まもなく8月を迎え、お盆が近づいてきました。私たちが暮らす集落には、伝統的な神事や郷土芸能が数多く伝承されています。そのひとつが、毎年お盆の8月13日に実施される「獅子踊り」。3匹の獅子に扮した踊り手が、集落内で勇壮に舞う民族芸能で、県の無形民族文化財に指定されています。
この時期は、普段は閑散とした集落が一年の中で最も賑わいます。都会へ出ている人たちが、次々と帰省して来るからです。老夫婦だけで暮らす家々に、夜遅くまで明かりが灯り、子や孫の笑い声が集落内に響き渡っています。まるで、昔の活気を取り戻したかのように。夫婦二人暮らしの私たちも、そんなお盆の賑わいと人々の笑顔に、ほっこりと癒される時期でもあります。
活気が戻った過疎の村で、繰り広げられるのが、200年以上は続けられてきた獅子踊りです。主役は、「雄獅子、雌獅子、仲獅子」からなる3匹の獅子。鹿の角や鳥の羽根、色紙などで飾り作られた獅子頭を保存会のメンバーらが被り、腹太鼓をつけた扮装で、稲荷神社の境内や寺などで、笛や太鼓の音色に合わせて舞い踊ります。
見物するのは、老夫婦だけでなく、帰省した息子や娘の家族も。観光客の姿はほとんど見かけませんが、毎年のように訪れてくださる祭り好きのカメラマンもいるようです。午前中は、神社や寺で舞いますが、夜になると公民館前の広場に場所を移します。
その夜の舞には、「キッチョコ」と呼ぶ二人の道化が登場します。蓑などの農作業着に身を包み、オカメとヒョットコのお面をつけ、ササラを摺って獅子を挑発しながら、自らも舞い踊ります。散々、邪魔をして、最後には獅子に退治されるのですが、コミカルな動きがとても印象的でした。
目的は、魔除け、家の新築、橋の落成など、安全祈願が主なようです。そして、手作りの獅子頭は、呪術や信仰とが結びついた神聖な被り物と考えられています。そのためか、踊りを始める8月7日の「獅子おこし」の祈りでは降神のような儀式があり、最後の十五夜の夜に行われる「獅子納め」は、神創りの儀式ではないかと伝えられています。
江戸時代の民俗学者・菅江真澄が記した寛政八年(1796年)の紀行文に、この獅子踊りが紹介されています。「この夜、年毎のたわむれなる雌鹿(めじし)、雄鹿、中鹿の舞いさざめきのうちに夜はふけたり。この世の中の田の実りよかれのあそびのひとつぎかし」。この地区の住民たちが伝承し続けてきた歴史を物語る一節です。
しかし、集落の過疎と高齢化の波が、地域が誇る伝統芸能に影響を及ぼしています。踊りを継承できる獅子のなり手が少ないのです。現在、中心となって踊っているのは、保存会の70歳を越えるベテランで、後継作りには心底、頭を悩ませています。今のままだと、あと僅かで途絶えてしまう可能性もあるようです。
お盆に帰郷し、獅子踊りを見るのが楽しみな集落の出身者もいます。子どもや孫の帰省を心待ちにするお年寄りたちも、郷土芸能の継続を心より願っているようです。北東北の自然や生活文化が好きで移り住んできた私たちも、出来る限りの形で協力したいと考えています。
夫は写真を撮り、私が文章を書く。そうした形での情報発信しか、お手伝いの仕方はありませんが、心を込めて続けていきたいと考えています。今年もお盆がまもなく訪れます。集落に帰省される皆さま、お年寄り夫婦はそれを心待ちにしています。どうぞお帰りになって、元気な笑顔を見せてあげてください。それが何よりのお土産ですから。
コメントを残す