方へ戻っていきました。

母サルがカボチャを持ち帰るのを木の上で待つ子ザルたち
母サルが餌を持ち帰るのを木の上で待つ子ザルたち

小柄な若い個体だったので、1個ぐらいあげてもいいかな、と思いましたが、哀れみは禁物。一度、餌付けたら、毎日のように押しかけてきます。そうしたら、私たちだけでなく、近所の農家すべてが困らされるのです。

花火で追い払い。後方に捕獲用の檻が設置してある、同町で
花火で追い払い。後方に捕獲用の檻が設置してある

どうして、人間と敵対するようになったのでしょうか。やはり、過疎と高齢化で人口が減り、農業を担える人材が少なくなっているのが要因だと思われます。若手で農家を専業にする方も、町内には数えるほどしかいません。ほとんどが兼業か大規模な農場で働いているからです。

畑仕事を終えて自宅へ向かう近所のお年寄りたち
畑仕事を終えて自宅へ向かう近所のお年寄りたち

そして、個人の小さな田畑は、そのほとんどをお年寄りが管理しています。そんな畑におばあちゃんしかいないと、サルは平然と侵入し、目の前で作物を持ちさります。おばあちゃんが騒いだり、石を投げたりしても、まったく無視。人の強弱を値踏みしているかのようです。

ジャガイモ畑をサルに荒らされ、見成熟な芋を慌てて収穫するお年寄り
ジャガイモ畑をサルに荒らされ、見成熟な芋を慌てて収穫する

この地域で心配なのは、こうした農業を生き甲斐にしているお年寄りたちへの被害です。日課にしている畑仕事が獣害で継続できなくなったら、体を動かすことができなくなります。社交場としていた畑に出なくなれば孤独感が募り、よけいに参ってしまうのです。そうして寿命を縮めたという例も聞きました。

サルの害獣駆除で、空砲を撃って追い払う伊勢親方
サルの害獣駆除で、空砲を撃って追い払う伊勢親方

何とか対策を講じなけれならないのですが、小さな市町村が対応するのも限界があります。深浦町も専従の職員を雇ったり、猟友会に全面的な協力をお願いしたりして、対策を講じていますが、サルの数は一向に減らず、農業被害は深刻なままです。

捕獲されて、身体測定されるサル
捕獲されて、身体測定されるサル

できれば、大学などの研究機関と国が対策を講じてほしいものです。地方への経済効果の波及を狙う、「ローカル・アベノミクス」とか、「地方の変革」とか、スローガンは立派ですが、地方のおばあちゃんたちへは、何も届いていません。それよりも、若者が都会へ出ていかなくても暮らしていける、「素晴らしい故郷」を再構築させてください。

サルに荒らされたカボチャ畑で呆然と立ち尽くすばっちゃん。ほどんど収穫できず、ほぼ全滅した。約半年間、手塩にかけて育ててきただけに、目尻から涙がこぼれた、同町で
サルに荒らされたカボチャ畑で呆然と立ち尽くすばっちゃん。収穫できず、ほぼ全滅した。約半年間、手塩にかけて育ててきただけに、目尻から涙がこぼれた

右翼的な発言の多い総理ですが、日本人が大事に守ってきた親兄弟や友人、そして故郷を大切にできるような施策は、ほとんど出てきません。金のばら撒きでない、実体の伴った政策をお願いしますよ。

テレメトリーを装着後、群れに還されるメスザル。調査員から、「もう悪さするなよ」と言われ、反省しているような表情を浮かべている、深浦町で
テレメトリーを装着後、群れに還されるメスザル。調査員から、「もう悪さするなよ」と言われ、反省しているような表情を浮かべている

ただ、間違っても戦争への道は、止めてくださいね。この村では、あの大戦の生き残りの兵士たちが、まだ畑に出て、鍬を握っているのですから。それよりも、サルとの争いを平和裏に解決できるよう、知恵と実行力をお貸しください。

早朝、朝日を背に森の中を歩いてきた群れ、同町の十二湖で
早朝、朝日を背に森の中を歩いてきたサルの群れ

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