10月22日付、東奥日報の小中学生新聞「週刊Juni Juni」の1面に掲載されました。
http://www.toonippo.co.jp/junijuni/pickup/20131022103142.asp
秋が深まりつつある北東北地方。朝晩も、すっかり冷え込むようになりました。世界自然遺産・白神山地は、間もなく全山が赤や黄色などの紅葉に彩られます。町立深浦小学校3年生に、深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方が教えている森の授業も今回で2回目。31人の児童たちが、遠足形式でお弁当と水筒を持って、白神の麓の森、「十二湖」を歩くことになりました。
出発する前に、親方たちから、森に入るにあたっての注意事項を聞きます。「この時期は、スズメバチが盛んに行動しているので、目の前に飛んできても慌てず騒がず、静かにやりすごしなさい。そして、道から外れた草むらには、マムシなどの毒蛇が潜んでいるかもしれないので、むやみに立ち入らないように。森の中の生き物たちは、こちらがちょっかいを出さない限り、めったに襲ってこないからね。さぁ、出発だ。今日は実際に植物や生き物を観察しよう」
親方を先頭に、嬉々として歩き出す児童たち。広い林道では、二人が仲良く手を繋ぎ、狭い遊歩道では、一人ずつ整然と歩きます。「みんな、走ったらダメだよ。木の根や切り株があるから、転ぶと大けがをするからね」と親方。優しい表情ながら、少し厳しい口調で子供たちに語りかけます。
まず最初に見つけたのは道端に群生している山菜のミズ(ウワバミソウ)。親方が、「ほら、これは何だべかな。判る人」と聞くと、何人かが手を挙げます。そして、「ミズー!」と、元気一杯な返答。「よしよし正解。食べた事あるんだな。この時期は実っこが付いているので判りやすいな。この実も美味しいんだよ」
しばらく歩くと、朽木にキノコが出ているのを親方が見つけました。「さぁ、このキノコは何かな?」との問いかけには、誰も手を挙げることができません。「これはサモダシ(ナラタケ)という美味しいキノコ。朝晩、寒さが増して、森の木々が色づき始めると出てくるんだな。はなはだしい時だば、お花畑のように地面に広がっていることもあるんだよ」
そして、斜面の木の根元を見て、「あの白いのはマイタケでねぇか。そうだ多分マイタケだ」と指差します。ナラの木の根元に生えた白い塊。それは「シロハマイタケ」でした。見つけた人が舞って喜ぶほど、貴重で美味しいキノコ。それを子供たちとの森の授業中に見つけたのです。
手にしてみると、何とも言えない素晴らしい香りが漂っています。まさに、広葉樹の森が広がる白神の秋の香りです。子供たちもびっくり。誰もがマイタケが実際に生えている所など見たこともありません。全員が、キノコを手にする親方の下に集まってきて、香りを嗅いだり、触ったりしています。「親方すげぇ‥」、「あー、良い匂い」、「意外に硬いよ」、「食べたいなー!」。ニコニコ笑いながら子供たちに接している親方も、少し誇らしげです。
目的地は、獣道にロボットカメラを仕掛けてある森です。ここは親方の指導の下、カメラを設置した場所のひとつ。約1時間で到着し、実際に何が写っているのかを、全員で確認しました。カメラのモニターに写し出されたのは、カモシカとアナグマ、ウサギなど。子供たちは、遠足のコース近くにも、様々な野生動物が棲息していることに驚いた様子でした。
「この森には、クマやカモシカ、ウサギなどの生き物がたくさん暮らしているんだ。もしかしたら、世界自然遺産として保護されている森と同じくらいかもしれないな。それほど十二湖は、豊かな森なんだよ」と、親方。説明を聞く子供たちの目も、教室での座学のとき以上に輝いています。
そして、この場所で撮影された動物の写真を鑑賞し、体の大きさや森の雰囲気を体感します。クマと一緒に写っている実物の木を見て、「このクマ、でけぇ‥」と驚嘆する男児。「秋と冬、違う毛色で写ったウサギ。同じ子かな?」と、首を捻る女児。ロボットカメラに写った生き物が、実際に歩いた現場を見た子供たちは、「この近くに、動物たちがいるんだね。今も木の陰から私たちを見てるかも」と、森の臨場感に感嘆しきりでした。
お昼ご飯は、子供たちのスクールバスを停めた、リフレッシュ村の駐車場で戴きます。思い思いの場所でお弁当を広げ、皆とても楽しそうです。食後、子供たちが、持ってきたおやつの飴やグミなどを握りしめて、親方のもとへ駆け寄ってきます。「親方どうぞ」、「はい、これも食べてください」。「おー、ありがとう。遠慮なく戴くよ」。親方のお孫さんは、首都圏で暮らしているので、最近、会えていないようです。それもあってか、好々爺のような満面の笑顔です。
森の授業の最後、全員で十二湖エコミュージアムを見学しました。白神山地の成り立ちの映像を鑑賞し、ミュージアムの展示物を見て回ります。ここで親方から、森の中で獲ったマイタケをプレゼントされました。「他の学年の仲間たちにも見せておあげ。まだまだ香りは消えないので、それも嗅がしてあげなさい」と親方。受け取った子供たちも大喜び。「ねぇ先生、給食に出してー」
すべてが終わってバスに乗り込んだ子供たちを親方が見送ります。窓に顔を押しつけて、千切れんばかりに振られる小さな手。「良かったなぁ。子供たち、喜んでおったようだ。まさかこの年で、先生になるとは思っていなかったよ。まだまだ老け込んでいられないな」と、背筋を伸ばす親方。そうです。長生きして、子供たちに白神の森の素晴らしさを伝えてやって下さい。私たちも出来る限りのお手伝いをいたしますからね!。
大阪生まれの大阪育ちの大阪おじさんには、想像も付かないほど羨ましいお話です。
何もかも遮断して森の音を聞き、臭いをかぎ、空気を吸ってみたいです。