みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
白神山地の生き物たち「トウホクノウサギ」

白神山地の生き物たち「トウホクノウサギ」

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昨年12月、例年に比べまとまった雪が降るのが早かったので、まだ完全に保護色にならないまま登場。歌舞伎役者のようなお化粧

昨年12月、例年に比べまとまった雪が降るのが早かったので、まだ完全に保護色にならないまま登場。歌舞伎役者のようなお化粧

20年前に白神を訪ねた時は、西目屋と旧岩崎村をつなぐ弘西林道に夜間、ピョンピョンと飛び出してきたトウホクノウサギ。親子連れを車で轢きそうになり、夫が急ブレーキをかけていた覚えがあります。ウサギの宝庫だなぁ、とその時は感じたのですが、その後、十数年間、森の中でほとんど見かけなくなり、雪上に残る足跡も、稀に見る程度でした。ウサギを狩る狩猟者たちも、「最近、見ねえなぁ」と訝り、ちょっと可哀想な脚のバター焼きもあまり食卓にのぼらなくなりました。

夏の夜、遊歩道を猛ダッシュ。早すぎてストロボの光でも止めることができなかった

夏の夜、遊歩道を猛ダッシュ。早すぎてストロボの光でも止めることができなかった

それが昨年から、自動撮影のロボットカメラの前に、ちょくちょくと顔を見せてくれるようになりました。猛然と駆け抜ける個体もあれば、トコトコと歩く子もいます。カメラやセンサーの不具合による暴発で、まったく何も写っていないコマが時たまあるのですが、ウサギが猛スピードで駆け抜けた時も捉えきれずに、何も写っていないことがありました。センサーとシャッターのライムラグが少ない一眼レフを導入して、初めてお尻や脚の一部が写ったことから判りました。まさに森のスピードスターです。

降り積もった雪の上をトコトコ歩くトウホクノウサギ。ストロボの光にも動じていない

降り積もった雪の上をトコトコ歩くトウホクノウサギ。ストロボの光にも動じていない

冬は耳の先を残して真っ白に毛並みを変えます。雪深い地方にあわせた保護色のようです。ニホンノウサギは、国内でキュウシュウノウサギ、サドノウサギ、オキノウサギの計4亜種に分けるとされています。が、日照時間や気温で毛色が変化し、分布域の境界も不明瞭なため、本州内でトウホクノウサギだけを亜種とする説には疑問を唱える声もあるようです。

紅葉が真っ盛りの11月初旬、落ち葉の上を駆け抜けていった。色はまだ茶褐色のまま

紅葉が真っ盛りの11月初旬、落ち葉の上を駆け抜けていった。色はまだ茶褐色のまま

 

晩秋の11月末に降った雪の上を駆け抜ける。同じ場所で撮影したが同一個体かどうかは不明

晩秋の11月末に降った雪の上を駆け抜ける。同じ場所で撮影したが同一個体かどうかは不明

後ろ足で地面を蹴る力は相当強いようで、雪上に残された足跡も後ろ足の窪みが大きくて深いです。ウサギの足跡は、最も特徴があるので他の動物と簡単に識別が付きます。

雪上を走るまだら模様の個体。この時期のウサギはフクフクしていて、とても愛らしい

雪上を走るまだら模様の個体。この時期のウサギはフクフクしていて、とても愛らしい

中低山の草原や森の中に生息しており、群れは作らないようです。夜行性で、昼間は藪の中や木の根元などに隠れて休んでおり、白神の森を歩いても見つけ出すのは困難です。特定の巣は持たないようで、ねぐらを中心に半径約400mの範囲で行動すると言われ、大雪の朝は特徴のある足跡が縦横に残っています。餌は植物で、草の芽や葉、時には樹皮も食べるようです。私たちの自宅の庭にも時折訪れており、その跡をたどるのが雪に閉じ込められる冬場の楽しみのひとつです。

初春の「木の根開き(きのねあき)」。白神山地ではウサギが隠れていそうな立木の根っこの部分から雪が溶け始める

初春の「木の根開き(きのねあき)」。白神山地ではウサギが隠れていそうな立木の根っこの部分から雪が溶け始める

※「木の根開き」とは、立ち木のまわりの雪がいち早く溶けることで、雪国の春を告げる現象です。春が近づいて日差しが強くなってくると、木の生命活動も活発になり、光合成を行い、水もたくさん吸い上げるようになります。すると、幹は雪の温度より高くなり、木のまわりの雪が融けると言われています。雪と木の色の違いによる太陽熱の反射率も関係しているようです。

北国では冬から夏に、暖かい地域は一年中、繁殖するようです。1回に数頭の子供を出産します。赤ちゃんウサギは、生後間もなく自力で餌を食べ始め、約1ヶ月で独立するといわれます。寿命は4年を超えることはないそうで、意外に短命です。

春先の5月にカメラの前を通過した個体。素人なので老若の判定は難しい

春先の5月にカメラの前を通過した個体。素人なので老若の判定は難しい

「昔は1回の巻狩りで、十数羽捕れたのになぁ」と、白神でウサギ狩りをされるマタギが語ります。ウサギの主な天敵は、テンやキツネに猛禽類などです。それらの数が特別に増えたという報告はありませんので、ウサギの数が減った理由は、林道の開発や森林の伐採などによる環境破壊が大きな要因を占めていると思われます。戦中戦後の森林伐採、弘西林道や頓挫した青秋林道工事など、手つかずの自然が残っていた白神山地にも数々の開発が進められてきました。ウサギの増減は森の健全度を計るひとつのバロメーターかもしれません。それを証明すべく、自動撮影を続けていきます。(律) 

晩秋の遊歩道を駆け抜ける。この時期のウサギの色が一番好き

晩秋の遊歩道を駆け抜ける。この時期のウサギの色が一番好き

 

 

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コメント

  • より:

    はじめまして。
    浜口さんがお撮りになった「トウホクノウサギの走るまだら模様の固体」の写真をお借りすることはできますでしょうか?ご連絡先が分からずこちらに連絡させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

    • hamatetsu より:

      弘さま

      返信が遅れましたことお詫びいたします。
      メールアドレスへ返信いたしました。
      ご確認ください。

  • 滝口さん より:

    はじめまして
    雪の上のトウホクのウサギの写真を探しています
    「走るまだら模様の個体。この時期のウサギはフクフクしていて、とても愛らしい」の写真がとてもよいのですが、お借りすることはできますでしょうか?

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