青森県深浦町の小さな集落     
白神山地の生き物たち「アズマヒキガエル」

白神山地の生き物たち「アズマヒキガエル」

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水たまりに集まっていたアズマヒキガエル。産卵行動の真っ最中だった、深浦町で

水たまりに集まっていたアズマヒキガエル。産卵行動の真っ最中だった、深浦町で

白神の山々も草木の芽吹きの季節を迎え、ひと雨ごとに山肌が新緑に覆われてきました。雨上がりの林道を車で走ると、轍のくぼみにできた水たまりで何者かが蠢いています。黄色と褐色の塊。アズマヒキガエルの抱接と産卵行動でした。雨水がたまって出来た小さな水たまりですが、周辺から湧き水がわずかに流れ込んでおり、そこに数匹が集まって、恋の季節を迎えているようです。

水たまりの中に体を平たくして身を隠す

水たまりの中に体を平たくして身を隠す

急ブレーキを踏んで停止。これに驚いたカエルたちも、抱接行為を解いてしまいました。夫が「ゴメンごめん。でも、林道の真ん中で‥。もっといい場所があるだろ」と、頭を掻きながらブツブツ。大事な時に邪魔して、カエルくんには申し訳なかったのですが、轢き殺さなくてよかったです。オス、メスそれぞれが、のそのそと歩いて森の中へ消えてゆきました。でも、水溜りを見ると、大切な用事は済ませていたようで、いくつかの卵塊が浮いています。そして、今まさに卵を放出しているメスがいました。この個体は水没してまったく姿が見えなかったのですが、ギリギリで愛車の軽トラックのタイヤからズレていました。もう、30センチ近ければアウトでした。良かった。重ね重ね迷惑だろうけど、少し写真に撮らせてね。

卵塊に包まれながら卵を産む

卵塊に包まれながら卵を産む

右上を好物のブヨが翔ぶが、産卵が大事。まったく身動きもしなかった

右上を好物のブヨが翔ぶが、産卵が大事。まったく身動きもしなかった

アズマヒキガエルは二ホンヒキガエルの亜種で、日本固有種。その名の示す通り、主に東日本に分布しており、学名には「ハンサムな」という意味があるそうです。確かに体が大きく、堂々としており、色も模様も美しいカエルです。体長は6~18cm、体重は500gぐらいまで成長する個体も。体のサイズは地域によって違うようで、研究者らの報告では南は大きく、北へ行くほど小型になるとされています。体長の割には後ろ足が短いので、カエルの得意技であるジャンプが苦手。のっしのっし、と歩いて移動します。その姿は短足の我が夫のようです。

褐色のつやつやした皮膚と堂々とした体躯

褐色のつやつやした皮膚と堂々とした体躯

乾燥に強く、普段は水に入らなくても生活できていると聞きます。ほとんどが単独で行動していますが、春が訪れると、匂いを頼りに生まれ故郷の川や池に戻ってきて、オスがメスに抱接し、卵を産みます。ヒキガエルの抱接とは、お腹の中に卵を持ったメスにオスが強く抱きつき、産卵を促す行為です。時には1匹のメスを巡って、何十匹ものオスが折り重なり、その様は「蛙合戦、ガマ合戦」と呼ばれています。卵は1500~14000個生むそうで、大型のメスほど産卵数か多いとの報告があります。夜行性ですが、繁殖期は昼間も行動しているようです。背中などの皮膚にイボがあり、外敵などに襲われて刺激を受けると、目の後ろにある耳下腺やイボから乳白色のブフォトキシンという毒液を分泌します。これは薬にもなるのですが、手で触れたあと口や眼などの粘膜部分に触れると炎症を起こすことも。ただ、天敵である蛇のヤマカガシは、この毒に耐性があるようで、好んで捕食しているようです。そして、ヤマカガシの毒は、ヒキガエルのブフォトキシンを体に貯めて利用しているとされています。

林道の車の轍が作った水たまりで産卵

林道の車の轍が作った水たまりで産卵

この毒成分を利用したとする怪しい薬が「ガマの油」です。江戸時代に傷薬として使われていた軟膏で、ガマとはヒキガエルの別名です。縁日や祭で香具師(やし)たちが、行者を装った衣装を身につけて、「さぁーさぁーお立会い。ご用とお急ぎでない方はゆっくりと聞いておいで…、手前ここに取りいだしたるは筑波山名物ガマの油、ガマと申してもただのガマとガマが違う、これより北、北は筑波山のふもとは、おんばこと云う露草を喰ろうて育った四六のガマ…」とした巧みな口上と共に売られていた民間療薬。「男はつらいよ」の主人公・フーテンの寅さんも、こういった口上が得意の主人公でした。そして、同時に楽しい大道芸も繰り広げられます。切っ先だけ切れ味が良い刀で和紙を細かく刻んで花吹雪のように撒き散らし、次に刀の切れない部分を使って腕を切る仕草をします。そうして出来た赤い筋を引いただけの切り傷を、さも刀で切ったようにお客さんに見せつけた後、ガマの油を傷口に塗って偽の傷を消し、薬が効いたように見せつけるパフォーマンスです。

片目をつぶったウインクのような所作。女の子だもんね

片目をつぶったウインクのような所作。女の子だもんね

こうして売られていたガマの油に、どんな成分が含まれていたかはまったく不明です。蝋などを基にしてヒキガエルやムカデなどを煮詰めって作ったとされる説や、馬の脂肪から抽出した馬油だとする説もあるようです。実際に効いたかどうかも分からず、相当に怪しい薬だったようです。ただ、この口上と一連の大道芸的なパフォーマンスが人気で、偽薬かもしれないと思いつつも、当時のお客さんは楽しんでいたのでしょうね=写真下、醜いとされているガマガエルとは思えない、美しい容姿

醜いとされているガマガエルとは思えない、美しい容姿

醜いとされているガマガエルとは思えない、美しい容姿

この口上の中に出てくる「四六のガマ」ですが、ヒキガエルの身体的な特徴を捉えたものでした。基本的には前足後足ともに五本指ですが、前足の親指に当たる第一指は、退化した痕跡的な骨があるだけでじっくり観察しないと四本指に見えます。また後足は、親指の近くに番外指と呼ばれる内部に骨のある瘤状の突起があるので、六本指があるように見えるのです。それを巧みに利用して、口上に用いたようです。交通機関が未発達で自由に旅行に行けなかった時代、筑波山など霊山として信仰の厚い地域で作られたとされる民間薬を、お客も霊験あらたかとする信心半分、楽しみ半分で購入していたのでは、と想像されます。古来から、ユニークな人間との関わり合いを持つヒキガエルくん。北国の霊山として名高い白神山地の渓流や湖沼で、今も人を恐れない堂々とした態度で生き続けています。

産卵に疲れたのか、卵を守っているのか、まったく立ち去らない

産卵に疲れたのか、卵を守っているのか、まったく立ち去らない

 

 

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