みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方⑥‐「歓喜のマイタケ狩り」

深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方⑥‐「歓喜のマイタケ狩り」

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紅葉した木々に彩られる赤石川。まさに世界遺産の絶景だ(昨秋撮影)=鰺ヶ沢町で

紅葉した木々に彩られる赤石川。まさに世界遺産の絶景だ(昨秋撮影)=鰺ヶ沢町で

笹内川に覆いかぶさる紅葉した樹々=深浦町で

笹内川に覆いかぶさる紅葉した樹々=深浦町で

白神山地に秋の気配が漂ってきました。自宅で寝ていても、朝晩、寒くて、少し分厚い布団を被らないと安眠できません。空の色も真っ青な秋色に変わり、夕暮れには赤とんぼが舞い飛んでいます。山々が徐々に色付き始める頃、親方が動き始めます。そう、秋は深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方の力が、最大限に発揮される季節なのです。

ブナやイタヤカエデなどの紅葉した木々に彩られた森=鰺ヶ沢町で

紅葉したブナやイタヤカエデなど木々に彩られた森=鰺ヶ沢町で

クマやアナグマなどの獲物は、この時期、冬眠のためにたっぷりと食べて、脂が乗ってきます。猟期に入り、木々の葉っぱが落ちる頃、親方は鉄砲を担いで山々を歩きまわります。そしてクマを見つけたら、すぐに仲間を招集します。決して、ひとりでクマを撃とうとしません。必ず、信頼が置ける猟友会のメンバーを集めて仕事をします。それは、若いメンバーに経験を積ませるためと、絶対に事故を起こさないためにです。クマ狩りは危険と隣り合わせだからです。

色付いたブナ

色付いたブナ

色づいたブナの木越しの木漏れ日

色づいたブナの木越しの木漏れ日

そして、秋といえばキノコ。ブナなどの広葉樹の朽木や倒木に、花が咲いたように生えてきます。特に9月に入ると親方の目の色が変わってきます。キノコの王様「マイタケ」が出てくるからです。これは、サルノコシカケ科の食菌で、主にミズナラの木の根元などに生えてきます。まれに桜の木にも出ることがあるといいます。

ミズナラの木の根付近に出たマイタケ=場所は秘密

ミズナラの木の根付近に出たマイタケ=場所は秘密

木下の岩場に出たマイタケ

木下の岩場に出たマイタケ

その名の由来は、見つけた人が喜びのあまり、舞い踊るから、舞茸(マイタケ)と名付けられたとされているそうです。ご多分に漏れず、私たちも初めて見つけたときは、大歓声を上げてはしゃいでしまいました。親方によると、このマイタケ。色によって幾つか種類が分けられています。白葉、茶葉、黒葉の3種類。黒葉が肉厚で、最も美味しくて価値があるとされています。

ミズナラの巨木の脇に出たマイタケと伊勢親方

ミズナラの巨木の脇に出たマイタケと伊勢親方

素晴らしい味と香りのキノコなのですが、実は見つけるのがたいへん難しいとされています。それは、100本ミズナラの木があれば、その内の1本に出るか出ないかの確率だからです。そして、岩が多い、険しい地形にある木の根付近に出ていることが多く、そこまでたどり着くのも容易ではありません。親方と一緒に歩いた夫が、「俺、マイタケも欲しいけど、命が惜しいわ‥」とビビるぐらいです。

マイタケを手に取る親方

マイタケを手に取る親方

情けない発言なのですが、私の同行が許されないぐらい厳しい所なので、黙って聞かざるを得ません。まぁ、普段から、後先を考えずに突撃する夫とは思えないぐらいの弱気発言なので、よほど恐ろしかったのでしょう。崖から落ちて、死んでしまったら元も子もないので、マイタケ狩りだけは決して無理をしないように、言い含めてあります。

崖にぶら下がってマイタケを収穫する親方

崖にぶら下がってマイタケを収穫する親方

去年は豊作だったマイタケですが、今年も期待が持てそうです。親方は、「雨が多かったし、冷え込みも早い。楽しみだびょん」と、燃え上がった目で呟きます。また、太りすぎの夫も連れられて、ヒイヒイ言いながら急斜面を登っていくのでしょう。お願いだから、落ちないでね。ホント、死ぬ高さだからね。

このキノコは、通称「カノカ」(ブナハリタケ)。香り高く、美味。すき焼きや油炒めに最適

このキノコは、通称「カノカ」(ブナハリタケ)。香り高く、美味。すき焼きや油炒めに最適

さて、このマイタケ。頻繁に手に入るキノコではないのですが、採れるときには一度に40~50kgも収穫できる時があります。それは、同じ木の周りに5~6株も出ていることがあるからです。でも、他の雑菌に弱いとされており、不用意に木の周りを歩き回ってたり、幼菌に息を吹きかけたりしても、ダメになることがあると言い伝えられています。

雪を被って凍りついたナメコ。溶かせば美味しく戴ける

雪を被って凍りついたナメコ。溶かせば美味しく戴ける

そして、刃物の使用も厳禁だそうです。ゆえに親方は、手で摘み採ったり、落ちている枝を削って地面から掘り起こしたりして、収穫します。普段は優しい親方ですが、ことマイタケになると、厳しい決まりを私たちにも課してきます。それほど、重要な存在なのでしょう。

皮をむくのが面倒だが、とても美味しいムキタケ。少しヌルヌルした食感

皮をむくのが面倒だが、とても美味しいムキタケ。少しヌルヌルした食感

香りも味も抜群の食菌。調理の王道は、やはり天ぷらでしょう。歯ごたえが良く、噛むと紅葉のブナ林の香りと芳醇な味が口一杯に広がります。市販されている養殖物とは、全くの別物。素晴らしい!。まさにキノコの王様です。更に、食物繊維がたっぷりで、ビタミンB2やD2も豊富に含まれていることから、ガンや成人病予防にも効果があるとされています。ダイエット効果もあるそうですが、たくさん手に入る訳でもないので、デブっちょ夫婦の変身アイテムとしては難しそうです。

マイタケの大収穫で、得意そうな親方

大収穫だったマイタケの前で、得意そうな親方

そうこうしている内に、また親方から連絡が来ました。「おーい、そろそろ『◎◎◎』に行くぞ。もう出ているかも知れんし。早くいかんと、敏捷い奴らにやられるぞ」。親方が知るマイタケの木は何本あるのか判りません。100本を遥かに超えていそうですが、詳しい話はうやむやです。

収穫したマイタケの一部を手に持ってキノコ狩りメンバーで記念撮影

収穫したマイタケの一部を手に持ってキノコ狩りメンバーで記念撮影

マイタケは、出る木の存在を家族にも知らせずに墓場まで持ってゆく、とされる幻のキノコですから、その場所も木も大切にされているのでしょう。「オラが死んだ後は、お前らが木を引き継ぐんだぞ」と仰ってくださいます。とても嬉しいお話です。キノコを手に入れることよりも、そこまで信頼して戴けるのが何よりもの幸せです。親方、できればその意志を引き継いでゆく所存です。

手で持ちきれないほどの株。厳しい親方の表情も緩む

手で持ちきれないほどの株。厳しい親方の表情も緩む

でも、そんなに早く死ぬと言わないで、長生きしてください。まず、目標は100歳ですね。そして、90歳までは一緒に山を歩きましょう。毎年、不老不死の妙薬マイタケを食べていれば、それも可能ですよ。じゃ、そろそろ例の場所へ行きましょうか。え、どこかって?。(ΦωΦ)フフフ…。当然、秘密ですよ。

次はナメコとナラタケのシリーズをお届けする予定

次はナメコとナラタケのシリーズをお届けする予定

 

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