「白神山地の生き物たち」で紹介している希少種のシノリガモ。それを深浦町で生まれ育った小学6年生の女子児童たちが、毎週のように観察を続けています。メンバーは、上杉かえでさん、菊池理花さん、棟方みなみさんの3人。昨秋から調査を始めて、初夏に念願のヒナが誕生。今も成長記録をとりながら、子育てを見守っています。母鳥に連れられたヒナたちは、清流でスクスクと育っていますが、3人の子どもたちも驚異的な頑張りで、急成長を遂げています。このシリーズでは、大切な観察仲間になっている、子どもたちの話をお届けします。今回の記事と写真は、哲二が担当します。
この子たちと出会ったきっかけは昨年の春、庭に入れる砂利を海辺で集めている時でした。3人の内の一人、かえでさんが、「おじさん、何をしてるの?」と、近寄ってきたのです。それ以来、海辺で出会うたびに砂利集めを手伝ってくれ、我が家にも遊びに来るようになりました。そこで、壁に掛けてあった白神の動物写真を見て、「私も見に行きたい」とお願いされたのです。
写真を撮影したのは、クマが頻繁に出てくるような森。とても危なくて連れては行けません。何かいい題材はないかなぁ、と思案をめぐらし、私たちが観察を続けていたシノリガモの事を思いつきました。が、残念ながら、そのシーズンの子育ては終わったばかり。あー、これを見せてやれば良かったなぁ、とかえでさんに話すと、「すっごい、見たかった。来年も来るの?。もし来たら、一緒に観察したい」と熱い眼で迫ってきました。
繁殖行動が、まだ深く解明されていない絶滅の危機にある地域個体群なので、数年間は調査しようと考えていた鳥です。よし、それならば来年と言わず、すぐに調査と観察をやってみる?、と投げかけると、「絶対やる」と二つ返事。で、「友だちを連れてきてもいい」との更なる積極的な提案。それで参加してくれたのが、理花さんとみなみさんです。
3人は深浦町立いわさき小学校の同級生。保育園の時から、ずっと同じクラスだった大の仲良しトリオです。この時から、元気いっぱいの楽しい観察会が始まりました。集まるのは授業がない週末でしたが、学校が早く終わった時も駆けつけてくれ、日没寸前まで一緒に海や川を見回りました。
シノリガモは冬場、カムチャッカ半島やアリューシャン列島などから飛来。越冬後、春の訪れと共に、もと来た北の国へ戻ってゆきます。強靭な体力と耐寒性を持った海ガモで、冬の日本海の荒波に揉まれても、平気な顔で海中に潜って餌を摂っています。それが、波の花が飛び交うぐらいに時化て大荒れになった時、比較的静かな港へ集団で避難してきます。3人はその時に初めて実物のシノリガモと対面しました。
その感想は、「可愛いー。なんて綺麗な模様‥。家に連れて帰りたい!」と三者三様の叫び。気温は氷点下、風速が15mを越える吹きっさらしの港です。寒さのせいで、3人とも顔を真っ赤にしながらも、双眼鏡をのぞき続けます。誰一人、寒いから帰りたい、なんて弱音を吐かず、粉雪が混じる強風に向かって立ち続けていました。
鳥の姿が見えないときは、気温、風速、水温、透明度などを細かに記録。真冬の吹雪の時も、積雪が1m近い河原へ降りて、雪に埋もれながらも調査を続けます。3人とも私たち夫婦のように分厚い肉布団は着込んでいませんので、体が芯まで冷え切ります。でも、シノリガモの夫婦が、川へ上がってきてくれることを信じて頑張り続けました。
そして今春、地元の港に30羽近くいた群れの大半が、北へ戻ってゆきました。そのまま観察を続けていると、何と3組のカップルが、川に遡上してきたのです。昨年は2組でしたが、今年は子どもたちの思いに応えるかのような鳥の行動です。ワクワクするのと同時に、身が引き締まりました。子どもたちも同じ気持ちでしょう。果たしてきちんと観察できるのでしょうか‥。
子どもたちが好きな調査の一つに、月に1回行う水生昆虫の採集と分類があります。最初は、川の石の裏に付いた虫の姿を怖がっていましたが、最近は、なぜか大好きに。採集を予定していないのに、水温を測る時も探して持ってくるので、閉口する時があります。いつか水着になって、思う存分採集したいのだそうです。川の水は、夏でも結構冷たいんだけどなぁ。
その結果、河口から100㍍も遡らない場所で、山奥の渓流と同じくらいの量と種類が棲息していることが判ってきました。それは、この川の水が綺麗なのと、流域に素晴らしい自然環境が残されている証と考えられます。シノリガモが毎年、子育てをしにくるはずです。
ただ、シノリガモの姿がこの川で見られるようになったのは、6~7年前からだそうです。周辺で畑仕事などをするお年寄りたちが、幾度となく目撃していました。それまでは、まったく見かけなかったと口を揃えます。なぜ、最近になって来るようになったのでしょうか。子どもたちと一緒に聞き取りをしたお年寄りの話に、謎を解くヒントがありました。
それは、過疎や高齢化、減反政策などによって、川の流域にあった水田が無くなり、農薬が流れ込まなくなったことと関係しているのかも知れません。田が消滅して10年も経たないで、シノリガモが来るようになったと言うお年寄りがいたからです。それと同時に、世界自然遺産に登録された当時、押しかけていた渓流釣り師の数が、最近どんどん減ってきたのも、理由の一つと話される方もいます。直接川に立ち入る人がいなくなって、子育てしやすい環境になったという訳です。
いずれにせよ、この地域で生まれ、ここに住んで農林水産業を営んでこられた方々の実体験に基づく話なので、重みがあります。参考にさせて戴きながら、今後の調査、研究に活かせたら、と子どもたちと話し合っています。大好きになった水生昆虫の採集が、「なぜシノリガモが古里の川で子育てをするのか」を考え、答えを探すきっかけになってくれたようです。証言して下さったお祖父ちゃん、お祖母ちゃん、そして、虫くんたち、ありがとうございます。
長くなりそうなので、第2部に続けることにしました。これから、観察日記として、随時更新してゆくつもりです。皆さま、子どもたちに、応援や励ましの声をお願いいたします。HP上で、コメントを戴いたり、「いいね」を押して下さるのが、何よりの励みとなるようです。そして、「IT難民」なので、ツイッターなどに参加できていませんが、こんなダメダメ夫婦にもお声掛け下さい。老眼で目をショボショボさせながらも、毎日パソコンに立ち向かい、何とか操作していますので。ご支援の程を。
★第二部へ続く
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