みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
●豊饒の海に流れ着いた厄介者

豊饒の海に流れ着いた厄介者

座礁したカンボジア船籍の貨物船。後方には雪を被った白神の山々が見える、深浦町で
座礁したカンボジア船籍の貨物船。後方には雪を被った白神の山々が見える、深浦町で

3月の始め、世界遺産・白神山地から日本海へ流れ込む笹内川の河口に、カンボジア船籍の貨物船「AN FENG8」(アンファン号)(乗組員12人)が座礁しました。約2000トン程の貨物船です。秋田港で1日に積荷をおろした後、北海道の室蘭港に向けて出港したそうです。折しも、座礁した深浦町沖は、暴風雪・波浪警報が発令されていた大シケの海。10メートル近い波と強風が吹き荒れ、空荷の船が航行するには、誰もが首を傾げるほどの天候だったそうです。

船橋に人影が見えたがカメラを向けると隠れてしまった

船橋に人影が見えたがカメラを向けると隠れてしまった

幸いにも、深浦消防署の岩崎分署と海上本庁の職員らが決死の救出を試みて、全員が無事に救助されました。でも、翌日には、船の燃料であるC重油が、笹内川河口付近の海岸線に流失しているのが確認されました。この海は、アワビやサザエ、タコなどの魚貝類やサケも水揚げされる豊饒の海で、地域の方々は口々に不安と早期の対策を訴えています。町では吉田満町長を本部長とする「アンファン号座礁対策本部」を設置。流出した油の除去や船の早期撤去に向けて行動を開始しました。

座礁した貨物船の横で空を見上げながら天候を心配する伊勢親方

座礁した貨物船の横で空を見上げながら天候を心配する伊勢親方

この座礁船の近くの浜には、深浦町の「マタギ」・伊勢勇一親方のご自宅があります。親方はこの浜で毎朝、飼い犬の散歩を兼ねた採集作業を日課とされており、巨大な樽イカ(ソデイカの一種)やタコなどを幾度となく拾っています。座礁船のおかげで、「危険だから」と規制を受けて、浜にも近づけなくなった伊勢親方と一緒に現場を歩きました

座礁船を背に海岸線を歩く親方。事故当時は、重油の刺激臭が充満し、マスクをしないで歩くのが苦痛だったという

座礁船を背に海岸線を歩く親方。事故当時は、重油の刺激臭が充満し、マスクをしないで歩くのが苦痛だったという

浜に出た途端、作業員と町の関係者が駆け寄ってきて、「危険だから立ち去れ」と、警告を受けました。でも、親方にとっては、この浜は日課として毎朝、欠かさず歩く場所。釈然としないまま、船から離れた場所で作業を見守ります。現場では、流出した重油が拡散しないようにするためのオイルフェンスの設置や、船内に残されている重油の抜き取りを進めようとしていますが、強風と高波で、作業は思うように捗っていません

油が流出した時の拡散を心配する親方。この海で夏はタコを獲り、冬はイカを拾う。魚も釣るし海藻も採取する。まさに生活の糧を得る場

油が流出した時の拡散を心配する親方。この海で夏はタコを獲り、冬はイカを拾う。魚も釣るし海藻も採取する。まさに生活の糧を得る場

漏れ出た重油の量はそう多くなかったようで、現在は海岸を歩いてもまったく匂いません。が、船が座礁した当時は、顔をしかめる程の刺激臭が、集落全体を覆い、道を歩くのが苦痛だった、と親方は振り返ります。

座礁した貨物船を繋ぎとめていた鎖。強風と高波で断ち切られてしまった

座礁した貨物船を繋ぎとめていた鎖。強風と高波で断ち切られてしまった

そして、現場に係留されていた座礁船ですが、強風に煽られて係留していたロープを断ち切り、南の秋田方面に向けて移動しています。その都度、ロープで縛り付けていますが、また大荒れの天候になると、転覆したり、そのまま漂流したりする可能性もあります。1997年に日本海で沈没し、多量の重油を流出させたナホトカ号の事故を思い起こします。この貨物船はタンカーではないので、あれほどの惨事にはなり難いと想定されていますが、燃料であるC重油が全部流出してしまうと、周辺の海へ与える影響は微少とは言い切れません。

早く撤去してもらわないと生活に影響が出る、と憤る伊勢親方。もう50年間以上、この浜で獲物を拾って暮らしてきた。白神の山から流れ出た栄養分をたっぷりと含んだ水が作った豊饒の海。親方の海だ

早く撤去してもらわないと生活に影響が出る、と憤る伊勢親方。もう50年間以上、この浜で獲物を拾って暮らしてきた。白神の山から流れ出た栄養分をたっぷりと含んだ水が作った豊饒の海。親方の海だ

船主は中国人で、乗組員はベトナム人が多数を占めていると発表されています。全員が無事で何よりでしたが、船が事故を起こした時のために契約していた保険会社との話し合いが進展していないらしく、油の除去や抜き取り、船体の撤去作業などは遅々として進んでいないようです。事故から約3週間、保険金が「降りる、降りない」の問答を繰り返すだけの当事者たちに不信感が募るよ、と対策を講じる役場関係者がつぶやいていました

新聞記者時代、座礁したまま何十年も放置されたままの北朝鮮船籍の船や中国船籍の船を取材しました。結局、船主は何の処置もしないまま、行政が税金を使って処理させられていました。今回もそんな例にならないことを祈ります。親方らが安心して浜を歩けるようにするため、市町村だけでなく国からの手助けも必要だと感じました。特に最近、何かにつけて傲慢な中国が相手ですから。

また、進展があれば、経過報告いたします。(哲)