盛夏も過ぎ、白神の動物たちも、再び活発に動き始めました。森の中の自動撮影装置に写る回数も増え、保守点検に行くのが楽しみです。ある日のこと、撮った画像を家に持ち帰ってチェックしていたら、「おっ、アナグマの親子が写っているぞ」と、夫の嬉しそうな声。パソコンに駆け寄ると、仲良く数頭が歩いています。今までも、最も数多く登場してくれたアナグマたち。ついに家族ができたんだ、良かったね、とコマを進めて驚きました。
なんと、ごっそりと毛が抜けた個体がいます。下半身を中心に、地肌が透けて見えるほどに。痛々しくて、息をのんでしまいました。群れでカメラの前を横切るので、何度も写っています。画像を詳しく見ると、どうもメスのようです。一家のお母さんでしょうか。はっきりした病名は、捕らえて診断しないとわかりませんが、まだらな毛の抜け具合などからみて、疥癬(かいせん)ではないかと思われます。
疥癬は、野生動物をはじめ、犬や猫などのペットもかかる皮膚病の一種です。ヒゼンダニの仲間の非常に小さなダニが、体表に寄生することでおこります。ダニは、表皮を食い荒らし、皮膚の中にトンネルを掘って産卵、増殖するので、非常にかゆいのが特徴です。寄生された動物は体をかきむしるため、脱毛や感染症を起こし、弱って死んでしまう個体もいます。
少し場所は違いますが、以前にも、同じように毛が抜けて衰弱したタヌキが写っていたことがありました。何度かカメラの前に現れたあと、消えてしまいました。人知れず最期を迎えたものだと思われます。疥癬は感染力が強く、ウサギやニホンカモシカにも罹患した例が報告されています。北海道では、疥癬の流行によってキツネの生息数が局地的に減少した、という調査結果も残っています。人も、このダニに寄生されると羅患しますが、野生動物から感染したことは、これまで確認されていないようです。
とても仲が良さそうなアナグマの親子。それだけに、次々と家族に感染していかないか心配です。白神の森は、これから日増しに寒くなって行きます。動物たちにも、厳しい季節が到来します。特にアナグマは、冬眠を前にたっぷりと栄養を取り、冬毛を生やして、脂肪を蓄えねばなりません。大丈夫かなぁ、このお母さん。ペットだったら、薬をつけたり、清潔にしてやったりして治療してやれるのに、野生動物には私たちが簡単に手を出せません。自然の中で、どう変化してゆくのかを見守るしかないのです。
豊かな自然が残る白神の森の動物たちに、どこから疥癬のダニが伝播したのか。人に連れられてくるペットから感染したのでしょうか。それとも、民家に近づきすぎて、飼われている犬やネコから感染したのかもしれません。今の私たちには判別できません。ただ、山の動物たちに、どうぞこの病気が蔓延しませんように願っています。私たちも、自動撮影を続けながら、見守ってゆきます。
アカハナグマ、先ほど亡くなりました。
ありがとうございました。