みらいを紡ぐボランティア

ジャーナリスト・浜田哲二と学生によるボランティア活動

青森県深浦町の小さな集落     
②深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方(第2部)

②深浦町の「マタギ」伊勢勇一親方(第2部)

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薬莢笛hp

深浦町のマタギ・伊勢親方の続きです=写真上、ライフル銃の薬莢を笛がわりにして飼い犬を呼ぶ伊勢親方、深浦町で

四目ナメコ③hp

親方の暮らしは、その季節ごとに得られる山の幸、海の幸と密接に関係しています=写真上、紅葉が真っ盛りの白神の森で、巨大なイタヤカエデの倒木についたナメコを収穫する親方、深浦町で。冬場はウサギやカモ類などの狩猟鳥獣、春はタラの芽やアイコ(ミヤマイラクサ)、タケノコ(ネマガリダケ)などの山菜、夏場は海辺で釣れるタコや山菜のミズ(ウワバミソウ)、秋はブナ林に生えるキノコや狩猟鳥獣のカモやクマなどです=写真下、カッターナイフでナメコを収穫する。石づきの部分を切り落とす手間を省くため、山中で丁寧に作業する。切り口が雑だと、翌年、生えてこないこともある

ナメコ収穫hp

台風などによる強風や大雨、厳冬期の吹雪でない限り、ほぼ毎日のように山や海へ出かけていきます。大病を患ったための通院日や地域の会合がある日はお休みしますが、時間が許す限り生活習慣のように足が向くそうです。でも、親方は車の免許を所持していないため、自転車か徒歩でしか行けません。行き先は様々ですが、最も遠い所は自動車でも片道30分以上は費やされるので、自転車だと往復で4~5時間はゆうにかかります。舗装された道だったら急な坂道でも自転車で登りきり、後は森林伐採の杣夫が使う歩道やマタギ道を歩きます。よほどのことがない限り、日帰りしますので、山で宿泊する道具は持って行きません。でも、山で野宿するのはへっちゃらなようで、山にある材料で小屋掛けも出来るし、雨の中でも焚き火を起こして煮炊きできる、と話されます(現在の白神山地周辺では、焚き火は規制されています)=写真下、雪が積もった急斜面を登る。一歩間違うと、谷底まで滑落し、命の保障はない

雪の斜面を登るhp

親方と一緒に輪カンジキを足に取り付けて、雪山を歩いてみました。患う前は、重い銃と銃弾、鉈やロープなど数十キロの荷物を背負っても、雪山を飛ぶように走れたそうです。地元の猟師たちも、「当時の伊勢にはついて行けなかった」と口を揃えます。それが今、山は歩けるようになりましたが、左足を引きずる後遺症が残っており、ゆっくりとしか進むことが出来ません。それでも、慣れていない私たちが、ようやくついて行けるスピードです。いざ一緒に歩くと、どっしりとした歩調ながら、一歩一歩を確実に刻んで行くので、思った以上の速さに驚かされます。体重が重すぎる夫はカンジキが合っていないせいか、足が何度も雪に中に沈み、喘ぎながら汗まみれでついて来ます。私も夫ほどではないですが、時々、カンジキごと雪の中に沈みこみ、思うように前に進めません。それが親方は、長年、山を歩き続けたマタギの成せる技なのでしょうか、雲の上を歩く仙人のように真っ白な雪の上を歩いていきます=写真下、私たちが追いつくのを待ってくれるため一服しながらブナの巨木を見上げる親方。とても心優しく、頼れる存在だ

春の雪山⑤hp

ブナなどの広葉樹からなる白神山地の冬は、一部の植栽されてある場所を除き、まったく緑が見当たりません。一面の雪景色とグレーや黒っぽい冬枯れの木々が茂るだけの男性的な風景です。でも、天気が良い日は空が真っ青です。北国の冬の青空が、こんなに澄んだ素晴らしい色だと初めて知りました。そして、あまり強くない太陽の光が、真っ白な雪のキャンパスの上に木々の影を作り、大自然の白と黒を見事なコントラストで表現しています=写真下、真っ青な空に向かって枝を張るブナの巨木。その下の写真は、春先に立木の下から雪が溶けてゆく「木の根空き」と呼ばれる現象。白と黒の陰影が美しい模様を描き出している

ブナ初春①hp

初春の雪山③hp

そんな雪山で親方が狙うのはウサギです。足跡などをよく見かけるカモシカは、国特別天然記念物に指定されているため、当然、獲ることはできません。時にはヤマドリも撃てますが、冬場の獲物はウサギが中心になります。本来は、複数の仲間たちを勢子と撃ち手に分けて巻狩りをします。でも、過疎化と高齢化で狩猟者が減ってきている今、単独で行くしかありません。ウサギの足跡を追跡し、大木の下や茂みに隠れているのを見つけては仕留めていきます。効率が悪い猟法なのですが、時の流れはいかんともしがたいようです=写真下、真っ白に彩られたブナの林で、木々を見上げる親方。その下の写真は、春はまだ遠く、枝は冬枯れたままだ

春の雪山③hp

ブナ初春④hp

今年は、例年になく雪が多い年でした。その為なのか、ウサギはあまり獲れなかったようです。会う度の挨拶事のように、「まいねな年だびょん(今年はダメだったなぁ)」と愚痴られますが、獲物は山や海からの授かり物なので、実際は泰然と受け止められています。そして、自然から様々な糧を得られるのは、この森と海のおかげだ、と時折、呟かれます。それほど白神山地は、恵み豊かな命に満ち溢れた森であるようです=写真下、雪上には動物以外は何の足跡も残っていない森を歩く親方

雪山でhp

長く厳しい冬が終わり、間もなく白神の山々に春が訪れそうです。親方の活動も活発化してきます。冬枯れの林床に、可愛いフキノトウが顔を出し始めています。その後は、コゴミやタラの芽などの山菜の収穫時が訪れます。そして、ツキノワグマの害獣駆除を依頼されれば、初春の山へ向かいます。親方は今年で74歳。もう、鉄砲を置いては、という声が一部からあったようですが、まだまだ山では若い人に引けは取らない、と意気込んでおられます。私たちも、親方の命ある限り、白神に生きる一人のマタギの人生を追い続けるつもりです=写真下、約14~5年前、雪が降り積もった牧場を歩く親方。ウサギの痕跡を探しに来た。その下の写真は、雪景色となった原野で生き物の痕跡を探す親方。少し年老いたが、まだまだ元気。後方は白神の山々(3部に続く)

長慶平hp

大峰山hp

 

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