白神山地は山菜の宝庫です。春になると、様々な種類の山菜が、麓に暮らす人々の食卓を賑わします。フキノトウから始まり、夏に盛りを迎えるミズ(ウワバミソウ)まで、豊かなブナの森は素晴らしい食材を私たちに与えてくれます。そんな山の畑で得られる自然からの贈り物を紹介いたします。
山菜採りで山に入ると、チクチクと肌を刺すような感触の草に悩まされます。実はこれも食用の山菜で、深浦町ではアイコ(和名:ミヤマイラクサ)と呼ばれ、利用されてきました。お正月に各家庭で作られる青森県の郷土食「けの汁」の具として欠かせないものだ、と地元のおばあちゃんらは力強く語ります。それだけでなく、お浸しや、茹でたものにマヨネーズや和がらしを添えても美味しくいただけます。
下処理は、沸騰したお湯に入れてひと煮立ち。鮮やかな緑色になったら、火を止めて水にさらします。そして、茎の根元の方から皮をむいて、その茎部分を食べます。近所のおばあちゃんたちは、塩漬けの保存食にして、冬に備えるそうです。今回、我が家では、塩と昆布茶をもみこんで、即席漬けに。冷蔵庫で冷やして食べると、シャクシャクした歯ざわりと、ほんのりした甘みが口に広がります。
素手で触ると、痛さと不快感でイラっとするアイコの棘には、蜂の毒と同じ「蟻酸」が含まれています。肌に刺さるとチクチクとした痛みと同時に痒みが襲うことも。そのために必ず厚手の手袋をつけて採取します。日陰がちな広葉樹や杉林などの湿り気のある斜面に群生。シソに似た葉が特徴で、茎は30~40cmぐらいに成長することもあります。葉が開ききり、茎が堅くなりすぎたものは、食用には向きません。採取する時は、自然にポキンと折れる部分から摘むようにすると効率的に採れます。葉は食べられませんので、現場で摘み取っておくと自宅へ帰ってから処理する手間が省けます。
ウドは、図体はでかいが中身がなく、役に立たない存在として名が知れた草花です。成長しきると3m前後まで育つのですが、その時点では食用にも木材にも適さないので、「ウドの大木」と揶揄されています。不名誉な例えと裏腹に、地面から出始めの頃には、芽も葉も茎も余すところなく利用できる、香り高い山菜です。
林縁の日当たりが良い斜面に自生し、時には半日陰にも出ています。スーパーマーケットなどで売られている茎の白い物は、日の当たらない地下で株に土を盛って暗闇の中で栽培した「軟白栽培」によるもので、味や香りに独特の癖がある天然物とは、まったく別物のように感じてしまいます。
ただ、山で採れる天然物のウドは灰汁が強いため、一定時間は水にさらさないと、食べた時に強烈な渋味が口内に残ります。様々な料理に合う優れた山菜で、葉や茎の先端部は天ぷらに、薄切りにしてさっと茹でたものは酢味噌和えなどに。茎の硬い皮を剥ぐと芯の部分は「和風セロリ」のようで、中華料理の食材にも使えそうです。でも、人によっては食物アレルギーが出るので注意が必要とされています。
それでは、新たに挑戦したウドとイカの中華風炒めをご紹介します。セロリの代用としてウドを使いましたが、こちらの方が本家より美味しかったかも。
皮を剥いたウドは、5ミリぐらいの薄切りにして、30分程度水にさらします。イカは、タテヨコに切り込みを入れ、日本酒と塩コショウで下味をつけておきます。下準備ができたら、まず弱火で刻みニンニクと白髪ねぎを炒めます。
良い香りがしてきたら、下処理したイカを投入し、中火から強火で炒めます。今回使用したイカは、肉が厚くて柔らかい樽イカ(ソデイカの一種)です。イカに火が通ったら、皿に取っておきます。次に、同じフライパンに油を足し、ウドを炒めます。目安は、しんなりと火が通り、なおかつ歯触りが残る程度。難しいようですが、ウドは生でも食べられるので、あまり深く考えず、豪快に炒めます。
ウドに火が通ったら、フライパンにイカを戻し、塩コショウ、中華スープの素少々で味付けします。最後に、少量の水溶き片栗粉を回しかけて完成。セロリよりもしっかりした歯ごたえと、ワイルドな香り。とても美味しい中華の逸品になりました。野生のウドは灰汁が強くて癖があり、たくさん食べるのは難しかったのですが、これならば一回で2、3本はペロリといけます。春の一時期だけですが、我が家の定番料理になりそうです。中華料理屋さんにも、教えてあげたいな。
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