みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
座礁船が放置された浜で高校生らが清掃活動

座礁船が放置された浜で高校生らが清掃活動

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放置されたままのアンファン号と海岸清掃をする町民
アンファン号と海岸清掃をする町民。手前はお手伝いに来てくださった白神倶楽部の西田会長

青森県深浦町岩崎地区の海岸に、カンボジア国籍の貨物船「AN FENG8」(アンファン号)が座礁して、約一年半。今も放置されている船は、漂流しないようロープなどで係留されていますが、日本海の荒波にもまれて船体が折れてしまい、積み込まれていた装備品や道具類などが流出している状態です。そのため、美しかった浜はゴミや漂着物などで見る影もなく汚れ、海水浴場だった海岸は危険な船の残骸のために、立ち入りが制限されています。

★朝日新聞さんの記事

http://www.asahi.com/articles/ASG884SB7G88UBNB00H.html
 

★毎日新聞さんの記事

http://mainichi.jp/area/aomori/news/m20140808ddlk02040065000c.html
 

★読売新聞さんの記事

 http://www.yomiuri.co.jp/local/aomori/news/20140815-OYTNT50481.html
 

★青森朝日放送さんとATV青森テレビさんが放映して下さいました

清掃活動の前に、町の職員から注意事項を聞く参加者
清掃活動の前に、町の職員から注意事項を聞く参加者
人間が流れ着いたのかと思った光景。近づいてみると‥
浜を汚すアンファン号の装備品。ゴミとして処分できないので、保管されている
人型の漂着物。アンファン号から流れ出た物
冬季の甲板作業着。アンファン号から流れ出た

その海岸で、地元の県立木造高校深浦校舎(笹浩一郎・校長)の生徒が、町役場の協力で、地元の有志の方々と一緒に、清掃活動をしました。数日間降り続いた大雨で、浜には流木がゴミと共に大量に打ち上げられ、足の踏み場もないような状態。でも、生徒たちは文句ひとつ言わず、燃えるもの、燃えないもの、スプレー缶などに分別して収集し、処理施設へ送りました。

ゴミ袋が一杯になるまで集める女子生徒
ゴミ袋が一杯になるまで集める女子生徒
台風の余波による大雨で、海岸にはゴミが山積みになっていた
台風の余波による大荒れの天気で、海岸にはゴミが山積みになっていた

今回の清掃ボランティアも、高校生たちへの「環境と防災教育」の一環です。放置され、壊れてしまった船が、地域へどれだけ迷惑を掛けているのか、この先、どう処理されて行くのか、などを学習するのが目的です。同時に、早期の撤去へ向けて、何か一つでもお手伝いしたい気持ちが募っての行動でした。国土交通省や海上保安庁、県の関係機関などへ、船主の責任で撤去して貰えるように訴えていますが、なかなか事態は進捗しないからです。

写真が大好きな深浦校の3年の香純さんも、撮影を手伝ってくれた
写真が大好きな深浦校舎3年生の香純さんも、撮影を手伝ってくれた
海岸で、カメラを構える香純さん。同窓生の表情を見事に捉えていた
海岸で、カメラを構える香純さん。同窓生の表情を見事に捉えていた

県や町は、早期撤去に向けて、様々な形で、船主や保険会社、国などへ働き掛けています。が、船主の中国人とは、連絡がつかない状態が続いているそうです。そこで県は、海岸を整備したり守ったりするための「海岸法」の改正を国へ働きかけました。

顔をしかめながらも、ゴミを拾う。酷い匂いの物もある。
顔をしかめながらも、ゴミを拾う。酷い匂いの物もある=香純さん撮影
中腰で、自分が担当する素材のゴミを集める女子生徒=香純さん撮影
中腰で、自分が担当する素材のゴミを集める女子生徒=香純さん撮影

アンファン号は、船体の前半分が陸に乗り上げており、後ろの半分が海に没しています。そのため、現行の法律では、海上にある放置船の処理命令を自治体が出すことが難しかったからです。県が管理する海岸を規制する法律では、船の撤去命令を船主側へ出すこともできなければ、行政の代執行で撤去することも出来ませんでした。

中国語の表記があるドラムカン
中国語の表記があるドラムカン
アンファン号から流出した物かもしれない
アンファン号から流出した物かもしれない

それが、早期解決を求める地元の声が国へ届いたのか、今春、海岸法が改正されて、県が船主などへ法的な撤去命令を出せるようになりました。そして、持ち主らが応じなかった場合や緊急時には、行政が代わって執行できるようになったのです。法の縛りが解け、三村申吾・県知事のもと、県や町の職員らが一体となって、解決へ向けて動き出されています。

夏休みなのに、大勢がボランティアで参加してくれた
夏休みなのに、大勢がボランティアで参加してくれた
時には嫌なものが転がっている時もある。それでも、文句ひとつ言わず働く
時には嫌なものが転がっている時もある。それでも、文句ひとつ言わず働く=香純さん撮影

ところが、予期せぬ事態から、深刻な問題が生じ始めています。撤去にかかる費用を、誰が出すのかが、不透明になっているのです。本来、こうした座礁船は、持ち主の責任で撤去することになっています。が、アンファン号の船主である複数の中国人が、責任のある行動を見せていません。県や町はこれまで、十数回に亘って、この船主らに船の撤去要請をしてきましたが、返答はなく、今も、連絡がつかない状態が続いているのです。

同じ集落の柴田さん。私らの会の活動に賛同して下さる大先輩
同じ集落の柴田さん。私らの会の活動に賛同して下さる大先輩
先頭に立って働く柴田さん。地元の子供たちへ深浦の伝統文化を伝える活動もされている
先頭に立って働く柴田さん。地元の子供たちへ深浦の伝統文化を伝える活動もされている=香純さん撮影

日本へ入港してくる外国籍の船は2005年3月から、船舶責任保険(PI保険)への加入が法律で義務付けられています。総トン数が100トンを下回る船や公用の船舶は除外されていますが、この保険に加入していない船の入港は禁止されています。

危険なスプレー缶なども数多く収集した=香純さん撮影
危険なスプレー缶なども数多く収集した=香純さん撮影
赤錆びたドラムカン。何が入っているかは不明‥
赤錆びたドラムカン。何が入っているかは不明‥=香純さん撮影

これは04年4月に、「船舶油濁損害賠償保障法」が改正されて、決まったもので、保険金の支払い対象は、「日本の領海と排他的経済水域で起こした燃料油による油濁損害」、「船体の撤去に係る費用」です。アンファン号も、PI保険に加入していました。それゆえ、いざとなれば、保険会社が撤去費用を賄ってくれる、と、県や町の関係者は考えていました。

私らの会の大間越3人娘も参加。最年少にもかかわらず、動きが良い、
私らの会の大間越3人娘も参加。最年少にもかかわらず、動きが良い
先頭に立って働く柴田さんと3人娘。同じ集落の仲間同士
先頭に立って働く柴田さんと3人娘。同じ集落なので、とても仲良し

が、ここにきて、その雲行きも怪しくなってきたようです。それは、アンファン号が加入している保険会社が、「座礁事故に対して船主が適切な行動を取っていない場合、PI保険が適用されない」という保険の規定(約款)があると主張。「船主と連絡がつかないうえ、船も放置されたままの現状では、保険の適用が難しい」と判断している、との情報が聞こえてきました。

生徒たちの前で、写真を掲げながら哲二が講義。風体が怪しすぎる‥
生徒たちの前で、写真を掲げながら哲二が講義。風体が怪しすぎる‥=香純さん撮影
哲二(手前)と町役場の松沢戦略室・室長の話を聞く参加者
哲二(手前)と町役場の松沢戦略室・室長(手前左)の話を聞く参加者=香純さん撮影

これは、深刻な事態です。船主と連絡が取れないうえ、保険が適用されないとなると、県が代執行して船を撤去しても、その費用を支払ってくれる相手がいません。そうなれば、国や県の予算から捻出せざるを得なくなってしまいます。これは、税金です。正式な数字は判りませんが、撤去費用には約3億円ほどかかると試算されているそうで、それ以外にも、すでに船の固定や油の抜き取り作業などで、約5000万円が費やされています。

ちょっと一服。曇っていたが、蒸暑い
汚れ仕事も厭わない女子生徒たち。蒸暑いので、ちょっと一服
力自慢で頼もしい男子生徒たち。いつも溌剌としている
力自慢で頼もしい男子生徒たち。いつも溌剌としている=香純さん撮影
台風の接近で、曇天だが蒸暑い。スポーツドリンクで水分補給する女子生徒たち
台風の接近で、曇天だが蒸暑い。スポーツドリンクなどで水分補給する女子生徒たち=香純さん撮影

昨年の3月、嵐の海で座礁したアンファン号から乗組員を救助。無事に祖国まで送り届けたのに、危険なスクラップ同然の船を放置したまま、連絡もして来ない状況が続くのは、遭難者へ誠意をもって対応した青森県民として許せない気持ちになります。

深浦校舎の教職員・古跡先生が、記録担当。すぐ横をお手伝いに来てくださった白神倶楽部の西田会長(左端)が横切る
深浦校舎の教職員・古跡先生が、記録担当。すぐ横を白神倶楽部の西田会長(左端)が横切った
片時も休もうとしないで働く女子生徒。深浦の子供たちは、素晴らしい
片時も休もうとしないで働く女子生徒。深浦の子供たちは、素晴らしい=香純さん撮影

 こうした外国籍の座礁放置船は、青森県だけでなく、実は日本各地に存在しているそうです。国の行政機関である国土交通省や海上保安庁などから聞いた話では、北は北海道の根室半島から、南は沖縄県の尖閣諸島にまで、2014年現在で12隻が残されています。

作業が終了。主催者の話を真剣な面持ちで聞く参加者ら
作業が終了。主催者の話を真剣な面持ちで聞く参加者ら=香純さん撮影
放置された地名船籍(旗国)所有者船の種類総トン数発生日時PI保険油流出
北海道根室市納沙布岬ロシアロシア貨物船1721992.12.27未加入
北海道根室市花咲灯台ロシアロシア貨物船611999.12.07
北海道浜頓別漁港シエラレオネロシア貨物船142012.02.15
青森県深浦町カンボジア中国貨物船19962013.03.02加入
大分県佐伯市蒲江深島ベリーズ中国曳き船491994.08.02
長崎県長崎市野母崎樺島町韓国韓国クレーン台船1502000.02.27未加入
宮崎県宮崎市日南海岸ベリーズ中国浚渫(しゅんせつ)船59102010.10.24未加入
鹿児島県大島郡宇検村ベリーズ韓国冷凍運搬船3421996.08.13未加入
鹿児島県南さつま市宇治群島モンゴル不明貨物船1062007.05.20不明
沖縄県伊良部島モンゴルシンガポールタンカー992013.01.14
沖縄県竹富町西表パナマ香港貨物船3661991.10.30未加入
沖縄県尖閣諸島南小島西台湾不明漁船202001.11.07

撤去に向けて、動き始めている自治体もありますが、すでにあきらめて放置したままの場所もあるようです。上記は、2014年7月現在の放置された外国船がある場所と、座礁日時などを書き込んだ一覧表です。これを見る限り、ほとんどの船が、大都市周辺でなく、人口が少ない「へき地」と呼ばれる地域に残されています。うがった見方かもしれませんが、中央政府からも遠く、住民たちの声が大きくなりにくい場所だから?、と訝(いぶか)しんでしまいます。

「先生!。ほら、シャッターチャンスよ」。古跡先生を香純さんがサポート
「先生!。ほら、シャッターチャンスよ」。古跡先生を香純さんがサポート
ゴミの山を乗り越えて収集活動する女子生徒たち
ゴミの山を乗り越えて収集活動する女子生徒たち

実は、世界中でも、こうした放置座礁船が問題になっています。判っているだけで、2007年のデータで約1300隻の放置船があるそうで、年々増えていると報告されています。そのため、「海難残骸物(座礁放置船など)の除去に関する国際条約」と呼ばれる、「ナイロビ条約」もしくは別名の「レックリムーバル条約」が、2015年4月に発効される予定です。

「なにこれ?」。様々なゴミが打ち寄せられている
「なにこれ?」。様々なゴミが打ち寄せられている=香純さん撮影
集めても集めても、限がないほど積みあがった漂着ゴミ
集めても集めても、限がないほど積みあがった漂着ゴミ

この条約の趣旨は、船舶の航行や海洋環境に危険を及ぼす「海難残骸物」を、素早く、効果的に取り除き、それに掛かった費用を、船主や保険会社などへ確実に手当させるための国際的な法整備を行うのが目的です。具体的には、海難残骸物を除去する義務を船主に課し、その義務が自発的に履行されない場合は、締約国による代執行を認め、その費用を負担させるための強制保険制度が導入されています。この条約に批准すれば、PI保険に当該の座礁船が加入している限り、船主から撤去費用を取れなくとも、保険会社から強制的に徴収できるのです。

深浦校舎の吉田教頭先生(中央)も参加。熱心に生徒に寄り添って下さる
深浦校舎の吉田教頭先生(中央)も参加。熱心に生徒に寄り添って下さる=香純さん撮影
「律子さん、これ何ですか」。きっちりと分別するため、質問に来た女子生徒
「律子さん、これ何ですか」。きっちりと分別するため、質問に来た女子生徒=香純さん撮影

しかし、今のところ日本は、この国際条約に批准する予定はないそうです。日本では一足早く、これに近い法律となる「船舶油濁損害賠償保障法」の改正法を05年から実施しています。が、その盲点を突くかのように、船主が逃げてしまったり、きちんと対応しなかったりしたら、約款違反で保険が適用されそうにない、という現実を突きつけられています。今回のアンファン号の件は、外国籍座礁放置船問題が、一地方だけで解決できるような事案ではなく、国を挙げて取り掛からなければならない、「深刻な国際問題である」と、知らせているようです。

伊勢親方も清掃に参加
伊勢親方も清掃に参加
体調を崩しているにもかかわらず、親方は来てくださった。「若い衆ががんばっているのに、臥せってられるか」
体調を崩しているにもかかわらず、親方は来てくださった。「若い衆が頑張っているのに、臥せってられるか」

座礁船がある海岸線は、夏場の磯タコ(マダコ)や冬に寄って来る大型の樽イカ(ソデイカ)、春は海藻のモズクなどが収穫できる豊穣の浜として、昔から、地元で暮らす方々に利用されてきました。地域の方々は、毎朝夕、浜を歩き、その季節ごとの「寄り物」を拾ったり、海藻類を採取したりするのを楽しみにしていたそうです。それが、座礁船のおかげで、これまで獲れていた魚介類がほとんど手に入らなくなり、浜も自由に出入りできなくなった、と困惑しています。

海岸に打ち寄せられたゴミを集める親方(右端)たち。昨年からまったく収獲がない、そうだ
海岸に打ち寄せられたゴミを集める親方(右端)たち。昨年からまったく収獲がない、そうだ
天候が悪く、短い時間しか出来なかったが、結構な量のゴミが集まった
天候が悪く、短い時間しか出来なかったが、結構な量のゴミが集まった

今から約20年前、白神山地が世界自然遺産に登録された基準は、「陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの」とされています。この素晴らしい自然遺産を守ってゆくには、登録された青森、秋田県境の山岳地帯にある核心の地域だけでなく、周辺の森や河川、沿岸海域までを、一続きの生態系として保全してゆく必要があります。

収集したゴミは、軽トラックの荷台を満載に
収集したゴミは、軽トラックの荷台を満載に
テレビのカメラマンに撮影されながら、頑張る参加者
テレビのカメラマンに撮影されながら、頑張る参加者

今回の海岸清掃は、世界自然遺産・白神山地に係わる地域の子供たちが、自然保護への意識を高める目的と、外国放置船の処理に関する諸外国との国際的な関係を考えてもらうために、実施しました。また、地元から声をあげ、行動することで、放置船対策へ、国がもっと積極的に関わってくれるよう、報道機関などから世論を高めて戴けるように繋げるのも大きな目的でした。

ドラムカンの説明をする場面を取材する報道関係者
ドラムカンの説明をする場面を取材する報道関係者=香純さん撮影
朝日新聞の須田記者にインタビューされる女子生徒。「いいべ深浦」の山本さんが見守った
朝日新聞の須田記者にインタビューされる女子生徒。「いいべ深浦」の山本さんが見守った=香純さん撮影

テレビ局は、地元の青森朝日放送やATV青森テレビ。新聞各社は、地元の東奥日報、全国紙の毎日新聞、朝日新聞などが取り上げて下さいました。ありがとうございました。参加してくれた深浦校舎の生徒たちからは、「世界遺産は、ブナ林だけが大切なのではない。恵み豊かな海が早く返ってきてほしい」、「もし、税金が撤去に使われるなら、苦労している親を見ているので、やりきれない」、などの意見が出て、手ごたえを感じています。できれば、船が持ち主の責任で撤去されるまで、活動を続けたいと考えています。みなさまもご支援戴きますよう、お願い申し上げます。

座礁船が放置された浜で清掃と環境学習をすることで、この問題を理解できた、と感想を述べてくれた
座礁船が放置された浜で清掃と環境学習をすることで、この問題の意味を理解できた、と感想を述べてくれた
働き者の男子生徒
働き者の男子生徒=香純さん撮影

しっかり者の女子生徒

しっかり者の女子生徒

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