白神山地に通い始めて、今年で20年が過ぎました。新聞記者時代を含めて毎年欠かさず、世界自然遺産の山々を歩き回りました。そして、2010年秋に移住して以来も、必ず足を踏み入れたのが、二級河川の「笹内川」周辺です。イワナ釣りを始め、峡谷でキャンプしたり、キノコを採ったり、楽しい思い出が溢れる素晴らしい渓流でした。
が、気になる災害が、毎年のように、この川の風景を変えていました。それは、風水害などによる土砂崩れです。2002年には、支流の三つ目沢が向白神岳の斜面ごと大崩落し、その復旧工事に10年以上の歳月が費やされました。そして、心配な存在が、そうした土砂崩れや大水などで流れ出した流木です。
急峻な山と、深い峡谷が連続する白神山地は、春先から梅雨時にかけて、融雪雪崩や台風による大雨などで流木が数多く出ます。美しい渓流の中洲や渓畔林などには、枝と根がついたままの巨大な倒木が、いくつも転がっているのです。
これらの流木が流れ出すと、堤防を削って道路を崩壊させたり、橋などに引っ掛かって川を塞き止めたりする、危険な存在になります。さらに海へ流出すると、航行する船舶と衝突し、沈没などの事故を発生させる原因になることもあります。
そんな流出木を回収し、細かく切り刻んで町内の観光地「十二湖」の遊歩道に敷き詰める事業を開始しました。実行するのは、深浦町のマタギ・伊勢勇一親方らと青森県立木造高校・深浦校舎(笹浩一郎・校長)の生徒たちです。
白神の森に詳しい親方から、流出した木の種類や特徴などを教えてもらいながら、木を切る作業を手伝い、刻まれたチップを「青池」周辺などに撒く予定です。
高校生らの仕事は、チェーンソーなどを使った危険なものではなく、細かく玉切りした木の運搬を手伝ったり、刻んだチップを撒いたりする安全な作業。この活動を通して、河川やその周辺の生態系と防災を学ぶ、「環境、防災教育の場」を作るのを目的にしています。
これまで、町内の観光地に敷かれていた木材チップは、秋田県などの業者から町が購入して撒いていたもので、白神山地の植物以外の木も含まれているのでは、と指摘されていました。他地域産のチップは、外来種の種や病害虫などを持ち込む可能性があるため、白神の生態系に影響が出ることを心配する声もあります。
でも、白神山地を源とする川から流れ出た木を使うならば、まさに地元産。観光地のダメージを和らげる施策も、できる限り地産地消を追求するのが、世界自然遺産の麓の町に課せられた使命である、と町役場(吉田満町長)が全面的に協業して下さっています。
そして、河川を管理する県鰺ヶ沢道路河川事業所(鰺ヶ沢町)が、昨年まで、業者などに委託して処分していた流木や不要な雑木を無償で譲って下さることになりました。さらに、深浦町の建設業者「ホリエイ」さんと、「三浦建設」さんが、笹内川沿いの災害防除工事で切り出した木材を、「チップ用に」と、これも無償で提供して下さっています。
そのうえ、ありがたいことに、チップの製材業者・鈴光さん(秋田県能代市、鈴木英雄・代表取締役)が、流木を細かく刻む作業をボランティアでお手伝いしたい、と申し出て下さいました。白神の自然保護を願う高校生らの想いが、大人たちの心も動かしたようです。
世界自然遺産から出た流木や、捨てられる運命にあった伐採木も、立派な資源として役に立つときが来ました。海へ流れ出して暴れたり、ゴミとして処分されたりしてきた厄介者に、新たな働き口が見つかったのです。それは、地元の高校生と地域の皆さん、行政機関、民間業者が、手を携えて頑張ることから生まれました。
今回の事業を始めるにあたって、吉田満・深浦町長を始め、役場の「町づくり戦略室(松沢公博室長)」や関係各部署、青森県の「鰺ヶ沢道路河川事業所」、林野庁の「つがる森林管理署」の皆さんから、全面的な協力と支援を戴いています。
7月2日には、全校生徒が笹内川で流木を集めて運搬し、チップにする第1回目の作業をします。白神の山を知り尽くした「マタギ」の指導を受け、高校生が世界自然遺産の森で働きながら学ぶ「環境と防災教育」をぜひ成功させたいです。皆さん、応援して下さい。
読売新聞の地域版に掲載されました
http://www.yomiuri.co.jp/local/aomori/news/20140620-OYTNT50592.html
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