みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
●山菜の宝庫・白神山地③

山菜の宝庫・白神山地③(ネマガリダケ、ミズ、シドケ)

例年より発生が遅いネマガリダケ。サイズも小さめだ

例年より発生が遅いネマガリダケ。サイズも小さめだ

白神山地も6月の声を聞くと、一気に初夏の様相を迎えます。山頂の雪解けも進み、麓の里山の緑が日増しに濃くなってきました。「ぼちぼち、タケノコ出てるんでねえか。行ってみるべ」。伊勢親方の号令のもと、友人と一緒にタケノコ採りに繰り出しました。タケノコ、といっても一般に知られている孟宗竹や真竹などのタケノコではありません。この地方では「ネマガリダケ」と呼ばれていますが、チシマザサという笹タケノコで、大人の指ぐらいの太さの可愛らしいサイズです。

包丁で表皮に切れ目を入れて剥く

包丁で表皮に切れ目を入れて剥く

このタケノコ採り、とても楽しいのですが、命に関わる危険と表裏一体な面も持ち合わせています。ネマガリダケは、成長すると高さが3メートルにもなる大型のササ。たくさん収穫するためには、山中に群生している、人の背丈よりも遥かに高い笹薮に分け入らなくてはなりません。足もとに生えているタケノコを、前かがみで一本、また一本と折って歩くうちに、連れの人からはぐれ、元来た道を見失ってしまうことが多々あります。こうして行方不明になって捜索される騒ぎが、毎年、必ず発生しています。私たちも、初めての場所には携帯用の「GPS」を持って行くことがあるほどです。それほどチシマザサの林は迷いやすい場所なのです。

表皮を剥くとツルンとしたタケノコの地肌が見えてくる

表皮を剥くとツルンとしたタケノコの地肌が見えてくる

そして、最も怖いのがツキノワグマとの遭遇です。ネマガリダケはクマの大好物。時には笹薮内にどっかりと腰を下ろし、手の届く範囲のものを食べまくっています。大抵は、クマの方が人の接近に気づいて逃げてくれますが、風に揺れる笹薮は音を吸収し、遠方からの見通しもよくありません。人もクマもお互いが夢中になるあまり、鉢合わせし、びっくりして襲い掛かられる事故が、東北・北海道の各地で報告されています。幸い私たちは鉢合わせの経験はありません。でも、直前までクマが座って食べていた跡は何度も目撃しています。蒸れたようなクマの独特な体臭、きれいに剥かれたタケノコの皮、大量のフン‥。森の恵みを分け合う者同士、細心の注意を払って不幸な事態は避けたいものです。

節の硬い部分は捨てる

節の硬い部分は捨てる

今年はタケノコ採りのシーズンに、都会から友人が来訪しました。夫の新聞記者時代の元同僚で、インドネシア内乱の取材や原爆の被爆者を追う企画を一緒に担当した仕事仲間だそうです。二人共現役の新聞記者。日々発生する事件事故を取材しながら、社会問題もしっかりと追い続けていらっしゃいます。「過酷な日常を離れて、白神に癒されにおいでよ」との誘いに応じ、遥々大阪から訪ねてきてくれました。

大阪から訪ねてきてくれた仲間たちと、和気合い合いと作業する

大阪から訪ねてきてくれた仲間たちと、和気合い合いと作業する

女性記者は昨年、深浦の名産「つるつるわかめ」を勤めている全国紙に掲載してくれました。それで、関西方面からの注文がどっと増えたそうです。男性記者は、紛争地や地球環境取材のエキスパートで、潜水取材も指導者になれるキャリアを持っています。そんな二人を春の山菜採りに案内しました。当然、深浦町の「マタギ」伊勢親方も一緒です。今回は里山レベルの場所でしたが、ウド、シドケ、アイコ、ミズ、ネマガリダケなどを収穫。二人共、出会った山菜のほとんどが初めてで、下処理から調理までをひと通り体験してゆきました。

つるつるわかめを全国紙に紹介してくれた後輩の女性記者。白神と深浦の大ファンになってくれている

ご近所のワンちゃんと戯れる女性記者。白神山地と深浦町が気に入って、何度も訪ねてきてくれる

二人に感想を聞くと、「最高の楽しさ、最高の心地よさ。1ヶ月分ぐらいの緑を見て、めちゃくちゃリフレッシュした」そうです。良かった、満足して頂けて。今年は白神山地が世界自然遺産に指定されて20年を迎えます。これを機に、ぜひ白神の人や自然を新聞紙面などで取り上げて戴きたいものです。私たち夫婦の申し出に、二人はにっこり笑って「検討させてください」、と期待が持てる意味深な回答。ぜひ頑張って欲しいな。

タケノコを剥きながら、親方のトボけた会話に大ウケする仲間たち。何よりも楽しいひと時

タケノコを剥きながら、親方のトボけた会話に大ウケする仲間たち。何よりも楽しいひと時

タケノコ以外にも、山菜の女王と呼ばれる「シドケ(和名:モミジガサ)」も採れました。お浸しにすると、山の緑を思いっきり口に含んだような青臭さが広がって、独特の癖がある美味しい山菜です。お隣の秋田県の方々が、これを目当てに白神の山奥にまで目の色を変えて来ています。一度に大量に採れないので、林道で秋田の人と出会うと、目的地が同じではないかと、お互いが自然と駆け足のようになって先を急ぎます。そんな時にも、「先に行かせて、ゆっくりと採らせてやれ」と余裕の伊勢親方。他にも秘密の場所をたくさん知っているからです。ゆえにシドケは、毎年、不自由したことがありません。

シドケ(モミジガサ)も大量に採れた

シドケ(モミジガサ)も大量に採れた

そして、ミズ(和名:ウワバミソウ)。晩春から夏に旬を迎える山菜で、皮を剥いて茎の部分を食べます。粘り気があり、ご近所のおばあちゃんらは、お浸しやタタキ、漬物などにしています。特に辛子醤油や生姜醤油などに漬け込んで食べると美味で、東北地方には無くてはならない山菜のひとつです。ただ、自生する場所によって味が違う、と伊勢親方は言います。山歩きの道中、ミズが大量に生えていても、美味しくない場所にあるものは見向きもしないで通り過ぎます。私が摘もうとしゃがみこむと、「あー、そこのはやめとけ。もっといい場所があるから、な」との声が。ホント、勉強になります。

これからの季節、旬を迎えるミズ(ウワバミソウ)も出始めた

これからの季節、旬を迎えるミズ(ウワバミソウ)も出始めた

今から15年ほど前に、深浦町を流れる笹内川の上流でキャンプしていた時のことです。テントの前で、採取したミズの皮を剥いていると、大きなリュックを背負った初老の男性に、「やー、大漁ですな」と話し掛けられました。笑顔を返すと、そのまま山奥の方へ向かわれましたが、日没後も山から下って来ません。深浦町に住む友人と周辺を捜すと、何と川の堰に引っかかって、水面にうつ伏せで浮いています。すぐに岸辺へ寄せて、人工呼吸などで蘇生を試みましたが、残念ながら事切れていました。

水に晒すと茎がシャキっとなる

収穫後、水に晒すと茎がシャキっとなる

日もとっぷりと暮れ、鰺ヶ沢署からお巡りさん数人が駆けつけて、現場検証が始まりました。新月の夜、山中は漆黒の闇です。その上、お巡りさんたちの持つ懐中電灯が頼りないったらありません。遺体がある堰の岸辺から、林道までは3~4mの高さがあったのですが、遺体の引き揚げ作業もままならず、仕方なく夫が大光量のランタンを手にお手伝いに行きました。

茎の根の部分から小さく折りながら皮を剥く

茎の根の部分から小さく折りながら皮を剥く

さあ、それで困ったのがキャンプサイトで留守番の私です。メインの照明は無くなり、おでこに着けているヘッドライト型懐中電灯がぼんやり灯るのみになりました。夫も居ないし、すぐ近くで人が亡くなったのですから、心細い。しばらくすると、足元や周辺の茂みから、「カサカサ、コソコソ」と小さなザワめきが。「えー、なによ!怖い‥」と、恐る恐る光をあててみると、小さなヒメネズミくんたちが膝丈ぐらいの草に昇って私を見上げています。「あ、可愛い‥」。ホッとすると同時に、一緒に夫を待つ仲間ができて、安心感が。ありがとう、ネズミくんたち。ミズは、そんな出来事を思い起こさせてくれる山菜です。

タケノコ、タラの芽、ウドの若芽、コゴミを天ぷらに

タケノコ、タラの芽、ウドの若芽、コゴミなどを天ぷらに

さて、今回収穫したものを天ぷらにしてみました。まず、タラの芽とウドの若芽から。少々トゲトゲが付いていても、若芽ならば揚げれば問題ありません。タラの芽の味は、ホロ苦さとこってり感が入り混じった濃厚なもの。ウドの若芽は、サッパリ感が強調されます。どちらも美味です、最高です、と新聞記者の仲間は叫んでます。そして、タケノコ。西日本で有名な孟宗竹とは、まったく違う味や食感で、サクサクとした歯触りと笹の独特の風味があります。これも、美味しい、と大好評。青森、秋田の日本酒とも最高に合うようで、あっという間に、一升瓶が空になりました。

あまりの美味しさに揚がった途端に箸が伸びるので、撮影している暇がない。食べなきゃ!

あまりの美味しさに揚がった途端に箸が伸びるので、撮影している暇がない。食べなきゃ!

西日本に住んでいると、東北の生活文化に触れることは稀です。特に本州最北端である青森県の風土や食文化が、これほど豊かだったとは考えも尽きませんでした。訪ねてきてくれた仲間たちも、まったくの同意見。そう、縄文時代から続く白神山地周辺での暮らしが、どれだけ素晴らしい物だったかをお互い再認識したのです。今回は山菜採りでしたが、次は秋のキノコ採り。親方と歩く狩猟も経験したいと話してくれました。そして、日本海の水中も、ぜひカメラで覗いてみたいと意欲満々です。白神山地の素晴らしい自然と、そこで暮らす人たちの伝統的な生活文化を、良い形で日本全国に伝えて頂けたら、と期待しています。帰り際に夫が、「じゃ、頼んだよ」と送り出しました。よろしくお願いしますね、頼りになる後輩くんたち。